友の敵は自分の敵……フェラーリ vs メルセデス
近年、稀に見る2対2のマッチレースに注目
第30回オーストリアGPを前に、7月3日で30歳になったセバスチャン・ベッテル、果たしてFIAからどのような“誕生日プレゼント”があるのか。6月28日、アゼルバイジャンGPでのルイス・ハミルトンとの接触事件に関する再調査が発表され、このイベントまでに結論が出される予定だ。
レース中に科せられたペナルティで一件落着とはならず、終了後から関係者やメディアの間で波紋が広がった。現在ポイントリーダーであり、4冠王がとった行動だから問題視されることになった。だが、各方面のさまざまな反応は“アンチ・ベッテル派”と“親ベッテル派”間の論争にエスカレートしたような気がする。過去の言動にまでさかのぼる批判が噴出、誤解をおそれずに言うなら、まるで「ベッテルが○か×か、人気投票(?)」のよう。
これを書く今はFIAの判断を待つしかないが、どういった裁定になるにせよ予測できることがある。この第9戦からベッテル対ハミルトン個人戦と、フェラーリ対メルセデス団体戦の“バトル濃度”は2乗倍に高まる──。
受けて立つのはフェラーリ。首位ベッテルをガードするためのミッションを、現在ランキング5位のキミ・ライコネンは自ら進んで実行するだろう。彼自身も前戦で、バルテリ・ボッタスに“体当たり攻撃”を受けた。それはハミルトンが49km/hで受けた衝撃より甚大だったのに、ノー・ペナルティとなった判定に不満がでる。当てられても、自分から当てることはほとんどない最年長者の心理は容易に想像がつく。
熱くなるアイスマン。セブ&キミのダブルスコンビ関係からしても、“対メルセデス”戦闘意識は強まろう。友の敵は自分の敵だ。さらに、こうも考えられる。チームプレイヤーに徹する意志が強く、加入したばかりで単年契約のボッタスは、自分とチームのためにもより攻撃的になるだろう(あのバクーのターン2よりも)。今回の一件が、彼ら新旧“フライングフィン”の闘争心もかき立てる。
F1ならではの総力戦、2対2のマッチレースを2000年代以降ほとんど見ることはなかった。1980年代のマクラーレン対フェラーリ、90年代のベネトン対ウイリアムズ……。リアルタイムでご覧になっていた方は、思い出せるのではないか。近年、見たことがなかった方にも緑美しいチロルの麓から口火を切る、今週のF1総力戦を目に実像化してほしい。
■今宮純が厳選するF1第9戦オーストリアGP 6つの見どころ
■キャッチポイント1
有名なスパ・ウェザーと同じ、ここシュピールベルグ地方も寒暖差が大きい。朝晩10℃以下の日もあれば、日中30℃近い日もある。この温度差(路面温度)がフリー走行で得た事前データを狂わせる。現場タイヤ担当エンジニアには難しいレースのひとつ。
■キャッチポイント2
レッドブルリンク開催4年目、毎年どこかで雨が落ちている。14年FP1、15年FP3、16年FP2と予選Q2、Q3。濡れ乾きコンディションにインターからドライへ、その混乱に乗じたニコ・ヒュルケンベルグが予選3位、ジェンソン・バトンが5位をさらった。
■キャッチポイント3
ウルトラソフト最多10セット選択はフォース・インディアとマクラーレンだけ、彼らの狙いは分かる。このコースに強いウイリアムズに的をしぼるフォース・インディアは予選重視。
メルセデス・ユーザー同士の気鋭エステバン・オコンと躍進ランス・ストロール、ともに急上昇中だけに注目ボーイズだ。マクラーレンはウルトラソフトを履いた時の新パワーユニット“予選モード設定”をきめ細かく構築、新スペック投入と連動した考え方。インフィールド・コーナーのセクター2を攻め切りたい。
■キャッチポイント4
フェラーリはウルトラ7セット、メルセデスより1セット少ない。その分、スーパーソフト(高温作動型)をベッテル最多5セット、ライコネン4セット選択。レースペースでライバルに迫り、勝機を見い出す戦術だろう。
■キャッチポイント5
新舗装された昨年は、サスペンショントラブルが多発。FP1マックス・フェルスタッペン、FP3ニコ・ロズベルグ、Q1ダニール・クビアトとセルジオ・ペレス。コーナー速度が上がり、縁石を多用する際の“高周波振動”発生が原因。その対策はどうか。現時点では不明だが、コース改修の有無も気になる要素……。
■キャッチポイント6
モナコに次ぐ2番目ショートサーキット、高低差はスパに次ぐ2番目の63.5m(これはピサの斜塔と同じ)。ジェットコースターのような高速コースを、旧エステルライヒリンク時代に自走し、思い知った。レッドブルリンクに変わりやや低速化されたものの、平坦なコーナーはなく、上り下り勾配でのブレーキングが難しい特徴はそのまま。60年代クラッシックコースの名残あるレイアウト、今年も見応えあるオーバーテイクを期待したい。