ジャン・トッド、クリスチャン・ホーナーら、チームを常勝集団にしてきたチーム代表には、パドックにおいて共通した部分がある。それは、チーム内外を問わず、常にさまざまな人たちとコミュニケーションをとっていることである。そんな現在のF1のパドックで最も忙しくさまざまな人たちと会話しているひとりが、メルセデスのビジネス部門のエグゼクティブディレクターを務めるトト・ウォルフだ。
例えば、F1カナダGPのスターティンググリッドではこんなことがあった。長谷川祐介ホンダF1総責任者と単なる挨拶だけでなく、何やら真剣な表情で会話をしていたのである。
マシンをスタートさせるエンジニアやメカニックではないウォルフが、スターティンググリッドにいられる時間は正味、10分から15分程度と意外と短い。その限られた時間の中で、自チームのスタッフの仕事をチェックし、ドライバーを激励し、ゲストをもてなしたりと、チーム代表ともなるといろいろと忙しい。そんなウォルフが単なる挨拶だけでなく、ライバルメーカーの開発責任者と短い時間ではあるが、会話をしていたのである。
いったい、ウォルフは何を話していたのだろうか。カナダGPのレース後にウォルフを直撃した。
「将来のパワーユニットに対する意見交換だよ。2021年以降のね」
今年に入って、低迷するホンダに対して、一部のファンたちが「再び撤退するのではないか?」という不安の声が上がっているらしいが、ホンダのF1へのコミットは、私たちが想像している以上に強い。
撤退の噂はホンダだけでなく、カナダGP直前にはメルセデスにも向けられた。エディ・ジョーダンがドイツ紙のインタビューに「2018年限りでメルセデスがF1から撤退する」旨をほのめかす発言を行ったからだ。
もちろん、メルセデスはすぐさまこれを否定。ウォルフによれば、「撤退を考えているのなら、4月下旬に行われたエンジンメーカーの会議なんかに出ていないよ。今日も、その件でいくつか確認したいことがあったから、ハセガワ-サンと話をしていたんだ」という。
そんなことを、サーキットから帰ろうと歩きながらパドックの出口に向かっているウォルフから聞いていたら、ウォルフが「ちょっと待って」と言って、何度も立ち止まっていた。1-2フィニッシュを飾ったドライバーたちを労っていたのである。ルイス・ハミルトンなどはまだテレビの取材が終わっていなかったので、自分からミックスゾーンへ入って、ポール・トゥ・ウィンを祝福していた。
声をかけていたのは自チームのドライバーだけではない。カナダGPで初入賞したランス・ストロールを見つけると、握手をして健闘を讃えていた。そんなオープンなところが、パドックで人気の理由なのだろう。ウォルフの会見は、チーム代表が開く会見の中で、常に最も多くのメディアたちが集っている。