マクラーレン・ホンダの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レースごとに、週末のマクラーレン・ホンダのコース内外の活躍を批評します。今回は第7戦カナダGPを、ふたつの視点でジャッジ。
————————
期待されていたアップデートをカナダGPに投入できなかったホンダに対して、マクラーレン側はザック・ブラウン(エグゼクティブディレクター/マクラーレン・テクノロジー・グループ)を中心に、ホンダへの批判を公然と行なった。
「ホンダは一生懸命やっているが、十分ではない。モントリオールにアップグレードが入らなかったことは、残念なんていうレベルの話ではない。もう失望でしかない。しかも、いつアップグレードが入るのかわからないと言われれば、われわれがフラストレーションを募らせているのも理解してもらえるだろう」
フェルナンド・アロンソも「僕たちがストレートで失っているタイムを見れば、マクラーレンの車体がとてもコンペティティブであることは事実だ。われわれには素晴らしい車体と速いドライバーがいる。足りないのはエンジンパワーだけだ」と語った。
ホンダのパワーユニットがライバルに対して性能面で劣っていることは、ホンダの長谷川祐介総責任者も認めている。だが、パートナーから「十分ではない」とか「足りないのはパワーだけだ」と公の場で批判されるほど、“ダメ”なエンジンなのかと言われれば、首を傾げたくなるのも事実。
というのも、厳しい戦いが予想されたカナダGPの予選でアロンソはトップ10にあとコンマ3秒の12番手を獲得。レースでも終盤までポイント圏内を走行していたからだ。しかも、長谷川総責任者はその走りをある程度、予想していたという。つまり、メルセデスPUを搭載するフォース・インディアにはかなわないものの、ルノーPUを搭載するルノーやトロロッソ、フェラーリPUを搭載するハースとはほぼ互角。つまり、状況は昨年と大きく変わっていない。
そのことはタイムを見てもわかる。Q3で7位に入ったウイリアムズのフェリペ・マッサのタイムは1分12秒858。Q2のアロンソのベストタイムが1分13秒693だから、その差は約0.8秒。現在のF1は平均して10馬力=0.2秒と言われているから、マクラーレンとウイリアムズの車体性能が同じだと仮定すると、メルセデス・エンジンとホンダのPUの差は約40馬力ということになる。
したがって、「100馬力も劣っている」という批判に論理的な根拠はない。実際、スペインGPが行われたカタロニア・サーキットでの車載映像を比較すると、マクラーレン・ホンダがポールポジションを獲得したメルセデスAMGに対して差を広げられていたのは、直線区間よりもコーナーだった。車体も決してナンバーワンではない。
もちろん、だからといってホンダのPU開発を肯定するつもりはない。それは復帰3年目の今年、表彰台争いを狙っていたホンダ自身が、第2集団にいること自体に納得していないはずだ。だからといって、言われているほどパニックになるような深刻な状況でもない。じつはルノーも現在、性能面で課題を抱えているが、アップグレード投入の見通しは立っていない。
そういう意味では、いま抱えている最大の問題は再びトラブルが再発し始めていることだ。エンジンの性能が変わらなくても、もしトラブルに見舞われることなく、かつ入賞圏内を走行していたレースでポイントを獲得していれば、状況はいまとは大きく異なっていたはず。
ホンダにとっての喫緊の課題はパワーを上げることよりも、まずは性能を落とさずに信頼性を保つこと。焦りは禁物だ。
F1速報WEBでは辛口コラムも掲載中
マクラーレン・ホンダ辛口コラム カナダ編:速く走れば壊れる…恥ずかしい週末に高まる不信感