佐藤琢磨のインディ500での勝利は、彼の普段の生活までも大きく変えてしまっていた。前戦のテキサス終了後、大急ぎで日本に戻った琢磨は4日間の凱旋ツアーを行った。
日本に戻り記者会見、ファンイベント、スポンサー訪問、そしてメディアの取材を分刻みのスケジュールをこなして、日本を後にした。アメリカでのスケジュールも含め予想以上の忙しさだ。
インディ500チャンピオンに課せられた使命とはいえ、通常の生活のリズムにはなかなか戻れそうにない。
そんな中で行われた第10戦のロード・アメリカ。ウィスコンシン州の長閑な風情の中にあるこのサーキットは、全長も長くアップダウンのあるチャレンジングなサーキットだ。
琢磨が日本に凱旋している間、アンドレッティ・オートスポートは、ここでテストを行っており、順調にプログラムをこなしていたと言う。そのデータを基に琢磨は、この週末を戦うことになった。
しかし、今週は波乱含みのスタートになる。金曜日に気温が上がったことも災いし、「全然マシンがグリップしなかった」ようで、琢磨は午前17番手、午後15番手と苦戦する。
それでも「ロッシのタイムが良かったのであまり心配はしない」と言っていた。
土曜日はマシンを大きく変えて臨んだものの、順位は大きくアップするまでに至らず、15番手のまま。しかもこのプラクティスの途中、ブレーキングで自身の首を痛めてしまう。午後の予選はなんとかコクピットに座りタイムアタックに臨んだが、グループ2の中では10番手止まり。総合では20番手となって予選を終えた。
決勝レースは55周の長丁場だが、琢磨は後方から追い上げるレース展開に。
レースは序盤からピットストップを3回とするグループと4回目とするグループに別れたが琢磨は3回目とコース上になるべくとどまる作戦に出た。ピットストラテジーの違いで一時は12番手に浮上するも、全車がピット作業を終えるとやはり後方に戻ってしまう形になる。
荒れ模様となって来たのが二度目のピットインを終えた時だ。琢磨はコースに戻った周にバックストレートに出るところでグリーンに乗り上げスピン! コース上にマシンが止まった。
マーシャルに助けられなんとかピットに戻り、エンジンを再始動してラップ遅れになりながらも、レースに戻った。上位挽回は難しい状態ながらも、レースも終盤になると脱落や接触で後方に下がるマシンも出てくる。
琢磨もデブリを拾ったり、前のマシンの跳ね上げた異物でフロントウイングを壊したりと、マシンにダメージを負いながらも淡々とレースを続け、最後には19位で完走した。
このレースでトップでチェッカーを受けたのは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)。ランキングトップである彼の優勝は、琢磨にとっては痛い結果だが、予選まで上位を席巻していたペンスキー勢を駆逐したのは賞賛に値する。
琢磨は「今日はすごく厳しいレースでした。後方から追い上げるレース展開でしたけど、途中でスピンしてマシンにダメージ負ったり、前の車の跳ね上げたデブリでフロントウイングを壊してしまったり、僕も怪我してしまったけど、マシンも怪我をしてしまって大変なレースでした」
「それでも少しでもポイントになればと思い最後まで走りました。チャンピオンシップでは少し厳しくなってしまいましたが、次のアイオワまでには万全な状態で戻って来て、また頑張りたいと思います」と語った。