2017年06月19日 11:13 弁護士ドットコム
少女への強制わいせつの疑いで再逮捕された男性が「成人向け漫画の手口を真似た」と供述したことを受けて、埼玉県警がこの漫画の作者に対して、「異例」の申し入れをおこなったことが、インターネット上で物議を醸している。今回の申し入れについて、マンガやアニメなど「表現の自由」を守る活動に取り組んでいる前参議院議員の山田太郎氏に聞いた。
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「まず、被害に遭われた方の保護やケアが最も優先されることを望みます。
そのうえで、創作物の作り手が毎回、作品をつくることで『模倣犯罪が起ったらまずい』と萎縮する可能性があると考えています。
これまで小説や映画の犯罪の手口の模倣をおこなわれたケースは数多くありますが、それらは、特に警察からの要請があったということはきいていません。今回の作品は、広く公開されている小説や映画の類ではなく、未成年からも区分されて発表されたものと伺っています。
判断能力がまた稚拙な未成年(未成年の人はすべて判断能力が稚拙というわけではなく、仮にということとして)が犯した犯罪ではなく、あらゆる判断能力を問われる成年犯罪です。
作品を参考に犯罪がおこなわれたといっても、『創作者に何を要請するのか』『現行の創作物を回収することなのか』『今後似たような創作をするなということなのか』『その作家だけへの要請なのか』『幅広く類似の創作物について自粛等を警察は呼びかけていくのか』、まったくわかりません。
いずれにせよ、創作物によっては問題になるという意識から、創作物への自主規制は大きくすすむと考えられます。特に作品の流通企業、テレビ局、映画配給制作会社、出版社など、『警察沙汰になってはマズイ』とメディアによる自主規制は強くすすむものと考えられます」
「繰り返しますが、被害を受けた方の保護やケアが最優先されることを求めます。そういう意味では、創作物がまだ、継続的にその被害者の方を苦しめているという場合、何らか取り除くための措置、それは規制よることを含めて、ただちに実行されなくてはなりません。
児童ポルノの単純所持やリベンジポルノの議論は、いくつかの問題を抱えているものの国会での法制化が進み、私も一定の支持をしてきました。
しかし、法的にも個人の判断能力で責任を取らなくてはならない成人の事件については、創作物がその犯罪の参考になったとしても、創作物の目的が事件の誘発を唆すものではない以上、罰せられたり、削除されるべきではないと考えています。
その創作物の影響によるあらゆる結果について懸念を発し、最初からそういった創作物はつくらないほうがいいという視点は、創作活動の萎縮をもたらします。
今回の作品の表現が比較的きついものであったことから、ネットの意見でもこの手の作品は取り締まるべきだとの声もあります。しかし、表現の内容いかんを問わず、すべての創作物は、その読み手に対して良くも悪くも影響を与えるものであり、悪いと思われるものも想像の世界で触れることによって、善悪の判断の能力を育てる場合もあります。
昨今、刑事事件のドラマが流行っていますが、その多くは殺人事件を扱っています。犯人の様々な手口が描かれていますが、巧妙な手口で、また事件の解決が困難なものほど人気があるように思います。
だからといって、多くの視聴者は『その犯人が逃げ切れればいい』『もっと多くの人がその犯罪者によって傷つくといい』とは思っていないはずです。『善とは何か、悪とは何か』単純ではありませんが、その作品から学び、判断の力を高めることになるのだと思います。
これらを完全に規制で取り締まり、まるで犯罪などない世界だと描くことが世の中の健全な発展のために本当にいいことなのか考えるべきです」
「創作物は、基本的に、どんな表現も自由です。それは創作の発露は内心の自由だからです。しかし、その表現によって受け手が受ける影響については責任があることも忘れてはなりません。
今回は、創作物によって模倣犯が犯罪を犯したという微妙なケースですが、構造を考えれば創作者は、犯罪誘発を意図としていないこと、創作物そのものによって相手が傷ついたのではなく、それを犯罪者が解釈して犯罪を犯したのであり、直接的な表現による相手への被害ではないケースです。
むしろ、そのような創作物に影響を受ける判断能力があるはずの成人側への教育などがよほど問題であることを、この事件の本質とすべきだと思います。
私は、表現、特にコンテンツ表現の自由については、これまでいくつかの重要な懸念を持っていました。それは以下の点です。
(1)青少年健全育成法などの法律でエロ、グロ、暴力などを含む創作物が法律で規制されること
(2)2次元表現(実際に存在しない創造上の表現)が実在の人を元にCADなどにより限りなく3次元として描かれて境目がなくなること
(3)著作権法が強化され、または曖昧な部分が恣意的に判断され、パロディや二次創作そのものが違法であると追い込まれること
(4)創作物などの模倣犯罪などにより、創作物が原因であるとの指摘から、今後、犯罪に繋がるかもしれないと萎縮し自主規制がすすむこと
(5)青少年の育成に影響があると、PTAやその他の団体からの指摘により萎縮し自主規制がすすむこと
(6)刑法175条(わいせつ物頒布等)などの解釈により表現規制が強化されること
今回のケースは、そのまま(4)のケースでした。そのほかの懸念事項も実際に起こっています」
(弁護士ドットコムニュース)