2017年F1第8戦アゼルバイジャンGPは、優勝候補のルイス・ハミルトンとセバスチャン・ベッテルが後方に転落、波乱の展開をくぐりぬけダニエル・リカルドが逆転優勝を飾った。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がアゼルバイジャンGPを振り返り、その深層に迫る──。
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2時間を超えるストリート・ファイティングレース。世界最速公道サーキット・バクーで起きたまれに見る乱攻戦。セーフティーカー3度出動、赤旗23分間中断、天候不順が原因でなくこれほど荒れたのは珍しい。
2度目のSC退去時、15~16コーナーで起きたルイス・ハミルトン対セバスチャン・ベッテルによる問題のプレー。前者はおとがめなし、後者だけに“10秒ストップ&ゴー”ペナルティが下った。今回のドライバーOBスチュワードは、ダニー・サリバン、元ティレルに83年のみ在籍、85年インディ500勝者。今年バーレーンGPに次いで2回目、これまで比較的ニュートラルな判定をする印象があった。
当事者二人はレース直後にこの判定に不満を爆発、感情的になったのも分かる(F1レーサーとしての意地がお互いある)。15コーナー進入でハミルトンは2度小刻みにブレーキング、そして出口で1速ギア約60KMHまで“減速”。
FIAはデータすべてを精査し、ブレーキ・ペダルは踏んでいないことを確認。ベッテルが主張するような意図的な「ブレーキ・テスト」行為は無かったとした。
背後の彼にはどう見えていたのだろう。下りこむ15コーナーを回ったところで目の前いっぱいにメルセデスのバックエンドが。60KMHそこそこの低速走行、ベッテル視点では止まっているのも同然。ブレーキ・ペダルを踏んだかどうかではなく、アクセル全閉(エンジン・ブレーキ状態)による“急減速プレー”に怒り心頭……。
左側に出て並ぶと手を挙げ抗議。超低速49KMHでフェラーリは右に近寄り、当たった。過去にも『幅寄せ』アクションによって、怒りの抗議意志を相手にぶつけるプレーを何度も目撃している。しかしベッテルは明らかに当たった。まさか彼が20cmワイドに変わった今年、車幅感覚を誤ったとは思えないのだが……。
「危険なドライビング」というより、個人的には「スポーツマンシップに反する行為」がペナルティ対象になるのではと、とっさに直感した。
いままで何度も書いてきたようにこの二人が、トップレベル・マシンで競いあうのは今年初めて。それをハミルトンは好ましいことだと発言し、ベッテルもまんざらでもないとライバル関係をポジティブに受け容れてきた。ふたりは大人で、れっきとした4冠王と3冠王なのだから。しかし、中盤に進みいよいよ「2強対決」が色濃くなるにつれ、きっと、いつか、どこかで、火花散るときがくると思っていた。
それが8戦目アゼルバイジャンGPだった。首位14ポイント・リードだがペナルティポイント最多9点のベッテル、バクーで背負った『十字架』とともにこれからまだ3分の2ある12戦に臨むことになる。
さて乱戦ゲーム展開になればなるほど、かならずそこに健闘する者が現われるのがF1だ。10番グリッドから一時17番手に転落しながら、人生ゲームさながら勝ち上がったダニエル・リカルド。
赤旗後のリスタートで4台グループバトルの1コーナー、躊躇せずインサイド・ブレーキングで3位進出がハイライトシーン。数少ないオーバーテイクだから本物のオーバーテイクがより際立つ。
タイヤ温度や周回履歴、レース戦略などが重視されるいま、コース上で決めるべきときに決めるのがリカルドのレーシング・キャラクター。
2位バトル決着はゴールライン0.105秒差だった。周回遅れまで落ち込んでいたバルテリ・ボッタスが諦めずに追い、チェッカーフラッグ寸前に18歳239日ランス・ストロールから2位をかすめとった。
抜かれても悔いなしだろう。週末ずっとノーミスのまま人が変わったかのように(失礼)、精確なドライビングを見せていたストロール。生みの親はローレンスさん、育ての親はウイリアムズのパディ・ロウさん、昨年カナダGPボッタス3位以来の表彰台だ。新鋭を育てる古豪チームの快挙が、2時間の乱戦にいい後味を添えた。