2017年07月03日 10:33 弁護士ドットコム
「ノルマ未達成なら自腹で補填してもらう、これはパワハラに該当しませんか?」。アルバイトの男性が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにこんな相談を寄せています。
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男性は「責任代行者」という肩書きで働いていますが、アルバイトです。しかし、会社がノルマが未達成の場合は自腹補填するように迫って来たといいます。さらに「自腹補填は社則で決まっている。責任者代行をしないのであれば、シフトにいれない」と言われ、週6勤務だったところを週2まで削られてしまいました。
さらに、この会社では、労働組合の加入資格は正社員のみ。アルバイトの相談者は入れないそうです。アルバイトに「ノルマ未達成なら自腹補填」というルールは法的に有効なのでしょうか。江上裕之弁護士に聞きました。
ノルマ未達成の場合に自腹で補填させるというルールは、労基法16条で厳格に禁止されています。厳格に禁止というのは違反すれば刑事罰(労基法119条1号)が科される、つまり犯罪として扱われるということです。
雇用契約の内容は、通常は使用者が一方的に決定するものですから、その中で「ノルマ未達成なら自腹補填ルール」と盛り込もうという考えも出てくるのです。しかし、労働法はこうした使用者の一方的な決定を抑制するために発展してきた法理です。その一つが労基法16条のいう賠償予定額の禁止で、これにより「ノルマ未達成の場合に自腹で補填」という悪質なルールは解消できるはずなのです。
では、このような問題に対して、労働組合への加入でどう対処できるのか、考えてみましょう。労働組合の加入資格は労働組合自身が決めてよいことになっています。そのため、労働組合の加入資格は正社員に限るということは法的に認められていますし、実際にそのような組合は相当多いです。ですから正社員以外は「この会社の労働組合」の援助を受けることはできません。
しかし、意外かもしれませんが「この会社の労働組合」じゃなくても、「個人加盟できる労働組合」に加入したり、自分で労働組合を起ち上げたりすれば、「労働組合」としての活動を始めることができます。
アルバイトの男性には、さっそく「相談したら自腹補填は違法ということでしたよ」、「今までどおり週6日のシフトにいれてください」と掛け合ってほしいところです。それでも会社側は会社のルールだから、と耳を貸さないかもしれません。ただ労働者の方には、個人加盟できる労働組合や労基署、代理人弁護士を通じての請求など、意外と安価で強力な手段がそろっています。仕事のことでお悩みなら、弁護士に相談してみてください。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
江上 裕之(えがみ・ひろゆき)弁護士
日本労働弁護団・九州労働弁護団所属。主な取り扱い分野は労働問題と医療問題で、平成24年からは公益社団法人全国労働基準関係団体連合会の委託を受けて、全基連の主催する個別労働紛争処理研修の講師も務めている。
事務所名:岡部・江上法律事務所