2017年06月27日 10:03 弁護士ドットコム
社員が毎日の始業と就業時間を自分で決めて働くことができる「フレックスタイム制」。厚労省の就労条件総合調査によると、日本で導入している企業はまだ4.6%しかありませんが、通勤ラッシュの時間帯を避けたり、早朝出勤して夕方に切り上げるなどメリットも多そうです。
【関連記事:「500万円当選しました」との迷惑メールが届く――本当に支払わせることはできる?】
そんなフレックス制に憧れてか、導入していない会社で勝手に「一人フレックス」をしている人も出て来ているそうです。インターネットの掲示板には、「女性社員が休憩時間を取らず、1時間早く帰ったり、20分早く来て1時間前に帰るという謎フレックスを導入している」と、困惑した人から投稿がありました。
裁量労働でもなく、フレックスタイム制が導入されてもない会社で、勝手に就業時間を決めて働くことに問題はないのでしょうか。処分されてしまう可能性もあるのでしょうか。友弘 克幸弁護士に聞きました。
ーーフレックスタイム制とは、法的にはどう考えられているのでしょうか
通常の労働契約では、「始業時刻」と「終業時刻」が具体的に定められています。
例えば、「始業時刻は午前9時、終業時刻は午後5時、正午から午後1時までを休憩時間とする」といった具合です。このように契約で定められた始業時刻と終業時刻のことを、「所定始業時刻」「所定終業時刻」と呼びます。
始業時刻と終業時刻は、賃金などと並んで最も重要な労働条件の一つですから、使用者は、労働契約の締結に際しては、始業時刻と終業時刻を記載した書面を労働者に交付しなければならないとされています(労基法15条1項、労基法施行規則5条)。したがって、ちゃんとした会社であれば、採用されたときに受け取る「雇用契約書」や「労働条件通知書」といったタイトルの書面に記載されているはずです。
ところで、労働時間の長さについては、労働基準法上の上限がありますが(労働時間は1日に8時間まで、1週間に原則として40時間まで)、そのような法律の規制に反しない限り、労働者は、労働契約で定められた「所定始業時刻」「所定終業時刻」に法的に拘束されることになります。
以上が原則ですが、例外があります。
それが、フレックスタイム制や裁量労働制です。
「フレックスタイム制」は、一定の期間(清算期間といいます)における労働時間(総労働時間)だけを決めておいて、その期間中の日々の具体的な始業と終業の時刻の決定については、労働者に委ねる制度のことです。
つまり、この制度が導入されている会社では、労働者は、「今日は午前7時に出勤して普段より長めに働いたから、その分、明日は普段よりちょっとゆっくり、午前10時に出勤しよう」といったように、出退勤時刻を自分で調整することができるのです。(ただし、フレックスタイム制のもとでも、例えば「10時から15時までは必ず勤務しなければならない」というように、「コアタイム」が定められる場合もあります)
ーーでは、勝手に「私はフレックスタイム制で勤務します」と宣言してしまっても問題はないのでしょうか
フレックスタイム制は、使用者(会社)と事業場(事業所)の労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を結ぶなど、法律に定められた手続きにのっとって導入されるものです。一労働者が、勝手に「私はフレックスタイム制で勤務します」と宣言しても、使用者(会社)にはそれを承認する義務はありません。
ーーフレックスタイム制が導入されていない場合、所定終業時刻より早く退勤することで、処分の可能性もあるのでしょうか
フレックスタイム制が導入されていない会社では、労働者は、所定の始業時刻から終業時刻まで、命じられた業務を誠実に行なう義務を負っています。法律用語では「債務の本旨に従って」労務を提供する義務と言いますが、要するに真面目に仕事をする義務がある、ということです。
したがって、正当な理由もないのに、使用者の許可を得ずに所定終業時刻よりも勝手に早く退勤してしまうことは、労働者としての「誠実労働義務」に反するものと言われかねません。
そのようなことを行った労働者は、働かなかった時間分に相当する賃金のカットを受ける可能性があります。また、具体的な事情や回数などにもよりますが、そのようなことを繰り返していると、懲戒処分を受けたり、最悪の場合は解雇されてしまう可能性もあるでしょう。
ーー 所定始業時刻より早く出勤したり、休憩時間に仕事をすれば、早く帰ってもいいのでしょうか
労働契約で定められた始業時刻(所定始業時刻)より早く職場に出勤すること、それ自体は通常は問題ありません。
しかし、フレックスタイム制が導入されていないのであれば、「自分の判断で所定始業時刻より1時間早く出勤したから、その分、所定終業時刻より1時間早く退勤しても構わない」ということにはなりません。
たとえ自分の判断で1時間早く出勤していたとしても、労働者は、所定終業時刻まで労務を提供する義務を負っていることに変わりはないからです。「自分の判断で休憩時間にも仕事をしたから、その分早く帰る」というのも同様です。
「一人フレックス」をしている方がどうしてそのようなことをしているのか、私には理由がよく分かりませんが、仮に家庭の事情などで、契約で定めた始業時刻・終業時刻に何らかの不都合が生じているというのであれば、会社にそのことを申し出て、労働条件の変更について話し合うようにすべきでしょう。
雇用契約も一つの「契約」ですから、自分勝手な判断で遅刻や早退といった「契約違反」を続けていると、それ相応のペナルティを受ける可能性があるということは、認識しておく必要があります。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
友弘 克幸(ともひろ・かつゆき)弁護士
京都大学法学部卒業。2004年に弁護士登録。日本労働弁護団、大阪労働者弁護団に所属。
残業代請求、解雇、労災など、労働者側に立って労働事件を多く手がける。
事務所名:西宮原法律事務所
事務所URL:http://nishimiyahara-law.com/