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佐藤広大が語る、ブラックミュージックの影響生かした“表現の幅”「絶対必要なパズルのピース」

2017年06月19日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

 この2月に『スノーグローブ』でメジャーデビューし、活動拠点であった北海道から大志を抱いて全国区へと歩みを進めた佐藤広大。人懐こい笑顔とフレンドリーな人柄を映す歌声に、温かい光をもらった人も多いはず。そんな彼から、「スノーグローブ」とは全然違うサウンド志向のデジタルシングル「MONEY IN THE BANK」が届いた。すごく意外だったのだが、実はそれが全然意外じゃないことがこのインタビューで判明。音楽性の広さを知るにつけ、今後の活動の奥行きへの期待が膨らんだ。ルーツを知って聴くと、「MONEY IN THE BANK」がますます面白い。(藤井美保)


・自分のルーツ的なところも伝えたい


ーー「MONYE IN THE BANK」を聴いてまず思ったのは、「えっ、同じ人?」でした。


佐藤広大(以下、佐藤):アハハ。ありがとうございます(笑)。


ーー心温まるデビューシングル曲の「スノーグローブ」のあとにコレって、もともとプランとしてあったんですか?


佐藤:デビューシングルの2曲(「スノーグローブ」「Diamond Dust feat.EXILE SHOKICHI」)に関しては、僕という存在を知ってもらうためのストーリーを伝える楽曲にしたいと思っていたので、あえてストレートで温かいサウンドにしました。でも今回の作品では、「実はこういうR&B系が好きで、そればっかりかけるラジオ番組を持ってたりもするんです」と、自分のルーツ的なところも伝えたいと思ったんです。80年代、90年代のブラックミュージックにはやっぱり多大な影響を受けてますから。


ーーその作戦、意外性にまんまと引っかかりました。


佐藤:うれしいです。「これ、同じ人?」って言われたりすることに、快感を覚えるタイプなので(笑)。もちろん、「また同じ感じね」というときもきっとあると思うんですけど、今この時点では、「何なの? この人」ってくらいちょっとミステリアスで、「次は何を聴かせてくれるんだろう?」と期待感が膨らむほうが面白いなと。


ーーせっかくなので、今回のレコーディングのお話の前にルーツについてうかがわせてください。リアルタイムで影響を受けたのは90年代のブラックミュージックですか?


佐藤広大:90年代後期から2000年代前半かな。西海岸のヒップホップから入っていったんですけど、当時のヒップホップってけっこうR&Bと寄り添ってた時代なので、そこからインスパイアされて、ブラコン(ブラック・コンテンポラリー)やAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)などの歌モノ、それからファンクというふうに、ジャンルも年代も掘っていきました。「自分が生まれた頃ってどんな音楽があったんだろう?」と、80年代からさらに70年代のサウンドにもフォーカスしていきました。僕は85年生まれなので、世の中はマイケル・ジャクソン全盛期だったわけです。


ーーいちばん好きだった音楽というと?


佐藤:ボーカルグループですね。JodeciとかK-Ci&JoJoとかBlackstreetとか。90年代には数え切れないほどの男性ボーカルグループがいましたよね。112、Dru Hill、Take 6……。あと、ニュージャックスウィングを確立したテディー・ライリーが大好きで、だからトークボックス(注:トーキングモジュレーター。人が喋っているようなイントネーションを音に加えるエフェクター)にも興味がいったんです。2パックなどヒップホップ・シーンでトークボックスを使ってる人を聴くうちに、サンプリングの元ネタであるZapp & Rogerに行きついて、「ああ、また80年代だ」となって。だから学生時代は、80、90、2000年代を右往左往してました(笑)。


ーーメインパーソナリティをしているNORTH WAVEのラジオ番組では、そういった音楽を紹介しているんですか?


佐藤:そうなんです。『from R&B』という番組をやっているのですが、トークボックスについても特集しましたよ。若い子たちが知ってくれたらいいなと思って。最近ブルーノ・マーズが『24K Magic』でトークボックス使ってるじゃないですか。


ーーそうそう。あれ、私も大好きです!


佐藤:若い子たちは新鮮な感覚で聴いていて、それはそれで素晴らしいと思うんです。でも、「実はトークボックスって80年代にピークがあったんだよ」ということもちゃんと伝えたい。そう思って、時代ごとの使い方の違いなんかも紹介しました。


ーー90年代に限ると、自分の中にいちばん取り込めてるのは?


佐藤:ずば抜けて好きなのは、さっきも挙げた2パックですね。歌という部分ではRケリー。年代を区切らなければスティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイももちろん好きです。The Isley Brothersにも影響を受けてますね。ファルセットはアイズレーやアース(Earth, Wind & Fire)から学びました。とはいえ、The Sugarhill Gangやグランドマスター・フラッシュも好きで、実はそのへんの感じをやりたいなと企んだりしてます(笑)。


・曲の中だったら虚像を作れる


ーールーツをうかがうと、今回の「MONEY IN THE BANK」によりうなずけますね。制作の最初のイメージはどんなものでしたか?


佐藤:ギター・カッティングやBPMも含めて80年代の音楽をリバイバルさせることで、新しさに繋げたいなと思ってました。


ーーああ、あのカッティングを聴いたとき、Chicのナイル・ロジャースが浮かびました。曲はどんなふうに?


佐藤:『スノーグローブ』に収録した「Diamond Dust feat. EXILE SHOKICHI」を作ってくれた作家陣が、「これはどうだい?」と渡してくれたのが、まさに描いていたイメージにピッタリで、即決しました。80年代にフォーカスしながら、現代のニュアンスもしっかり入ったものにしたかったんです。


ーーポイントはどこでしたか?


佐藤:ボーカルの扱い方ですね。Bメロでは、けっこうオートチューンをキツくかけてます。その金属っぽい響きは今っぽくて、BPMは80年代のKool & the Gangの「Fresh」風。で、そこにトークボックスが入ってる。僕の中ではトークボックスは90年代の象徴なので、80、90、2000年代と、僕が通ってきた道が凝縮されてるわけです。


ーー歌詞がセクシーで、『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズが浮かんだりします。その世界観はどういうふうに?


佐藤:完全なる妄想です。主人公はまったく僕とは異なる人物。僕はそんなにヤンチャに恋を進めるタイプではないので(笑)。


ーーウハハ。そうなんですね。


佐藤:慎重に、丁寧に、です(笑)。でも、曲の中だったら虚像を作れるじゃないですか。その醍醐味をめいっぱい活用しました。


ーー〈MONEY IN THE BANK〉ってフレーズもハマッてます。


佐藤:その言葉からのインスピレーションで想像を膨らませていったんです。ちょっとミステリアスな疾走感のある曲なので、なんかこう一歩一歩こっそり近付いてく強気な男が思い浮かんだ。その男性が、銀行のお金を盗むような感じで女性のハートを盗むっていうのはどうだろうと。それこそトム・クルーズやルパン三世ですよね。ヤンチャで、ちょっと危なっかしくて、だけど自信があって、最終的には結果オーライで盗み出しちゃうみたいなキャラクターを作りました。


ーーコミカルなポップさも感じられて素敵です。


佐藤:サビは特にキャッチーだと思います。“ウォウウォウウォッオー”とか〈MONEY IN THE BANK〉とか、ライブでみんなが声を出しやすい仕掛けにもなってます。


ーーサウンドに関して、広大さんからのこだわりは、やはりトークボックスの現代風な使い方みたいなところでしたか?


佐藤広大:そうですね。今回はちょっと控えめに使ってますけど。


ーーフレーズのカッコよさやモジュレーションの効かせ具合などいろいろあると思うので、けっこうテイクを重ねたんじゃないですか?


佐藤:はい。特にイントロ部分は最後まで粘りました。盗む前から盗むまでを追った歌詞なので、「だんだん近付いてきてる」という躍動感を、トークボックスの使い方の変化で表現したかったんです。


ーー歌うという部分で心したことはありますか?


佐藤:リズムにはこだわりました。1番、2番ともAメロの頭の部分のグルーヴには特に。あと、録り方でいうと声をダブルにするのにWAVES Doublerという機材を使ったことです。


ーーダブルにはなってるなと思ってたんですが。


佐藤:普通ダブルって、まず1テイク歌を録って、重ねるためのもう1テイクを録って作りますよね。でも、WAVES Doublerで、1テイクをコピーして、重ねる用にボリュームなどを調整してダブらせるんです。そうすると独特のツヤが出て、さらにそこにオートチューンがかかると、ちょっと金属っぽい鳴りになる。


ーー2回録って重ねるのとは全然違う響きになるんですね。


佐藤:そうなんです。本来ダブルは、録った2つの声のズレによって厚みが出るんですけど、この曲に関しては、そういう厚みじゃないほうがむしろいいと思ったんです。


・発信する側として自分を磨いていきたい


ーー驚いたのはラップです。それこそ同じ人に思えなかった。声の低いところもすごく出ていて、男前なラップだなと。


佐藤:男らしさを狙って、チェスト・ボイスを意識しました。あと子音の強さですね。ホントにツバを飛ばすぐらいに発音してたので、滑舌よく聞こえると思います。ここまで子音が強いラップは初めてやりましたね。


ーーホントにいろんな引き出しがどんどん開いているんですね。


佐藤:最初に言ったように、「次はどんなことをやるんだろう?」って思われる存在でいたいんですよ。テクノも好きなんで、デトロイト・テクノ的なこともやテクノ・ポップ的なこともやってみたいし、もろポップ、もろロックなこともやってみたいなと。


ーーそれで思い出したんですけど、先日ライブでウルフルズの「笑えれば」を歌ってました。泥臭いソウルフルさがすごく印象的で。


佐藤:実は、それ、いちばんやりたいものなんです。というか、僕のいちばん真ん中のものですね。スタイリッシュなこともやりつつ、最終的には「あいつ魂の歌を歌うね」ぐらいの存在になれたらと思っているんです。日本人としていかに日本語で魂を届けるか、そこは目指していきたい。でもそこに行き着く過程では、「MONEY IN THE BANK」みたいな曲も必要だと思ってるんです。


ーー壮大なプランがあっての一曲なんですね。


佐藤:トータルで自分の世界と呼べるものを作っていきたいですね。歌だけじゃなく、人間としても成長しつつ。


ーー「笑えれば」を聴いたとき、心の芯がのぞけた気がしました。


佐藤:「音楽で人生は変えられる」って僕は本気で思ってるんですよ。すごく落ち込んでるときにライブを観て、もう一度立ち上がろうと思えることってあるじゃないですか。もしかしたら歌が命を救えちゃうかもしれない。それって本当に素敵なことだと思うし、なにより僕自身がそうやって人生を変えてこれたので、今度は発信する側として自分を磨いていきたいと思ってるんです。


ーー将来、そういったド真ん中の曲を生み出すことも目標ですか?


佐藤:そうですね。実は僕の真骨頂という曲が1曲あるんです。ふとしたときにマジで心から溢れたことを綴った曲。リリースはしてないので、知ってるのは僕のライブに来てくれてた一部の方たちだけなんですけど。時機到来となったときに出せれたらいいなと。


ーー楽しみが増えました。8月、10月と配信が続くそうですね。


佐藤:はい。配信ではブラックミュージックに特化したものがやりやすいと僕は思ってるんです。マニアックな人が目を止めるようなものをやってもいいのかなと。「佐藤広大ってけっこうイケイケな音楽もやるんだね」というふうに、アルバムに向かうひとつのストーリーとして認識してもらうことが重要だなと。今後のビジョンにとって絶対必要なパズルのピース。いつかそれがしっかり報われるときが来ると思ってます。


ーーそろそろアルバムに照準が合ってきてるんですね。


佐藤:たった今制作してるのは、ブラックミュージック寄りのサウンドが多いですね。歌詞にもすごくこだわってます。ユニークな曲もできてきつつあるので、ぜひ、楽しみにしててください!


(取材・文=藤井美保/写真=竹内洋平)