トップへ

「インディアナポリスは昔の鈴鹿130Rが4つあるような感覚」。佐藤琢磨と松田秀士が緊急対談

2017年07月06日 13:52  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

佐藤琢磨と松田秀士がスペシャル対談を行った
5月28日に決勝レースが行われた第101回インディアナポリス500で日本人初の優勝を飾った佐藤琢磨と、1990年代に何度もインディ500へ挑戦した松田秀士がスペシャル対談を行った。

 この対談は7月7日に発売される『佐藤琢磨 勝利への道』の企画のひとつとして行われたもの。ここでは、オーバルレースの特殊さを語った対談内容の一部をお届けする。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

松田秀士:8年前に初めてインディカー、特にオーバルに特化したときに、初めて走ったコースはどこでしたか。

佐藤琢磨:カンザスだったと思います。

松田:どう感じましたか。

琢磨:もう『すごいな』と思いましたね。350㎞/hくらいでアクセル全開のままバンクに飛び込んでいくというセンセーショナルな感覚はF1でもなかったし、今まで乗ったどのマシンにもないスピード感だし、本当にすごかったんですよ。

 またちょっと怖さもありました。というのは、クルマを感じ取れなかったんです。オーバルは初体験だったので、アンダーステアもオーバーステアも分からなかったし、特にヘッドパッドに頭を預けて走るという経験がなかったので。それをやると、クルマの感覚が半分くらい消えてしまうんですよ。かといって、首を立てられるようなGフォースじゃなくて。パットがなかったら数周が限界ですよね。

 それで、少ない情報量で少しずつクルマを感じることに慣れていくしかないんです。でもそこで難しいのが、ロードコースのように“リヤが出たから、カウンターを切ってクルマの姿勢も修正していこう”ってできないじゃないですか。オーバルでリヤが出ると修正は本当に大変だし、大抵の場合はその一瞬でスピンして壁にいってしまう。

 だからその感覚を掴むまで相当時間がかかりましたね。しかもそれは単独で走っている時の話で、ここにトラフィックが入ってきて、タービュランスが出てきたら、2倍も3倍も難しくなる。オーバルは攻略するのにものすごく時間がかかりましたね。

松田:オーバルをモノにした、と感じられたのはいつぐらいですか。

琢磨:結局まだモノにできていないと思います。でも今回のインディ500優勝でひとつ制したな、という感じはありますよね。オーバルの初優勝でしたから。ただそれまでも、アイオワ(2011年)でポールポジションだとか『オーバルで最速というのは、こういう感覚なんだ』というのは知っていた。オーバルは新たに学ぶことがたくさんあるけど、最終的には4つのタイヤをどう使うか、という意味では一緒なわけです。

 空気の流れを感じ取りながら、2台、時には3台以上が横並びになってハイスピードバトルを繰り広げていく。それは楽しかった。すごく楽しいと感じたのが最初のオーバルのレースだった。

 それこそカンザスでは、残念ながら(武藤)英紀と当たっちゃいましたけど。あのレースは彼とふたりで5位、6位だったのかな、オーバルデビューの時から、けっこうな手応えは感じていました。シーズン100%はさすがにメンタル的にキツいと思うけれど、年に6戦くらいだと、すごくワクワクできましたね。

松田:そのあとインディアナポリス・モータースピードウェイに行くわけですが、インディを走ってどう思いましたか。

琢磨:インディアナポリスはオーバルという感覚じゃないような気がしました。ロードコースの、それこそ鈴鹿の昔の130Rが4つある、みたいな。これは『好きだな』と。オーバル独自の特殊なテクニックは、むしろいらないというか。インディ500のレースは2ワイド、3ワイドになって外から仕掛ける、というものでもない。

 フォンタナ(よく混戦となるスーパースピードウェイ)のレースとかとは全然違うでしょう。逆に、僕としてはロードコースの感覚でいけるから、楽しめると同時に、パッケージさえ揃えばいけるだろうな、というのはずっと思っていました。

松田:僕が初めて走ったのは、テキサス・ワールドスピードウェイだった。今のテキサス・モータースピードウェイとは違って、ものすごく田舎の古いコースで、バンクが28度ぐらいついている。路面はガタガタで、トンネルを抜けるところがこんもりしている。

 あそこに行った瞬間にマシンの底が当たって擦って、Gがあるから血液が下がって、目の前が真っ白になってしまう。それが初めての経験だった。『恐ろしい』と、まずそこで感じた。そんな経験をしてからインディへ行ったらもう、なんと走りやすいコースかと!

琢磨:そう! やっぱりスムースですよね。スムースだし、グリップ感がすごく高いし。確かに走りやすいですね。

松田:バンクがそれほどキツくないというのも大きいと思います。最初のオーバルを走ったときはまったく余裕がなくて、とにかく走ることで精一杯だった。91年ぐらいまでF3000に乗っていたから、富士(スピードウェイ)のストレートエンドがだいたい300㎞/h出るかどうか、という世界。実はね、その風圧がどんなもんだろうと、そこで手を挙げてみたことが何度かあるんですよ。

琢磨:ははは、ホントですか?

松田:それでインディに行った時に、370~380㎞/hだから、また『どんなもんだろう』と思って手を出してみたの。そしたら腕がもげそうになった。

琢磨:脱臼しますよ!

松田:それで『あ、これは大変だ』と思った。そういうの、試したことある?

琢磨:あります、あります。マシンのウインドシールドにタイヤかすが挟まっちゃったんです。それを取ろうとして、手を出した瞬間に、もう腕が後ろに持っていかれちゃって。『すごいな!』と思って、シールドによじ登るように手を這わせたら、なんとか取れたんです。

 あと今回のインディ500では、レースの最中にミラーのステーに、紙が挟まったんです。それを取ろうと思って手を出したら、届かなかった。風で押し戻されちゃって。

松田:あはは、分かります。

琢磨:『うわー、どうしよう、でもヒラヒラして目につくな』と思っていたら、何かの拍子に飛んでいってくれたのでよかったですけど、手で取ろうと思っても“ブワ!”という感じで飛ばされて手が届かない。

松田:気になるよね。インディは人がいっぱい来るから、かなりの埃とか紙くずが舞うんだよね。あれが入るとペラペラするんだ。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 7月7日発売の『佐藤琢磨 勝利への道』では、このほかF1との違い、フェルナンド・アロンソについて、そして勝利の鍵を握ったマシンセッティングの秘密など、経験者同士だからこそ語ることができる濃厚な対談を収録。

 もちろん、インディウィークの完全レビューを始め、関係者やライバルからの祝福コメント、凱旋帰国の密着レポート、インディ参戦8年間の記憶に残る10レースなども収録しており、琢磨の偉大な勝利を、さまざまな企画、切り口で1冊にまとめている。

■佐藤琢磨 勝利への道~インディ500 日本人初制覇の日~
2017年7月7日(金)発売 1,296円+税
【おもな内容】
佐藤琢磨からのメッセージ&スピーチ
プラクティス~予選~決勝の激走を完全レポート
佐藤琢磨×松田秀士 スペシャル対談
関係者、ライバルからの祝福の声
凱旋帰国密着レポート
記憶に残る10レース
インディ転向から8年間の苦悩と葛藤
インディ500と日本人
GAORA実況室、大興奮の舞台裏
歴代マシングラフィティ
第101回インディ500スーパーデータ集 他

【三栄書房の通信販売】
http://www.sun-a.com/magazine/detail.php?pid=9632

【Amazon】


【電子版】
http://www.as-books.jp

 オープン記念キャンペーン中の定額制サービス『ASBデジタルライブラリ(http://lib.as-books.jp/news/)』なら、初月無料で読み放題!