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『進撃の巨人 Season2』で描かれた“友情”と“裏切り” 悪役にも感情移入させる心理描写の妙

2017年07月01日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先日放送を終えた、アニメ『進撃の巨人Season2』。新たな敵である獣の巨人の登場に始まり、毎話見逃せない展開が繰り広げられるなか、特に大きなテーマとなっていたのは“友情”と“裏切り”ではないだろうか。


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 エレンたちと訓練兵時代から苦楽を共にしてきたアニ。そんな彼女が女型の巨人だと発覚したところで、アニメ1期は幕を閉じた。“信頼していた仲間の裏切り”というこの結末は、さらなる内通者の存在が露見する2期の展開を示唆していたように思える。


 2期の序盤で、調査兵団はウトガルド城で巨人に攻め込まれる。絶体絶命のピンチのなか、まず巨人化を遂げたのがユミルだった。それまではあまり存在感のなかったユミルと、その親友であるクリスタ。このふたりが突如キーマンとして浮かび上がり、彼女たちの友情にスポットライトが当てられた。


 自分と生い立ちが似ていたことから、最初は興味本位でクリスタに近づいたユミル。しかし、クリスタの優しさや純真さに触れるにつれ、彼女を守りたいと強く感じるようになっていく。クリスタも、巨人化したユミルの姿を見て多少動揺はしたもののも、変わらず彼女の味方でい続けることを選んだ。ユミルにはアニのような敵対意識は見られなかったため、兵団からもすぐさま“裏切り”とはみなされず、エレンと同じように人類サイドにつく味方かもしれないと希望的観測が持たれていた。


 そうして迎えた31話では、鎧の巨人と超大型巨人の正体がライナーとベルトルトだと明かされる。壁の中に住む人類の生命を脅かした張本人でありながら、3年もの間兵団に身を置いてきたライナーたち。彼らは“故郷”と呼ばれる壁の外から送られてきた戦士で、使命を持って残虐な破壊行為を重ねていたのだ。しかし、壁の中で兵士として長い時間を過ごすうちに、だんだんと人類に情が湧いてしまう。そして、いつしかライナーは良心の呵責から兵士として演じてきた偽りの人格に囚われるようになっていった。徐々に二重人格化していくライナーと、それを心配そうに見守るベルトルトの伏線は、原作以上に巧妙に描かれていたように思う。


 特に、原作でのベルトルトはもう少し冷徹なイメージがあったが、アニメではかなり感情豊かな印象を受けた。本来は悪役である彼らの葛藤や揺れる心情が丁寧に描写されることで、キャラが一層引き立ち、見ていて思わず感情移入してしまう。エレンもエレンで、ライナーたちが裏切り者かもしれないとわかってからも、最後まで健気にふたりを信じようとする。だからこそ、原作を読んで彼らの正体がわかっていても、31話でふたりがエレンと対峙するシーンは涙なしには見られなかった。


 最終話では、クリスタに「ごめんね」と別れを告げ、ライナーたちについていく道を選んだユミル。彼らが壁を破らなければ、ユミルは自意識のない巨人のままずっと壁の外を放浪し続けていたことだろう。「私はただ、その時の借りを返しているだけだよ。お前たちの境遇を知っているのは私だけだしな」と、ユミルは涙を流して空を仰ぐ。最終的に彼女もふたりの“裏切り”に加担することになったのだが、そこには同郷人としての新たな“友情”も芽生えていた。


 このように、2期は派手なアクションやセンセーショナルな人の生き死にというよりも、キャラクターの心の動きがメインに描かれていたのではないだろうか。裏切り行為は一見すると悪だが、裏切る側の心情も丁寧に描くことで、単なる勧善懲悪とは一線を画した重厚感のあるストーリーが生まれる。戦士と兵士、使命と友情のはざまで葛藤していたライナーと同じように、きっと視聴者も“エレンたちを応援したい、でも、いろいろと事情があることを鑑みるとライナーたちも報われてほしい……”と、心が揺らいだのではないだろうか。


 波乱万丈の展開だった2期を終え、早くも2018年に3期のアニメ放送が決定した『進撃の巨人』。1期、2期とアニメ版も期待値以上の出来となっていたので、たとえ原作を読んで展開がわかっていても、放送が楽しみで仕方ない。


■まにょ
ライター(元ミージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。