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「賭ケグルイ」早見沙織×林祐一郎監督インタビュー 蛇喰夢子の"狂気"をいかにして演じたのか?

2017年07月01日 12:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「賭ケグルイ」早見沙織×林祐一郎監督インタビュー 蛇喰夢子の"狂気"をいかにして演じたのか?
月刊「ガンガンJOKER」にて連載中の漫画『賭ケグルイ』がアニメ化し、今夏より放送を開始する。舞台となる私立百花王学園では、放課後になると賭場が立ち生徒同士によるギャンブルが行われる。上流階級の子女が多く通うこの学園では、当たり前のように大金が賭けられ、その成績によって学校ヒエラルキーの階級が決まるのだ。

百花王学園に転入する主人公・蛇喰夢子役を演じるのは早見沙織。見目麗しい外見に反して、リスクを心から楽しむ“賭け狂い”。普段の淑やかな雰囲気と、ギャンブルを愛する二面性を持つキャラクターだ。
そして本作を監督するのは林祐一郎。河本ほむらによる緻密な原作と、漫画作画を担当する尚村透の美麗な世界観を映像で表現する。
放送開始を前に、主演と監督を務めるお二人に制作の裏側を伺った。
[取材・構成=奥村ひとみ]

■純真無垢ゆえの夢子の怖さ

――最初に原作をお読みになった時の感想を教えてください。

早見沙織(以下、早見)
オーディションのタイミングで読ませていただいて、すごくインパクトの強い作品だと思いました。表紙はともすればホラー漫画のように見えますし、ヒヤヒヤしてしまうシーンが多くて「怖い怖い!」と思いながらも、ページをめくる手が止まらずどんどん引き込まれていきました。

林祐一郎監督(以下、林)
僕は普段はまったく漫画を読まない人間なので、漫画を手に取ること自体がまず新鮮でした。僕自身も絵を描く仕事ですから、漫画を読む時はどうしても絵が気になってしまって、お話に集中できないことがあるんです。その点『賭ケグルイ』は、読み応えのあるストーリーに加えて画力も大変高く、勉強になるなぁと思いながら読み進めました。服のシワの付け方など、少ない線でリアリティを表現されていて、1ページの情報量が多く感じられました。


――林監督は主人公・蛇喰夢子を、どんなキャラクターだと捉えましたか?


正直、僕もまだ全体像を掴めていませんし、たぶん最後まで掴めないような気がしています。タイトルの通り夢子は狂人めいたところがあって、周りの人たちは知らないうちに搦め取られていきます。リスクを心から楽しむ性格で、そんな夢子に巻き込まれた人たちはエライ目にあってしまう。夢子の本質は、ちょっと普通の人間離れしすぎたところにあるんだろうと思います。でも声がついて、「夢子ってこういう人なんだ」と気づいた部分もありました。というのも、早見さんのお芝居が予想以上に怖かったんですよ(笑)。


早見
そう言ってもらえて良かったです(笑)。自分で演じていると、怖いのかどうか分からなくなってきちゃって。



あの感じの演技は、まったく予想をしていなかったんです。こういう引き出しもあるのかと驚きました。第1話のクライマックスの夢子のセリフはゾクゾクっときましたね。

早見
怖いと言われると結果的には安心するんですが、怖くしようと思って演じているわけではないんです。夢子にとっては本当に楽しくて、でもそのはしゃいでいる姿が傍から見ると危険というか。無意識のうちに相手を挑発するようなところもあるので、そこは感じが悪くならないように、夢子の純粋な気持ちを大事にしています。

――早見さんは夢子を演じるにあたり、どのようなアプローチをしましたか?

早見
たいてい役を演じる時は、共感するところを見出してセリフを発することが多いんですけど、『賭ケグルイ』は賭け事のお話だし、夢子はギャンブル狂と言われるような人なので、共感を見つけるのが少し難しくて。だから、それらの設定はちょっと横に置いておいて、夢子の純粋な感情に目を向けることにしました。夢子という人間は、悪人ではないんですよ。ただただその場を無垢に楽しんでいるだけで、それはたとえば好きなミュージシャンのことをペラペラしゃべったり、お気に入りのおもちゃでずっと遊んでいたいという気持ちに近いと思います。そういう感情は誰にでもありますよね。




周りからすると恐怖かもしれませんが、夢子にとってはそれが純粋に楽しいことなんですもんね(笑)。

早見
そうなんです(笑)。あと、個人的に少し距離が近くなったと感じたのが、夢子は人を助けることもあるんです。「正義感がある人なんだ! カッコいい!」と思いつつ、でもやっぱり夢子は“賭け狂い”ですから、そのバランスはいつも考えています。

■セリフ回しにも駆け引きがある

――実際にアフレコが始まって、夢子の印象に変化はありましたか?

早見
この作品は長いセリフが多くて、台本4ページにも渡ってずっと一人でしゃべり続けるようなシーンもあるんです。これほどの長セリフは、勢いや感情に任せるとわけがわからなくなってしまうので、絵とお話の流れを見て言葉を引き立てたり、テンションを落としたり。それこそギャンブルみたいに、セリフ回しも駆け引きで作っていくんです。長セリフの場面では監督も様々な提示をくださって、それをヒントに「こういう構成になるんだな」と理解するのですが、夢子の場合は「以前こうだったら、同じように」と思うと、監督から「今回のテーマは違うので、今日はこういう構成にしましょう」と言われるんですよ。夢子にはその日その日のテーマがあって、私はそれがすごく楽しいです。


――同じ夢子なのに毎回テーマが変わるというのは、どのように解釈すればよいのでしょう?

早見
もちろんベースには夢子という人物像がきちんとあるのですが、ある話数では超無邪気モードで子供みたいな夢子だったり、さらに別の話数では聖母のような夢子になったりもするんです。聖母モードひとつ取っても、私が「崖から突き落としてから救い上げるアメとムチ戦法でいこう!」と演技をプランニングしてやってみたら、「最初から包み込むように言ってあげてください」と言われて(笑)。ホントに駆け引きというか、セリフ回しの“あや”みたいなものを感じられて、演じていて面白いですね。



そのあたりは音響監督の藤田亜紀子さんのリードにも助けられています。イメージを伝える語彙が豊富で、いろんな言葉を使ってキャストの皆さんに説明をしてくれます。原作にある独特の表情はこの作品の醍醐味ですが、どう言い表せばいいか分からなくて、僕は絵コンテでもうまく文字に表せないことがけっこうあるんです。藤田さんは「相手に頭からかじりつきたいような気分で」とか、僕が思いもつかないような例えをおっしゃるので勉強になります。


――演技についてキャストでディスカッションされるようなことはありますか?

早見
作品自体が心理戦を描いているところがあるので、事前にキャスト同士で打ち合わせをするというよりは、マイクに立ってからお互いのお芝居を聞いて演じています。監督も藤田さんも、掛け合いの中で変化する演技に対して寛容でいてくださるので、自由に作らせてもらっています。また藤田さんは空間を非常に意識される方で、「このくらいの距離に夢子がいて」というように、舞台のような指示をしてくれるんです。アニメーションは二次元で平面のものですが、立体的な世界を作っている気持ちが強いですね。

――アニメーションの絵作りの面では、どのようなイメージで臨まれましたか?


漫画原作のアニメを監督するのは今回が初めてでして、もとから絵があるものをどのようにアニメにしていこうかな、と考え始めました。この作品の特徴となるギャンブルのシーンは、密室で向かい合うようなシチュエーションが多いので、必然的に激しい動きがあまりありません。僕がこれまでアクションものの作品ばかりに携わってきたというのもあって、逆にこのような限定された空間の中で、どうすれば視聴者を飽きさせずに見せられるだろう? と考えて、視聴者の興味を引き続けられるようにというのを念頭に置きました。シーンのテンポ感や変化球的な絵を使って、とにかく視聴者の集中を途切れさせないように工夫をしています。


――具体的にはどのような工夫があるのでしょうか?


テンポ感の部分で言うと、僕はシナリオを音楽のように捉えていました。ここまでがAメロ、ここからがサビという感じで、リズムの気持ち良さで1話を見切ってもらえるように意識して構成をしています。漫画の数話分がアニメでは1話にまとまっているのですが、各話の終わりとなる“引き”をアニメで全部使おうとすると盛り上がりが連続してしまい、アニメの1話として見るとリズムが悪くなってしまうんです。潔く“引き”の盛り上がりは削って、音楽で言うとサビにあたる、ここぞという山場を作れるようにかなり気をつけています。毎回、見た後にスッキリする感じが大事かなと思っていますね。


早見
私たちがアニメを見る時は、監督がおっしゃるような集中力を途切れさせない工夫を意識することなく受け取りますから、私は第1話を見て自然にグイグイとアニメに引き込まれてすごく楽しかったです。ワクワクして続けて2回見ちゃいました(笑)。

――では最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。

早見
いよいよ放送が始まります。第1話から相当の衝撃を受けていただける内容になっていると思います。原作を読まれている方はもちろんのこと、アニメで初めて『賭ケグルイ』を知る人にも自信を持ってお届けできる作品ですので、是非この世界を楽しんでください。


完成した第1話の映像を見て、当初イメージしていた視聴者を飽きさせないリズム感や映像作りは割と達成できたかなと思っています。しかし、第2話以降はさらに加速していきますよ。テンポ良く、内容も盛りだくさんになっていきますので、最後まで見続けてもらえると嬉しいです。