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古典的SFの文脈に『第9地区』的なアフリカ要素 異色の反乱劇『リヴォルト』の魅力

2017年06月30日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 かつて『第9地区』を撮ったニール・ブロムカンプ監督は、自身の初監督作の舞台を南アフリカに設定した理由の一つとして「アメリカの大部分はすでに語り尽くされたと思う」と語ったことがある。なるほど、エイリアンが到来する映画にしたって、今さらその舞台がロサンゼルスやニューヨーク、ワシントンD.C.であったならフレッシュな驚きなど得られようもない。いまエイリアン物を描くのであればアメリカの大都市は真っ先に舞台の候補から消す必要があるし、逆説的に言えばエイリアン側もまた、映画を1mmでも成功へ導きたいという意向があるならば、これらの都市を決して襲ってはならないのである。


参考:兵士たちが衝撃の光景を目の当たりに SFアクション『リヴォルト』オープニング映像


 この原則にのっとったのかどうかはわからないが、『リヴォルト』のジョー・ミアーレ監督は映画の舞台をアフリカの大地に据えた。


 冒頭、幕を開けると我々はすでに凄まじい襲来劇の渦中にある。なかなか敵の姿をはっきりと捉えることはできないが、逃げ惑う人々や応戦する兵士たちはいとも簡単に彼らの放つ光線を浴び、一瞬にして煙のように消滅。思わず記号的にスティーヴン・スピルバーグの『宇宙戦争』の一場面を彷彿する人も多かろう。元々エイリアンの襲来劇ではかくも彼らの圧倒的な攻撃力を明確化するためにも、「光線を受けた時にどのような反応が起こるか」を丁寧に描く傾向にある。本作においても「ポンッ」と乾いた音を立てて人々が消えていく描写が、どんなサウンドトラックにも増して緊迫感あふれるリズムやテンポを作り出していることは言うまでもない。


 話を戻そう。やがて主人公は留置所で目を覚ます。屈強な身体は傷だらけで、少し動いただけでも痛みがほとばしるほどだ。そして、沈黙。ゆっくりと記憶を溯ろうにも何が起こったのか、自分が何者なのか皆目思い出せない。そして隣の留置部屋には彼と同じく囚われた謎の女性。どうやら彼女は医師のようだ。彼らは手を取り合ってこの場を脱出し、敵の襲撃を交わしながらケニアの地方の村から国境付近へ危険な旅を開始する。こうやってようやく物語は動き始める。


■エイリアン? ロボット? 一筋縄ではいかない特殊造形


 私はこれまでずっと“エイリアン”と述べてきた。しかしここで正確に描写しておくならば、『リヴォルト』でようやく姿を捉えることができた敵の姿は、一概にはエイリアンとは呼べないシロモノだ。なにしろ実際に襲い来る敵は“無生物”のようだし、何らかの指令を受けて自動操縦されているようにも見える。下腹部あたりに動力源を光らせながらうごめく、鉄くずのロボットと呼べばいいのだろうか。一歩ごとにガシャンと大地をきしませる動きは、それでいて俊敏でもあり、兵士たちが手にする銃器であってもダメージを与えることは困難。人類の起源がアフリカであるとする説はよく知られるが、その大地にいまこうして異形の者たちが降り立ち、人類に取って代わろうとする構図がなんとも言えない不気味な皮肉を醸し出してやまない。


 そして、主人公と女医が生き残りをかけて国境付近を目指す道中でも様々な事態が生じる。世界の現状に関しても「どうやらワシントンもニューヨークも、地球上の大都市は全て壊滅してしまったらしい」と言葉だけで語られるものの、ミアーレ監督は大都市が襲撃されるようなSFスペクタクルにはさらさら興味がないようで、あくまで「第三世界」と呼ばれるその地を基軸に据え、限定された情報の中でおぼろげながら見えてくる状況こそを追究していく。


■アフリカならではの臨場感を織り交ぜた、異色の反乱劇


 かつて『第9地区』のニール・ブロムカンプ監督は自作について「これは政治的な映画ではない、あくまで娯楽作だ」と語ったが、そうやって娯楽映画を目指しながらも『第9地区』にはかつてのアパルトヘイト政策、あるいは現代における南アフリカ国民とナイジェリア移民とのリアルな関係性などが自ずとせり出してくるところにスリリングさがあった。


 その点、『リヴォルト』の新鋭ジョー・ミアーレもまた、本作を純然たる娯楽作として描きつつも、その舞台としてのアフリカが自ずと醸し出す底知れぬ響きやパワフルな鼓動を信じる者だということが伝わってくる。それゆえ「何者かの侵略」とそれに対する「revolt=反乱」といった構図は、アフリカ大陸の抱える歴史や政情とも絡まり合い、内戦、あるいは他部族や民族同士の対立といった記憶さえもうっすらと内包しながら興味深い筆致を展開させていく。


 かくも農村部、褐色に覆われた大地、廃墟となった建造物、スラム、そしてビル群に囲まれた都市部と様々なアフリカの風景を借りて「この地球に何が起こっているのか?」「奴らの目的は何なのか?」「名前のない俺は一体何者なのか?」といった究極の命題を解き明かしていく本作。そのストーリーラインは実際のところH.G.ウェルズの「宇宙戦争」を緩やかなベースにしているのは明らかで、つまるところスピルバーグの『宇宙戦争』はもちろん、『インディペンデンス・デイ』や『世界侵略:ロサンゼルス決戦』、さらには『マーズ・アタック』などのプロットとも共通する部分が多い。


 だがそれにしても、やはりここにアフリカという要素を組み合わせるだけで従来とは全く異質のビジュアルと生々しさが生まれるのは本作が与えてくれる格別の驚きと言えるだろう。そして主演のリー・ペイスといえば、最近だと『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の残忍なローナン役で知られる存在感のある俳優。当初は『ガーディアンズ~』の主人公ピーター・クイル役でオーディションを受けたというから結果的に180度違う役柄を得たことになるが、そんなペイスが併せ持った従来の「精悍さ」と「謎めいた魅力」が本作でも唯一無二の推進力となってこの絶望的な物語に光を与えつづけていることも特筆せねばなるまい。


 さて、いろいろと述べてきたが、このたび『リヴォルト』は奇しくも欧米に先んじて世界最速での日本公開が決まった。まさにこの戦略においても従来のオーソドックスな流れから逸脱した、巧妙なズラしが展開されているというわけだ。局地的な映画が局地的に投下されるというこの現象を楽しみつつ、アフリカの大地におけるSFサバイバルを堪能してみてほしい。そして、まだ世界的に誰も「評価付け」していないこの作品に、ジョー・ミアーレという俊英のビジョンに、ぜひ貴方なりの評価を下してみて頂きたい。(牛津厚信)