F1シーズンを転戦していると、いろいろな人との出会いがある。そんな人たちに、「あなたは何しに、レースに来たのか?」を尋ねてみる特別企画。今回は、アゼルバイジャンGPでルーキーイヤーでの史上最年少で表彰台を獲得したランス・ストロールの父、ローレンス・ストロールだ。
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ブルーのシャツを汗で濡らしながら、ピットレーンを表彰台へ小走りに向かっていく男がいた。その顔は珍しく笑顔で崩れ、今シーズン、いままで見せたことがないくらい幸せそうだった。
彼の名前はローレンス・ストロール。この日、ルーキーイヤーでの史上最年少表彰台を獲得したランス・ストロールの父親である。もちろん、小走りに表彰台へ向かって行ったのは、愛息子の初表彰式を見に行くためだ。
「私はいつものようにウイリアムズのホスピタリティハウスでレースを見ていたんだけど、ラスト数周は興奮して、よく覚えていないんだ(笑)。ただ、いつものように国際映像と並んで映し出されているタイミングモニターでランスのセクタータイムを注視していたことは覚えている」
カナダの大富豪であるローレンス・ストロールは、F1にデビューする息子のために、昨年1年間、世界各地のサーキットを貸し切って、プライベートテストを行った。
そのために費やした資金は、一説では8000万ドル(約82億円)とも言われている。そのテストはF1ドライバーになった現在も続いており、初入賞したカナダGPの後には、今年10月にアメリカGPの開催が予定されているテキサス州オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカでも行われた。
ルーキーイヤーでの史上最年少表彰台を獲得するという息子の晴れ舞台を見た父親のローレンスは、セレモニーが終わって表彰台の下からウイリアムズのガレージに帰る途中、何度もウイリアムズのメカニックたちと抱き合って、喜びを分かち合っていた。それは息子のためにテストに協力してくれたことに対する感謝だったのかもしれない。
巨額の資金を投じて息子をサポートするローレンスのやり方に対しては、「お金でシートを買った」という批判も少なくない。しかし、風洞実験にしろ、シミュレーターにしろ、エンジンの開発にしろ、高度な技術を用いているF1で勝つために大金を費やしているのは、ストロール家だけではない。
「息子はまだ18歳だということを忘れないでほしい。さらにF1はまだこれが8戦目なんだ。しかも、レースではぶつけられたり、ブレーキトラブルにも見舞われた。序盤戦は実力を出せていなかっただけ。だから、落ち着いて行けと言ってやったよ」
「そしたらこれだ。本当にたまげた奴だよ。カナダGPの入賞と今回の表彰台で、とりあえず結果は出したが、これで安心してはいけない。F1はレースはスプリントだが、F1ドライバーとしての奴の人生は始まったばかり。マラソンのスタートを切ったようなもの。もっともっと上を目指してほしい」