昨季までERCヨーロッパ・ラリー選手権の名物イベントとして開催されていたベルギーの“イプルー・ラリー”が今季はERCから外れリニューアル。6月22~25日に開催され、その記念すべきイベントに“母国人WRCスタードライバー”として招聘され、ティエリー・ヌービルが参戦。しかし、デイ1でまさかのクラッシュを喫し、改良型ヒュンダイi20 R5に初勝利をプレゼントすることはかなわなかった。
ベルギー西部のイプルーを舞台に、50年近い歴史を誇るこの名門イベントは、今季からERCのシリーズを離れ、新たに創設されたツアー・ヨーロピアン・ラリー選手権(TER)の1戦として再スタート。
同時にBRCイギリス・ラリー選手権、ベルギー国内選手権のタイトルも掛けられたため、昨年のERC時代を上回り、120台に迫るエントリーを集めた。
その伝統のステージは高速かつナロー。道路脇にはコーションマークとなる障害物や溝が数多く迫り、ハードブレーキングからのタイトターンとなるジャンクションで構成される難関ターマック・ステージが舞台となる。
ERC時代には、昨年現役を引退した地元ドライバー、フレディ・ロイクスが無類の強さを発揮したラリーだが、同イベントはロイクスに続く母国スター候補としてヌービルを招聘。ヒュンダイ・ベルギーの支援を得て、最新型のR5マシンとなるi20を用意した。
一方、ライバル勢にもWRC世界ラリー選手権クラスの強豪ドライバーが勢ぞろい。ロイクスの同イベント11勝を支えたベルナルド・ミュンスター率いる名門チーム、BMAオートスポーツからは、ブライアン・ブフィエがシュコダ・ファビアR5でエントリー。
さらに、2015年の同イベントではマーシャルカーとしてヒュンダイi20 R5のローンチを担当したヒュンダイ・ワークスのケビン・アブリングが、R5カーのプジョー208T 16に乗り換えてのエントリーとなった。
地元ファンの大声援を受けてスタートしたヌービルは、トップタイムこそないものの、最初のSSから上位タイムを連発。総合で早くも首位のポジションをキープしていく。
しかし、総合2位につけるブフィエとは3秒以内のバトルとなり、その重圧からかSS6でまさかの事態が起こる。
ヌービルのi20 R5は高い車速を維持したまま右高速コーナーに進入。しかし、ターマックに乗った砂地でマシンがスライドし、コーナーミドル付近から足元をすくわれコントロールを失うと、マシンは激しくコースオフ。このクラッシュによりステージへの復帰は叶わず、デイリタイアとなってしまう。
これでリードを引き継いだブフィエは、SS7終了時点で2位のアブリングに21.1秒の大差を持ってラリーリーダーに立つこととなった。
続くデイ2は、SS9から始まる全11ステージと前日以上の長丁場。250km以上のSS区間が残された1日は、大量リードを築いていたブフィエにも不運が襲うことに。
14.50kmのSS12で、ブフィエのファビアはわずかにワイドラインとなり、ヌービル同様、溝に捕まりスタック。これで最大24.3秒まで開いたマージンは一気になくなり、アブリングが逆転の首位に浮上。
14秒のビハインドを背負ったブフィエも、2011年WRCモンテカルロ・ラリー勝者のプライドに賭けてアブリングを追ったものの、最終的に8秒差まで詰めたところでジ・エンド。
アブリングは以前のコドライバーであったセブ・マーシャル(現在はWRCでヘイデン・パッドンとペア)から、2015年のイプルー勝者であり、今季のベルギー王者でもある元WRCドライバー、ピーター・チョーエンを“コドライバー”に起用する秘策も当たり、ベルギー国内選手権で最大ポイントを獲得。
また、BRC英国ラリー選手権ではM-スポーツ・ワークスのキース・クローニン(フォード・フィエスタR5)が7位に入り、こちらも最大ポイントを獲得している。