今季から始まったブランパンGTシリーズ・アジアが鈴鹿サーキットに上陸した。 6月24~25日に、鈴鹿サーキットで開催されたブランパンGTシリーズ・アジア(BGTA)第3ラウンド。日本で初めて開催されたレースではあるが、1日目は10,400人、2日目は7000人の観衆を集め、GT3カーによる白熱のバトルが展開された。
■2017年からスタートした新たなアジアのGTレース
ブランパンGTシリーズ・アジアは、その名のとおりヨーロッパで非常に多くのエントラントを集めているブランパンGTシリーズの“アジア版”。使用されるマシンはGT3カー、そして近年多くのメーカーから車両がリリースされているGT4カー(現在のところBGTAではポルシェ・ケイマン・クラブスポーツMRのみ)だ。
レースは金曜に2回、土曜朝に1回と合計3回のフリープラクティスが行われ、土曜に2人のドライバーそれぞれがアタックを担当する予選が15分ずつ行われ、土日に60分間のレースがそれぞれ1回ずつ開催される。レースは2人のドライバーが交代するかたちだが、ピットストップは開始25~35分の間のピットウインドウオープン時に限られ、前戦のトップ3はピットストップ時に“タイムサクセスペナルティ”が課せられる。
シリーズは2017年に始動し、昨年まで開催されていたGTアジアのチームがほとんどこのBGTAに移行しているが、今回レース2を制したグループMレーシングなど、ヨーロッパでメーカーワークスドライバーとして活躍しているドライバーを起用しているチームが多く、競技レベルはGTアジアの頃から大きく向上している印象はあった。
また、WEC世界耐久選手権でも活用されているフルコースイエロー(FCY)など、競技の公平性を損なわない新たなレギュレーションも活用されている。今回の鈴鹿ラウンドでもレース2でFCYが入る時間があった。
■スポット参戦ならではの日本勢の苦戦
そんな日本初開催のBGTAだが、レース1はアウディ・ホンコンのマーチー・リー/ショーン・ソン・ウェイ・ファン組5号車アウディR8 LMSが優勝。レース2では、グループMレーシングのハンター・アボット/マキシミリアン・ゴッツ組999号車メルセデスベンツAMG GT3が優勝を飾った。いずれも香港のチームで、5号車アウディは両者とも香港のドライバーだ。
今回の鈴鹿ラウンドには、4組の日本人ドライバーコンビのチームが参加。ただ、4チームともトップを争うことはなく、レース1ではARN RACINGの28号車フェラーリ(永井宏明/佐々木孝太)が6位、レース2ではCarGuy Racingの777号車ランボルギーニ・ウラカンGT3(木村武史/ケイ・コッツォリーノ)が12位で日本勢最上位となった。
ライブで、そして現地で観戦したファンにとっては、アジアを中心に世界からやってきた猛者たちを、アジアのモータースポーツ界をリードする存在である日本勢が迎え撃ち、日本のモータースポーツの聖地で好勝負を演じるという構図が最も盛り上がったはずだが、残念ながらARN RACINGがクラス表彰台にこそ上がったものの、そういう展開にはならなかった。
では、実際に日本チームの上位進出を阻んでいたものはなんだったのか。スポット参戦チームに対する7秒のピットストップタイムペナルティと、BGTAで使用されているピレリタイヤが大きなポイントだろう。
BGTAでは、シリーズ参戦しているチーム以外はピットストップ時に7秒余分にかけなければならない。7秒をコース上で取り戻すのはなかなか困難なのはモータースポーツファンならすぐに分かるだろう。これはシリーズ参戦組を大切にするための施策なので仕方のない部分はあるが、スポット組にとっては少々厳しいレギュレーションと言える。
■ピレリ、そして海外ドライバーへの対応
また、BGTAをはじめ多くのSRO(ステファン・ラテル・オーガニゼーション)主催のレースで使用されるピレリタイヤへの対応は、日本勢にとっては少々やっかいなポイントだったのかもしれない。ARN RACINGの佐々木孝太によれば、「ピレリは、(スーパー耐久で使う)ヨコハマに比べると横方向のグリップが低い。ヨコハマとの違いが大きかったので、どうタイヤに仕事をさせるかでみんな苦労したんじゃないでしょうか」という。
また、D'station Racingの荒聖治も「タイヤが違うのでセッティングもそれに合わせなければならない」という。
ふだんから日本のレースで使用されるハイグリップなタイヤに慣れているドライバー、さらにセッティングを出すエンジニアにとって、ピレリをはじめ“別の銘柄のタイヤ”を急に履くとき、求められるのはドライビングやセットで対応することができる総合力だ。今後こういった“海外戦”に参戦することは、引き出しの数を増やす意味でも有効なのではないだろうか。
シリーズで参戦している唯一の日本人ドライバーコンビであるKCMGの白坂卓也は、鈴鹿では車両の面で電気系トラブルに見舞われ、なかなか流れをつかむことはできなかったが、「ピレリは以前のタイヤから現行のタイヤへのスイッチも経験しているので、だいぶ慣れています。S耐で履いているヨコハマとの切り替えも大丈夫です」とこれを裏付ける。
また、コース上の部分でも日本のシリーズとは異なる部分があった。それはバトルの質だ。以前GTアジアにも出ていた経験をもつ佐々木は、「昔ほどメチャクチャな接触というのはないな、という印象です」とBGTAのドライバーのレベルを評する。
「前のGTアジアではレベルも低くて、ただブレーキを遅らせて突っ込むだけみたいなのも多かったんですが、今はヨーロッパのワークスみたいなチームも来ているので、下手な接触はなかったんですが、意地の張り合いで2台とも飛んでいくような、昔のGTアジアとは違うアグレッシブさがありましたね」と佐々木。
一方で、レース1ではバトル中強引にヒットされストップを喫した荒は「プロの速い人もいるけど、差もありますね。全然コントロールできていない人もいるし、ギリギリで争うことができなくて、クルマにトドメを刺しちゃう争い方をする人もいる。相手を信用したバトルが難しい」という。
「(タイヤもバトルも)どう素早く適応してレースに馴染み、違和感なくスタートできるかどうか。チームの総合力にかかっているのではないでしょうか」
■アジアにおいて日本の力を示せるか
そんなBGTAだが、日本チーム、ドライバーにとっては、ふだん日本のレースを戦っているだけでは得られない“刺激”を得た様子だ。佐々木は「ふだん同じ鈴鹿でレースをしているけど、雰囲気やレースの流れとか、全然違う。慣れ親しんだ鈴鹿ですけど、楽しかったです」という。
また、「レギュレーションや仕組みが日本とは違う部分もありましたが、面白かったですね。接触に対する考え方も違うので、勉強になりました。アジアはレベルが高いと思いますよ。プロも多いですし、日本チームもたくさん出れば楽しいでしょうね。でも、勝つのはなかなか難しいです」というのは、ジェントルマンドライバーとして活躍するD'station Racingの星野敏だ。
近年豊富な財力と、それにともなう走行時間の長さ、またヨーロッパチームとの積極的な交流でアジアのレーシングチーム、ドライバーは急速に力をつけており、日本チームにとってもBGTAはチャレンジのし甲斐があるレースとなっている。願わくば“モータースポーツ先進国”である日本勢がアジア勢を圧倒するレースを見たいものではあるが。
そして日本において、BGTAがより知名度や人気を得るために求めたいものもある。それは日本車の出場だ。今季、鈴鹿戦も含めBGTAには日本車が1台たりとも出場していない。現在BGTAに出場するGT3の車種はアウディ、メルセデス、ランボルギーニ、ポルシェ、フェラーリのみなのだ。これでは日本のファンにとっては寂しい。もし来季開催される鈴鹿10時間が同様の状態になってしまった場合は、盛り上がりに欠けるおそれもある。
BGTAに出場できる日本車のGT3カーとしてはニッサンGT-RニスモGT3、レクサスRC F GT3、アキュラNSX GT3といったところがあるが、GT-Rは今季が現行モデル最終年、RC Fは17年モデルが出たばかり、NSXは北米のみの投入と事情はあるにしろ、アジアのレーシングチーム、ジェントルマンドライバーたちに日本車がアピールしきれていない状況は歯がゆい。
GT3カーは、レースに出場することでメーカーのスポーツイメージを向上させるモデルでもあるが、市販車と同様に魅力的なコストと性能、サポート体制を整えプライベートチームに『買ってもらう』ことも大切だ。アウディやランボルギーニは、チームに積極的に関与することで、アジア圏でのスポーツイメージ向上も図っている。BGTAは今後、東アジアや東南アジアで活発になる可能性も高く、そこで日本車がチームの選択肢に入ってくることを願うばかりだ。