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アカシック「オレンジに塩コショウ」に見る、多面的な女心 理姫が歌う“矛盾”はなぜ共感を生む?

2017年06月28日 17:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年メジャーデビューを果たし、着々と注目度を上げている4人組バンド・アカシック。その中でなんといっても目を引くのは、紅一点ボーカル・理姫の存在だろう。サブカル女子とギャルを掛け合わせたようなキュートでパンチの効いたビジュアルに、ぶっ飛んだ発言。これまでの恋愛を赤裸々に描いた歌詞には文学的な一面もあって、特に女性フォロワーの心をがっちりとつかんでいる。


 そんな理姫率いるアカシックが、6月28日にメジャー2ndシングル『オレンジに塩コショウ』をリリースする。ジャケット写真には過去作のような毒っ気は一切なく、爽やかさ全開だ。サウンドも正統派ポップスで、これまでのアカシックとは一味違う、夏らしいすっきりとした仕上がりになっている。


 “グレープフルーツに砂糖”の派生系かと思わせるような、今回の特徴的なタイトル、「オレンジに塩コショウ」。一見しただけでは意味はよくわからないが、どことなくポップで少女的な印象を受ける。しかし、蓋を開けてみるとこのタイトルには混沌とした意味が込められていて、“やられた”と思うと同時に、王道ポップスにもさりげなくエッジを効かせてくるセンスに脱帽してしまった。


 この曲のテーマは、ずばり、失恋だ。好きな相手に振られて傷心中の女性が、流行りの歌をチェックしたり、茶髪にしたりと、夏を楽しむことで立ち直ろうとするさまが描かれている。そんな失恋のショックで、普段だったら絶対にしないようなことをしてしまう。つまり、「オレンジに塩コショウ」をかけてしまうくらい混乱しているという状態が、タイトルの意味するところなのだ。歌詞の最後に〈オレンジに塩コショウは やばい〉とあるが、塩や砂糖ならまだしも、塩コショウは確かに“やばい”。失恋でそこまで前後不覚になってしまう女性は、傍目に見てかなり面倒なタイプだろう。しかし、彼女はそんな“やばい”自分を客観視しているし、動揺しつつも冷静であろうとし、悲劇のヒロインぶらずに前を向こうとしている。そこには、自立した女性であろうとする強さが表れているように思う。


 他の歌詞を見ていても、〈愛♡ラブ♡〉と乙女チックなワードが登場する反面、〈誰かあたしに車をいまください〉〈炎天下のビール〉と、サバサバ女子を連想させるような言葉も登場する。ここでジュースでもカクテルでもなく、ビールをチョイスしてくるところにグッときたのと同時に、“何歳になってもかわいいままでいたい、だけど本当はおじさんくさいところもある”という、リアルな女性が抱く矛盾が描き出されているようにも感じられた。


 歌詞と同様、MVも二面的な仕上がりだ。場面は主に、女子高生たちが海辺でやりとりするシーンと、理姫が台所でけだるげにしているシーンの二部構成。やや生活感のある台所で、理姫はビールグラス片手に煙草をふかす。アンニュイな雰囲気はキッチンドランカーの主婦のようにも、スナックのママのようにも見える。ここでの理姫は少しくたびれた大人の女性として描かれていて、みずみずしさ溢れる夏服の女子高生たちとは対照的な存在だ。だが、ここには実際の理姫が持つ二重人格性が投影されているのではないだろうか。


 “本当は面倒くさい部分もあるけどそこには蓋をして、何歳になってもかわいい女の子でありたい、だけど年相応の落ち着きや大人っぽさもほしい”。「オレンジに塩コショウ」の歌詞には、そんな複雑な女心が織り込まれている。理姫は、普通であれば人目を気にして表立っては言えない想いや願望を、言葉にして体現してくれる。それもストレートに言うのではなく、丁寧に言葉を選び、“かわいい”のベールに包んで表現する。だからこそ、女性ファンは彼女の赤裸々な面に共感するし、どこまでいってもかわいくて女っぽいところに惹かれてしまうのだろう。(文=まにょ)