F1シーズンを転戦していると普段見かけない人との出会いがある。そんな人に、「あなたは何しに、レースに来たのか?」を尋ねてみる特別企画なのだが…今回はFIAレースディレクターを務めるチャーリー・ホワイティングだ。カナダGPで復活した“いかだレース”にスターターとして登場した。
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約20年ぶりに復活したカナダGPでの『いかだレース』には参加者だけでなく、多くの興味深い人々が集まった。そのひとりがFIAのレースディレクターを務めるチャーリー・ホワイティングだ。
今回のいかだレースはリバティ・メディアによって復活したわけだが、FIAも大いにサポートしていた。その象徴が、F1のレースでスタート台に立ってシグナルの操作を行うホワイティングが、いかだレースのスタートの合図を行なっていたことだ。
ホワイティングだけではない。FIAはFOMが主催したこのレースに『FIAチーム』を結成して参加。ジャン-マリー・バレストル&バーニー・エクレストン時代には考えられない光景である。
ホワイティングがいかだレースにやってきたのは、スタートの合図をやるためだけではない。「かつて自分が参加したこともあるいかだレースの復活を生で味わいたかったからだ」とホワイティングは語る。
だから、ホワイティングはスタート後も会場に残って、レースを楽しんでいた。レース後はこちらも90年代にいかだレースに参加したというザウバーのベアト・ツェンダーチームマネージャーと昔話に花を咲かせていた。
そんな楽しいいかだレースに参加しなかったチームが3つある。メルセデス、フェラーリ、そしてフォース・インディアだ。理由はそれぞれこうだ。
「通知されたのは2、3日前。チームには『参加して楽しんで来なよ』と案内を出したが、スポーティングディレクターのロン・メドウが『あいにく、先約が入っているので、今回は勘弁してほしい』という返事があった」(トト・ウォルフ/メルセデス)
「連絡が遅すぎたんだよ。土曜日の夜はグランプリの週末で唯一、自由行動となっていて、すでにみんな予定が入っていた。チームとしては、プライベートを優先して、参加を強制することはできなかった」(フェラーリ広報)
「われわれはレースをやりにサーキットに来ているからね」(アンドリュー・グリーン/フォース・インディア)
これらの説明にやや無理があるのは、いかだレースで盛り上がっているボート場の横に、たたずんでいるフェラーリやメルセデスのスタッフがあったからだ。
今回のいかだレースはリバティ・メディアが主催したが、実際にパドックでイベントをリードしたのはレッドブルだったと聞く。そういえば、スタート前に自チームのスタッフを激励するために駆けつけたクリスチャン・ホーナー代表はメルセデスとフェラーリが参加を見送ったことに対して「ひどい話だね」と非難していた。
もしかすると、リバティ・メディアとの関係における温度差が今回のいかだレースの出欠となんらかの関係があるのではないかとも考えられる。20年ぶりにいかだレースが復活したこと自体は喜ばしいニュースだったが、その影で政治的な駆け引きが見えてしまう現在のF1は、やはり20年前とは状況が明らかに変わってしまっていた。