2017年07月06日 10:23 弁護士ドットコム
ACジャパンの広告キャンペーン「苦情殺到!桃太郎」が話題になっている。川での洗濯中、流れてきた桃を拾ったおばあさんに対し、批判の声が殺到するという、SNSでの炎上やクソリプを風刺した内容だ。
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おばあさんを次々に襲うクレームの中には、「窃盗だろw」や「警察に届けないの?」「懲役何年?」といったものもある。
そもそも、こうしたクレームは的を射たものなのだろうか。西口竜司弁護士に聞いた。
「かなり衝撃的な広告ですね。時代の流れを感じざるをえませんね」と西口弁護士。
川に流れてきた桃を拾ったら何らかの罪になるのだろうか。
「桃自体は、桃の落とし主のものになります。桃をとってしまうと落とし主の占有を害しますので、確かに窃盗罪(刑法235条)になってしまう可能性があります。誰かの家の木になっているような場合も同じです。CMの中で『懲役何年?』とありますが、10年以下の懲役または50万円以下の罰金になります。
ただし、しばらく川を流れてきたような場合、占有が及んでいないと考えられ、占有離脱物横領罪(刑法254条)になります。こちらは1年以下の懲役または10万円以下の罰金、もしくは科料(金額は1000~9999円)です」
では、おばあさんはどうすれば良かったのだろうか。
「財布を拾った場合と同様に警察に届け出ないといけません。警察には桃自体を届けることになります。桃とは違う別のものが流れてきても、基本的には桃の場合と同じですね」
どうやらCMのコメント通りらしい。法律上は1円玉を拾ったとしても、落とした本人か警察に渡さないといけないことになっているのだという。
「とはいえ、こんな夢のない話をしても仕方ないですね。桃太郎が鬼を退治しておじいさん、おばあさんが幸せになる方が夢がありますよね。そもそも、山になっている桃が流れてきたのであれば、犯罪は成立しないでしょう」
ある一面では「正論」だからこそ、いろいろな人が便乗して炎上になるのだろう。しかし、おおらかな心をもって、「桃」がどこからきたかなどに想像を巡らせれば、寄ってたかって激しい言葉を投げかけなくても済むのかもしれない。
「(CMの)美輪明宏さんのナレーションの通りで、声を荒げる前に、少しだけ考えてみませんか?」と西口弁護士は話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。SASUKE2015本戦にも参戦した。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/