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『ヤマト2202』第二章 小野大輔インタビュー「中間管理職的な古代の気持ちがわかるんです」

2017年06月23日 17:54  アニメ!アニメ!

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『ヤマト2202』第二章 小野大輔インタビュー「中間管理職的な古代の気持ちがわかるんです」
「ヤマト、発進!」このセリフの重みを感じることになりそうだ。『宇宙戦艦ヤマト2202 第二章 発進篇』が6月24日(土)より劇場上映となる。第一章で描かれたのは、長い旅の末に地球に戻ったヤマトのクルーたちの、地球での新しい日々だった。戦闘の相手だったガミラスと地球は、今では協定を結んでいる。平和なはずなのになぜか不安定な毎日。そんなヤマトクルーたちだったが、惑星テレザートから救援信号を受信していた。彼らにとって再び危険な航海に出ることは、はたして正しいことなのか。

主人公・古代進を演じている声優の小野大輔に単独インタビュー。「第二章こそヤマトの本当の旅立ち」と、古代同様に覚悟を決めた様子だ。
[取材・構成=大曲智子]

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第二章 発進篇
http://yamato2202.net/
2017年 6月24日(土)より期間限定劇場上映

■「発進するときの古代はすごく思い悩んでいる」

ーー第二章全体の印象を教えてください

小野大輔(以下、小野)
「発進篇」というタイトル通り、ヤマトの本当の意味での出発、発進というのがこの章の大きな出来事になるんですけど。第一章は、なぜこの艦に乗らなければいけないのかというそもそもの気持ちの表明や、ヤマトのクルーたち、ガミラス、ガトランティスの顔見せだったと思うんです。なのでこの第二章が本当の旅立ちであり、過酷な状況に足を踏み入れる瞬間。これからとても大変な試練が待っているという緊張感に満ち溢れたお話にもなっていると思います

ーーしかし発進する段階からいきなり波瀾万丈。ヤマトの宿命を感じますね。

小野
『宇宙戦艦ヤマト』という作品自体を知らない人が見たら、発進にポジティブな印象を受けるかもしれないけど、発進するだけでこれほどドラマやカタルシスが生まれるなんてって思いますよね。まだ発進する段階なのにここまで重厚なストーリーだと、この先さらに大きな試練が待っているかと思うと辛いですよね。古代を演じる身としても先が思いやられるます。アンチテーゼ的に言うと、ヤマトが発進するということが理屈抜きにものすごいパワーを持っている。まさに推進力を持って作品そのものを進めてくれるエピソード。やっとこの第二章で、テレザートに行ってテレザに会いに行くんだという覚悟が僕自身もできた。ヤマトに乗る決心ができたような気がしています。

ーー古代が言う「ここがヤマトだからだ」というセリフも意味深に聞こえました。

小野
「理屈じゃないんだ」ってことですね。それをちゃんと理論立てて、先のことをちゃんとおもんばかって、「いったん立ち止まってみようよ」と言ってくれるのが島大介。そして健気にずっと古代を見守ってくれるのが森雪です。古代ひとりだったらここまでのドラマは生まれてなかったじゃないかなと思います。「ええいままよ」と行ってしまうだけだったでしょうね。


ーー周りにおだてられて乗るわけでもない。古代ならではの、乗るための確固たる理由があるようですね。

小野
古代が見た幻は、沖田艦長でした。艦長であり家長のような存在。その沖田さんが乗れと言っているわけです。古代にとってヤマト自体がひとつの大きな家族なのかなって思いました。

ーーとはいえ、見ている方としては、古代の気持ちは簡単には理解しがたいものです。演じた小野さんは、古代の気持ちをどのように作っていきましたか?

小野
僕は、先に何が起こるかは、あまり聞きすぎないようにしていて。その時点で起こっていること、なぜこういう考えになるのかっていうのは、常に吉田(知弘)音響監督には聞きますし、深い話ならシリーズ構成の福井晴敏さんや羽原(信義)監督に「これはどういう意味ですか」とお伺いするようにしていますけど。第二章の古代って実はすごく内省的なんですよね。内に秘めているものがあって、すごく思い悩んでいる。それを見ていると、自分と重なる部分がいっぱいあるんです。すごく気持ちがわかるんですよ。

ーー古代の状況が小野さん自身と重なるのですか。

小野
ヤマトが宇宙に行くということは、地球や自分の周囲の状況が平和な日常ではなくなるということ。その決断を本当にしていいのかって古代は悩んでいるんだけど、自分の恩人である艦長から、これはお前の使命なんだと託される。古代は使命感があるからやっぱり乗らなきゃって思うんですよね。下と上に挟まれ、自分と同じ世代もたくさんいて、いろんなところから期待をかけられている。そして決断を迫られているっていう状況が、なんかすごくよくわかるんです。現代に即した『ヤマト』を作っているわけなので、今の中間管理職の方とかはわかるんじゃないかなって。僕と同じ、39歳ぐらいの世代の方々も、古代がなぜ悩むのかがわかると思うんです。でもどこかで決断しなくちゃいけないんですよね。正直、ちょっと周りはずるいなと思いますもん。決断を古代に託すんだから。


ーーそうですね。決定を下すのは古代だけ。

小野
実は決めてくれる人ってそんなにいなくて、古代はその都度決断をする。決めたら決めたで、それを後からとやかく言われるわけですよ。あの時なんであんなこと言ったんだとか言われたら、それ俺だけのせいなの? って言いたくもなりますよね(笑)。でも古代はそんなことは言わず、全部背中に背負っちゃう。僕も仕事をしていて、いっぱいいっぱいなんだけど、どうしてもやらなきゃいけない、決断を迫られる時があるのでよくわかるなぁって(笑)。

ーー引き受けるとつらくなることも、経験上わかっているし(笑)。

小野
古代が置かれている艦長代理という立ち位置は、僕もすごく共感できるところがあるんです。古代は、自分の実体験や積み重ねてきたものをちゃんと活かせる人だなぁと思ったし、実はそれが演じていてすごく楽しい。やりがいを感じています

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■「きっと言葉がなくても意思疎通できるのが古代」

ーー古代は今回キーマンに連れられて、地球が隠していた重要な秘密を知ってしまいます。

小野
秘匿されていた部分であり、古代が知らされていなかったこと。あれはショックでしたね。ひとりの男としても、軍人としても悔しかったと思います。第一章でも、地球が一枚岩ではないことが醸し出されていましたけど、第二章で明確になるんです。それはある種、地球の裏切り。地球のためにやるべきことをやろうとしているのに、その地球がひとつになっていない。僕も演じていて怖かったですね。

ーーそれでも古代を突き動かすもの、宇宙に導いたものは何だと思いますか。

小野
『ヤマト2199』で、「俺たちは異星人とだってわかり合える」っていうようなセリフがあったんです。それってもう理屈抜きで、人と人だからわかりあえないことなんてないっていう、本当にポジティブな考え方。それは古代にしか言えないセリフだと思うんですよね。真田も島も、もしかしたら沖田艦長でも言えないようなことを、彼は理屈抜きで言えてしまう。とても愚直ですけど、何もかもをひっくり返すぐらいの熱い思いを持っている人だから。今回なぜ旅に出るのかも、突き詰めていくとそこに集約されると思っています。人と人はわかりあえないことはないっていう。あと、困っている人がいたら助けるっていう、子供の時にお母さんに教えられたようなシンプルな、人がなすべき道理であり仁義かもしれません。そういう部分を『宇宙戦艦ヤマト』はたくさん描いていると思うんですよね。


ーーだからこそガミラス星人であるキーマンだけは、理解ができないというような表情をしているわけですね。

小野
「なぜそこまでするんだ」っていうね。わからない、理解ができない。でもそのガミラスと地球は共闘していますからね。キーマンや外交官のバレルみたいに、こちらと接点を持ってくれる人たちもガミラスにはいるわけですから。古代は今キーマンに反発してますけど、あれって逆説的にとると、会話ができるっていうこと。僕はあの関係性すらもポジティブにとらえています。バレルさんとも話したら多分分かり合える気がしますし。

ーーバレルはいい人に見えますしね。

小野
いい人か悪い人かが役者さんの演技からにじみ出ている気がしますよね。てらそままさきさんの声を聞いてると、絶対バレルは悪い人じゃないなって僕は思いますし。ガトランティスのズォーダーだって見た目はすごい悪そうだけど、「愛とは」という発言に信念と、ちょっとした温かみすら感じられますからね。

ーーキーマンと二人きりで話せる古代って、ガミラスやガトランティスとの間を取り持てる唯一の地球人なのかもしれないですね。

小野
外国に行ってその土地の言葉がわからなくても、なぜか現地の人と意思疎通ができちゃう人っているじゃないですか。古代ってああいう人だと思います(笑)。そして、その人がいるとなんかみんなが助かるっていう。ガンガン前に進んでいくし、どんどん道を切り開いていく。外国人の方と話すと「言葉がわかればな」って思いますけど、確かに「人間同士なんだからわかりあえないことなんかないんじゃないか」って、僕もわりと思っちゃうタイプなので。古代がなぜ艦長代理としてヤマトを動かしているのかも、理屈じゃなくわかるんです。それはヤマトクルーがいてくれたから。だから旅に出られたんだなと、今改めて思いますね。

ーー逆に言うと、古代はひとりだと何をするかわからない?

古代
そうなんですよね。真田さんや島など知っているメンバーがブリッジにいるだけで本当に安心しますし、島が乗ってくれて本当によかったなって。スタジオで鈴村(健一)さんの顔を見てホッとしましたからね(笑)。みんながいてくれないと困ります。『ヤマト2202』はクルー同士のつながりが格段に深いなと思います。


ーーちなみに、アフレコ現場で小野さんもほかの方のお芝居や演出を聞いていると思うんですが、敵キャラクターがその後どうなるかは耳に入ってしまうのではないですか。

小野
みんな自分の役については知っている部分もあるんでしょうけど、みんなで共有しているわけではないんです。キーマン役の神谷さんは、先々のストーリーというよりも、彼は何をする人なのか、どういう立ち位置にいて、どういうことを考えて行動する人なのかを逐一、羽原さんと福井さんに聞いていましたしね。そうやって演者自身がわかっている部分は各自あるんですが、さっき言った「バレルはいい人な気がする」っていうのも憶測でしかない。でも演じているのがこの人なんだから……ってどうしても考えてしまいますよね。土方を石塚運昇さんが、山南を江原正士さんがやってるんだからって。各キャラが何を考えてるのか、どういう意思を持ってその場にいるのかが、演者さんの声で全部わかる感じがする。見事なキャスティングだなと思います。

ーー最後に、第二章の中で小野さんがお気に入りのシーンを教えてください。

小野
いろいろあるんですけど、ヤマトを発進させるために地球に残るという選択肢をしたクルーがいるんです。ヤマトに乗るだけが地球を守る使命に準ずるっていうことじゃないというのが、そのシーンで語られている。彼らも絶対に乗りたかったと思うんですよ。でも敬礼して見送ってくれる。彼らの思いも持って宇宙に行こうって強く思いましたし、アフレコをしていてもグッときましたね。そこから、威風堂々としたヤマトの発進シークエンスにつながっていく。あの一連はちょっと鳥肌が立ちましたね。旧作から見てくださっているフリークの方々は、あのシーンを見ると「あぁ、旧作と同じだ」って思われると思います。『ヤマト』の良さがあのシーンに凝縮されている気がしています。