僕はオタクだ。プラモデルやらお菓子のおまけやら、無節操に色々なものを蒐集している。当然それらは大事なコレクション。自分の趣味で集めた品々なのだから、もしも仮に誰かに盗まれたり、捨てられたりすれば、本気で怒ることになるだろう。オタクの恨みは根深いのだ。
さて、7月1日に放送された「今日で捨てましょう!」(テレビ東京)という番組の、あるシーンがSNS上で非難轟々となっている。(文:松本ミゾレ)
狭いマンション暮らしで未組み立て状態の大量のガンプラ
この番組の趣旨は、家庭の不用品を処分するというもの。昨今話題の断捨離を意識してるんだろう。ところが、所有者本人でもないのに、勝手に家族が「実はいらないものがあるんです~」という流れになってしまったシーンがあった。
40代の女性とその娘さん2人が、偶然番組のロケに出くわし、夫の持っているガンプラを処分して欲しいと要求したのだ。
ガンプラは夫の所有物なので、番組は、妻子と一緒に仕事中の夫のもとを尋ねて、ガンプラを処分していいかどうか質問することになった。
さて、問題のガンプラは、未組み立て状態のまま。つまり箱から出してすらいない。せっかくのプラモデルなんだから、さっさと組み立てて楽しめばいいのに……と思うんだけど、本人曰く「子供と作るために買ったけど、いずれ自分で組み立てる」とのこと。
しかし、この一家の住まいにカメラが入ってみれば、特に広くもない小さなマンション。ただでさえ狭いのに、何年も放置されているガンプラがいくつもあるという状況なので、たしかに家族が処分をお願いしたくなる気持ちもわかる。
独身男性の一人暮らしならそれでもいいんだろうけど、戸建てならまだしも、マンション暮らしでこう家族に不満を抱かせるのはちょっと大人としてどうか。
ところがツイッターなどの反応を見ていると、「私だったら(ガンプラを処分されたら)暴れる」や「人の趣味をどうこう言うもんじゃない」など、案外夫に肩入れする意見が多い。
そりゃまあ、夫の了承を得ずに私物を捨てようとするのは明らかにダメな一手なんだけど、カメラが映し出す狭い家を見たら、そんな禁じ手を繰り出したくなる気持ちも分かるよ……。
「俺が死ぬまで捨てないで」夫の気持ちもわかるけど…
番組の構成上必要な絵だったのだろう。夫婦はガンプラの処遇を巡って軽く口論をしてしまうんだけど、このとき妻が「夫が死んだらただのゴミ」とガンプラを指して発言している一幕がある。
これに対して夫は「(俺が)死ぬまで持っててよ」と、苦笑いをしつつ返すのだ。結局夫は、捨てる・捨てないの決断を迫られた挙句「お任せします」とだけ言って処分を許してしまった。これには正直「あ、捨てていいんだ……」と拍子抜けしてしまった。本当にガンプラが好きなら、そこは曲げないだろうし。
ところで、夫が長年組み立てずに保管していたガンプラは、SDガンダムシリーズのプラモデル「BB戦士」と呼ばれるものの形式を継承したもの。初代プレイステーション用の「Gジェネレーション」というゲームソフトがリリースされていた時期に、関連商品として売られていたものと記憶している。
当初はほとんど初期BB戦士の型を使い回しにしていて、一部新規造形パーツが同梱されていた程度だったんだけど、徐々に完全新規の型のものも出回るようになった。長らく手にすることができなかったものの、この形式で再販されたケンプファーは思い出深い。
こういう人はどっちにしろ組み立てない可能性が高い
それにしても、箱はかさばるが完成品は案外小さいので、もしかしたらちゃんと組み立てておけば妻子から処分を要求されるほど目立たずに済んだのではないか? という気もしてしまう。
再販分も未だに見かけるが、もしもこの夫が問題のガンプラを新商品として出回った当時に購入していたとすれば、10年以上そのままにしていたということになる。
「老後の楽しみ」として、手をつけずにそのままにしていると語っていたけど、大体にしてプラモデルを購入して10年近く放置する人というのは、それから先も手をつける可能性なんか高くないだろう。
プラモデルは組み立てて楽しむもの。組み立ててしまえば邪魔な箱も捨てることができるし、家も片付く。家が片付けば同居している家族が、その分広々とスペースを活用できる。
その気になれば今の時代、貸しガレージとかもあるんだから、毎月数千円でも払ってそこにプラモデルを保管しておけばいいだけの話。自分の趣味で妻や子供に嫌な顔をされる50代の男性の終始見せる苦笑いに対して、つい画面越しに「笑えないよ」とつぶやいてしまった。なにより、何年も箱の中から出されなかった挙句、今回処分されたガンプラが本当に可哀想だ。