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SHE’Sが追求する、メロディの美しさ ミニアルバム『Awakening』での“音楽的進化”

2017年06月30日 13:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 去年、1stシングル『Morning Glow』でメジャーデビューした4人組バンドSHE’Sが、今年1月にリリースした1stフルアルバム『プルーストと花束』に続き、ミニアルバム『Awakening』を発売した。


(関連:HOWL BE QUIET 竹縄 × SHE’S 井上、ピアノとロックで繋がる二人が思う“グッドミュージック”


 今作は、SHE’Sの良さであるメロディへのこだわりが存分に発揮されている作品と言えよう。どの曲も旋律が非常に美しく仕上がっている。たとえば2曲目「Over You」は、冒頭の分かり易くキャッチーなストリングスのリフを、主旋律である井上竜馬のボーカルが最初から最後までリフレインするような楽曲構造となっている。具体的には、Bメロの<ストーリーボードを投げ捨てて~>のブロックは、Aメロ<数年前の光景だって~>のブロックから1オクターブ移動しただけのラインでありながら、全体の印象をがらりと変化させることに成功しているのだ。サビも、全く別の発想から作られているのではなく、そのメロディから派生させることによって組み立てられている印象がある。つまり、冒頭のストリングスのリフの主題を出発点として、Aメロも、Bメロも、サビも、すべて一つのアイデアをもとに膨らませた旋律で出来ている。それにより流麗な印象を全体的に抱かせるものとなっている。こうした楽曲作りは、根本にあるメロディメイクの才能に自信がなければ出来ないことだ。最初のリフに強い自信があるからこそ、こうした楽曲構造にできるのである。(しかもリード曲である!)


「井上:すごく根源的な話ですけど、ジャンルレスでいいものはいい。メロディを第一に聴きますし、クラシックだとしてもストリングスのメロディラインだとか。リスナーから入ってるからリスナーが一番聴く部分を理解してるつもりなんで、作曲でもこだわるのはメロディラインっていう風にはなりますね。」(参考:http://realsound.jp/2016/05/post-7614.html)


 ”良い音楽”と言った時にアレンジ偏重になりがちな現在のポピュラーミュージックのシーンにおいては、”旋律”重視のアーティストは逆風かもしれない。「Over You」にある<手招きする時代の 逆方向へ行け>という詞には、そうした状況を自覚した上で自らの持つ才能で時代に挑戦してみようという意志が込められているように思う。<僕が僕であれば 迷わないさ>と歌うことができるのは、彼が影響を受けてきたバンドたちが同じようにメロディの良さによってシーンをのし上がってきたことを理解しているからだ。メロコア系のバンドの影響がうかがえる3曲目「Someone New」は、おそらく世代的にはGood CharlotteやSimple Plan、Fall Out Boyといった2000年代のエモ~ポップ・パンクバンドの系譜だろう。初期Green Dayも彷彿とさせる。さらに4曲目「Don’t Let Me Down」のサビで地声とファルセットを行き来する旋律の美しさは、井上が影響元にColdplayを挙げる理由をしっかりと感じ取れるポイントとなっている。こうした海外のバンドからの影響も、SHE’Sの魅力の一つだ。


 また、デビュー曲「Morning Glow」にしろ『プルーストと花束』収録の「Freedom」にしろ、作品の持つテーマ性に強くリンクした曲作りが印象的で、光が瞬いて膨張してゆくような、広がりと解放感のあるメロディライン、そしてそれを引き立たせる服部栞汰のギタープレイにも目の覚めるような輝きがあった。今作でも5曲目「In the Middle」にある<子供のままじゃ 大人なだけじゃ どうやらダメで 僕ら 中間地点を探してる>というフレーズには、自分たちの若さからくる勢いをどこか自省するような雰囲気がある。その詞のテーマを、ゆったりしたテンポのギターロック調のサウンドがうまく表現しているのだ。


 アルバムのクライマックスを迎えるラストのバラード調「aru hikari」は未来を歌った歌だが、この曲で締めることで最終的に残る読後感は、やはりSHE’Sはピアノが非常に上手く機能しているバンドだという点だ。彼らのトレードマークである”ピアノロック”というスタイルへのこだわりは、デビュー以前からずっと変化することなく、ここ2年ほど続いているハイペースなリリースのなか、どの作品もブレることなく維持している。むしろ、そうすることで炙り出される”作曲力”こそがバンドの推進力の糧になっている。ロックバンドにピアノを加えた土台のサウンド面は大きく変化させることはなく、そこに乗せるボーカル面、すなわち井上竜馬が幼少期から吸収してきたクラシックの素養や洋楽から影響を受けたメロディセンスの部分をブラッシュアップさせることで、SHE’Sというバンドは常に進化し続けている。(荻原梓)