2戦を終え、5人のドライバーがシリーズポイントで1点差以内。2017年のスーパーフォーミュラ(SF)は、例年以上に拮抗した戦いを呈している。そして1カ月強のインターバルを経て開催される第3戦富士(7月8~9日開催)は、どのような結果が待っているのか──。
世界最長級である約1.5kmのロングストレートが、富士スピードウェイ最大の特徴だ。シャシーがSF14となった14年からは、燃料流量リストリクターによって燃料流量を制限し、エンジンの最高出力をコントロールしている。15年以降、燃料流量は基本が90kg/hとなり、鈴鹿と富士では95kg/hに設定された。さらにレース中には5回、SF独自のオーバーテイクシステム(OTS)の使用が認められている。
1回につき20秒間、燃料流量を10kg/h増大でき(鈴鹿と富士は105kg/h、その他のサーキットでは100kg/hになる)、モアパワーを得られるのだ。昨年の決勝では、富士のロングストレートで321.237km/hという最高速がマークされた。ちなみに、燃料流量が通常時で100kg/h、OTS使用時で105kg/hという設定だった14年には、326.087km/hが刻まれている。
今年の富士ラウンドにおいて、まず注目すべきはその最高速だろう。SF14シャシーとともに4シーズン目を迎えたNRE(ニッポン・レース・エンジン)エンジンは、年を追うごとに進化を続けた。エンジン自体、現状が最も熱効率に優れているのは当然として、今年はターボチャージャーが1サイズ大きくなり、車両右側のサイドポンツーン上にある吸気導入口のチムニーも拡大するなど、出力が引き上げられている。
開幕前、3月31日~4月1日に開催された富士テストでの最高速は319.527km/hだった。昨年の決勝からは2km/h近く落ちていることになるが、テスト時のOTSの使用状況は分かっておらず、しかもトヨタ勢ではまだ全車が今季仕様のエンジンを投入していない状況であったため、本戦ではさらに速くなる可能性を秘めているからだ。
この出力向上は、多くのオーバーテイクシーンを生み出す効果もある。前戦岡山は、コース特性上「抜けないサーキット」と言われ、実際に予選順位とスタートでレース結果がほぼ決まってしまった。しかしロングストレートを持ち、コース幅も広い富士は、もともと多くのオーバーテイクが見られる。その証拠に過去3年間(14年の第2戦、2レース制大会除く)、ポールシッターは勝てていない。
もちろん、ポールポジションの獲得が優勝に近づく第一歩ではあるが、その重要性は他のサーキットよりも小さいと言っていい。そして出力が向上した今季は、OTS使用時の伸び代も大きくなっており、オーバーテイクが増えると予想されている。
ただし、「最高速だけでは勝てない」のが富士の難しさだ。最高速だけを狙うなら、前後のウイングを寝かせてロードラッグ仕様にすればいい。しかし、ダウンフォースを薄めすぎると、ブレーキングが安定しなかったり、タイヤへの負担が大きくなる。320km/hからのブレーキングとなるTGR(第1)コーナー、大きな横Gが発生するトヨペット100Rコーナーに加え、ダンロップコーナーから最終のパナソニックコーナーまでツイスティな最終セクターのことを考えると、ある程度のダウンフォースは欲しい。
どこでタイムを稼ぐべく、どのようなセッティングで臨むか、チームとドライバーはそのジレンマと戦うことになる。グリッドウォークでは、各車の前後ウイングの角度をチェックすることで、それぞれが導きだした“答え”を知ることができるだろう。
SF14になってから、富士での過去3年間の戦いを振り返ると、トヨタエンジン勢が優位に立っている。ホンダエンジン勢は昨年雨の予選でストフェル・バンドーンがポールポジションを獲得しているが、決勝では14年の第2戦レース2と第3戦で山本尚貴の5位というのが最上位。3年間、表彰台はトヨタエンジン勢が独占している。そのなかでも富士を得意としてるのがインパルとトムスだ。
開幕前の富士テストでも、突出した速さを見せたのはトムスだった。WECテストのため中嶋一貴とアンドレ・ロッテラーが欠場、その代役としてステアリングを握った平川亮とジョアオ・パオロ・デ・オリベイラが1-2タイムを記録した。平川のトップタイムは、コースレコード(1分22秒572)を大きく更新する1分21秒628。夏の開催となる第3戦富士に比べると気温が低く好条件であったとはいえ、本戦でもコースレコードの更新は必至といえそうだ。
なお、今季のSFも速さ・強さのキーポイントとなるのはタイヤであることに違いはない。昨季、各チームのドライバーとエンジニアは、新たなサプライヤーとなったヨコハマタイヤの使い方に苦労した。15年までのブリヂストンタイヤとの特性に大きな違いがあったからだ。ヨコハマタイヤで2シーズン目となる今季は昨季の経験を活かせるとはいえ、今季のタイヤはゴムは昨季と同じながら構造が異なる。
車両側のセッティングで、どこまで合わせ込めるか。テストではトムスがいち早くその正解に近づいたわけだが、気温やコンディションが変わる本戦では、また違った答えが求められるかもしれない。その“新たな正解”に辿り着くのは誰か。富士では劣勢が続くホンダエンジン勢であっても、そのチャンスは掴める。いずれにせよ、これまで以上に速く、緻密な戦いが繰り広げられのは間違いない。
また、先日のル・マン24時間で予選ポールポジションを獲得するなど速さを見せながら、トップ走行中にリタイアとなってしまった小林可夢偉、そして同じくル・マンで優勝に手が届きそうだったポルシェのアンドレ・ロッテラー、そしてトヨタの中嶋一貴と、ワールドクラスのドライバーがル・マン後に国内で走る初めての機会となる。
ル・マンでは惜しくもトラブルやアクシデントで優勝を逃した彼らだが、このスーパーフォーミュラでその鬱憤を晴らす機会になりそうだ。