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滝沢秀明、“ホラー嫌い”も虜にするチャーミングさ 初主演映画『こどもつかい』の新境地

2017年06月24日 06:23  リアルサウンド

リアルサウンド

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 滝沢秀明が映画主演を務めるホラー映画『こどもつかい』が現在公開されている。本作は、『呪怨』シリーズやハリウッド映画の『7500』を手掛けてきた、Jホラー界の巨匠・清水崇監督の最新作。筆者はホラーがめっきり苦手で、鑑賞直前には、金縛り遭ったという心霊体験を耳にしたばかりだったため、一瞬、観に行くのをためらったほど。しかし、劇場に入り、本作の上映が始まって間もなく、ホラー映画だというのに笑いがこみ上げてきた。筆者をホラー映画の恐怖から救ってくれたのは、本作の主演・滝沢英明だ。


(参考:門脇麦×清水崇監督が語る、『こどもつかい』の新たな挑戦 門脇「恥ずかしさを払拭するのには時間がかかった」


 滝沢が演じるのは、こどもの霊を操り、こどもに怨まれた悪い大人たちの命を奪う、謎の男“こどもつかい”。神出鬼没で、行動も思考も予測不可能、まさにミステリアスなキャラクターだ。特殊メイクで作り上げた、ミステリアスなビジュアルは、ピエロのような『アリス・イン・ワンダーランド』のジョニー・デップを彷彿とさせる。長髪に帽子をかぶり、手には星の描かれた白い手袋、そして、衣装に装飾されている猫やカラスの人形のようなものからは、時折、その動物の鳴き声が聞こえてくる。白塗りメイクをした顔には、青い瞳が鋭く光っている。こんな滝沢、見たことない。


 滝沢は、スクリーンに登場した瞬間から強烈な違和感を放っていた。ホラーの雰囲気が漂う画面の中で、彼は、愉快に体を動かしながらラッパを吹くのである。そのラッパの音に合わせてこどもの霊が踊りだす。なんとも奇妙でホラーな光景だが、筆者は笑ってしまわずにはいられなかった。


 滝沢が笛を吹く姿は、『ハーメルンの笛吹き男』をモチーフにしていると、インタビューで清水崇監督は語っていた。(参考:門脇麦×清水崇監督が語る、『こどもつかい』の新たな挑戦 門脇「恥ずかしさを払拭するのには時間がかかった」)グリム童話である同作は、ネズミが大繁殖していたハーメルンの町に、笛を持った奇妙なまだら服を着た男が現れ、報酬の代わりにネズミを退治するという物語。男が笛を吹くと、町中のネズミが集まり、無事退治するが、町民たちは約束を破り、報酬を支払わなかった。すると、男が再び笛を鳴らし、今度は町中の子供たちを集める。男の後を踊りながら楽しそうについて行った子供たちの足取りは一向つかめないまま、今日にいたっているという不気味な話だ。滝沢がラッパを吹き、そこでこどもの霊たちが楽しそうに踊っている姿は、まさに『ハーメルンの笛吹き男』のイメージである。


 ホラー映画に登場するお化けというと、恐ろしい顔をして、背後から突然、大きな声を出して脅かしてくるキャラクターをイメージする。どこまでも這いつくばって追いかけてきたりして、それが筆者は大の苦手だ。だが、本作で滝沢は、人に自らの姿を見せる時、肩を叩いて、その人物が振り向いた瞬間に人さし指をほっぺに当て「引っかかった!」という、なんともチャーミングな登場の仕方をするのだ。驚かされる人物も、少々拍子抜けするだろう。


 劇中、滝沢の行動はなんとも“こどもっぽい”。自分の思うようにいかず、駄々をこねるように暴れ出したりしながら、こどもに怨まれた大人たちを成敗していく様子は、怖さよりもむしろ微笑ましさを感じさせる。滝沢が、大人たちに仕掛けるときの意地悪っぽい口調は、彼がパーソナリティを務めるラジオ『滝沢電波城』(ニッポン放送)のゲストに登場するジャニーズJr.の後輩たちをイジる時と同じような印象だ。劇中で滝沢が演じるこどもつかいの振る舞いは、滝沢自身がいまも持つ“こども心”が反映されているのかもしれない。


 本作は、「滝沢秀明主演でホラー映画を作りたい」という企画が先にあり、清水監督が手がけることになった。そして意外にも、数々のドラマで主演を務め、『滝沢歌舞伎』で座長まで務めた滝沢にとって初めての主演映画となる。清水監督にとっては新しいホラーのあり方を模索した作品でありながら、これまで誰も見たことのない滝沢の魅力を引き出した一作だ。2016年に放送された『せいせいするほど愛してる』(TBS)では、キザ過ぎるセリフとエアーギターで、これまでのクールで繊細なジャニーズアイドル像を覆し、お茶の間を賑わせていた滝沢。その親しみやすさによって、ホラーが苦手な筆者も、その楽しさを知ることができた。


 ホラー映画を苦手とする方は、筆者以外にも多いだろう。しかし、本作なら大丈夫。滝沢の楽しげな演技が、恐怖をうまく中和してくれて、こども向けのジェットコースターのようにマイルドなスリルを味わわせてくれるはずだ。次は勇気を出してもう少し、怖い作品にも挑戦してみようと思わせてくれた滝沢に感謝したい。


(大和田茉椰)