2017年06月24日 10:33 弁護士ドットコム
会社員の毎月の給料やボーナスから、所得税などが差し引かれる「源泉徴収」。「年末調整」で払いすぎた税金が戻ってくるため、一般の会社員が、税金の煩わしい手続きに戸惑うことのない便利な制度だといえる。
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税金を徴収する側にとっては、漏れなく税金が入ってくる大切な仕組みだといえる。ただし、以前から、納税意識が希薄になることが指摘されている。
もしも、源泉徴収が廃止された場合、どんなメリットとデメリットが想定されるのだろうか。佐原三枝子税理士に聞いた。
アメリカでは、サラリーマンであろうと、自営業者であろうと、みんな確定申告をするから、アメリカ人は税金に対する意識が高い、という話を聞かれたことはないでしょうか?
実はそのアメリカでも、お給料から税金の源泉徴収はされているのです。ですが、アメリカでは、源泉徴収された税金を精算するには確定申告をしなけれはなりません。
日本のサラリーマンは、申告に代わる簡易な制度として勤務先の事業所が年末調整をやってくれます。マイホームを買ったとか、医療費がかかったとか、特殊な事情がない限り、おおむね申告をしに行く必要がありません。
ですから、源泉徴収よりも年末調整という制度が税金の仕組みを知る意欲の妨げになっている可能性は大いにあると思います。
日本でも、毎年確定申告を全員がする必要があったら、税金の仕組みをもっと知りたいと思うし、納税額も自覚するようになり、いろんな意識は高まると思います。
もし、お給料から源泉徴収がされなかったら、すべてを自主申告に頼ることとなり、悪意の有無にかかわらず無申告の方に対応するための費用が増えることは簡単に想像されます。そのために税金が使われるのもいかがかと思います。
本来の税額より多めに源泉されていれば、その税金を精算して還付を受けるために、むしろ進んで申告しようと思いませんか? ですから、源泉徴収は申告を促す効果もあるのです。
アメリカの人たちが積極的に確定申告に行くのは、おおむね源泉税が戻ってくるパターンが多いという事情もあるようです。
源泉徴収で気を付けておきたいところは、源泉徴収をするのは事業所などに課せられた義務であって、したり・しなかったりを勝手に選ぶことができないということです。調査で源泉徴収漏れが指摘されたら、事業所は「その人に税金を取りに行ってくれ」といっても聞いてもらえません。税務署は、預かりが漏れていた源泉税を事業所から徴収するだけで、事業所が支払った源泉税をその人から取り返すかどうかは全く別の問題なのです。ですから、事業所の方は、源泉徴収制度をよく理解して適用していただきたいと思います。
最後に、サラリーマンの年末調整のお話に戻ります。
かくいう私も、サラリーマンの時は源泉徴収票を見ても、手取り額しか気にせず、たくさん引かれているな~くらいの意識しかありませんでした。税務の業界に転向してからいろいろ知り、税金や法律を全く知らずに丸腰で社会に出たのだと今になって恐ろしい思いがします。
戦後、アメリカは申告納税制度を行き渡らせようとしましたが、日本政府に年末調整制度の設置を押し切られたそうです。お金の話をタブー視するような日本人の気質と相まって年末調整はすっかり根付き、自分の税額も知らない昔の私のような社会人をたくさん産んでいるのかもしれません。
年末調整は、国も国民も事務を簡略化できる優れた制度ですが、それに甘えず、税金や社会保障などの仕組みも知っておくのは社会へ出るための常識であり、最低限の戦う武器だと痛切に感じます。
読み書きを学ぶように、源泉徴収票の見方といった実践的で基本的な税法の知識を身に着けるような場がすべての人にあるべきではないかと思います。
【取材協力税理士】
佐原 三枝子(さはら・みえこ)税理士・M&Aシニアスペシャリスト
兵庫県宝塚市で開業中。工学部やメーカー研究所勤務から会計の世界へ転向した異色の経歴を持つ。「中小企業の成長を一貫してサポートする」ことを事務所理念とし、税務にとどまらず、経営改善支援、事業承継や海外事業展開の支援を手掛けている。
事務所名 : 佐原税理士事務所
事務所URL:http://www.office-sahara1.jp/
(弁護士ドットコムニュース)