2017年06月17日 10:33 弁護士ドットコム
日本の美術館ではNGとされていた作品の撮影。しかし近年、スマホやSNSの普及から許可する例が増えているようだ。
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たとえば、弁護士ドットコム本社からほど近い、東京・六本木の国立新美術館。今年2~5月にあった「草間彌生 わが永遠の魂」展では、会場入ってすぐの立体作品や絵画など数十点が撮影でき、大勢の来場者が携帯を向けていた。
国立新美術館では、6月5日まであった「ミュシャ」展でも、日本初公開となる連作「スラヴ叙事詩」の一部が撮影可能。記者のフェイスブックにも友人たちの投稿がバンバン流れ込んできた。
美術館で撮影した作品の写真は、自由に使っても権利の問題は生じないのだろうか。撮影・投稿で気をつけたい点について、木村充里弁護士に聞いた。
ーー著作権上の問題は発生しないの?
美術作品には、原則として、著作権があります。作品の写真を撮影したり、撮影した写真をSNSなどインターネットにアップしたり、といった利用をするには、著作権者の許諾を得る必要があります。
そのため、美術館で作品の写真撮影が許可されている場合は、案内の範囲で、写真を撮ったり、利用したりすることについて、著作権者の許諾があるものと思われます。たとえば、「特定の場所にある作品の撮影のみOK」「カメラの撮影は禁止、携帯電話での撮影のみOK」「フラッシュや三脚の使用禁止」といった具合です。
ーーでは、ゴッホやモネ、ルノワールのようにすでに亡くなっている作家の場合は?
著作権は、作者が亡くなってから一定の期間が経過すると消滅します。日本では作者の死後50年、ヨーロッパやアメリカでは70年で消滅します。著作権が消滅した作品には、著作権の保護は及びません。
もっとも、美術館など作品の所有権者が、撮影を禁止したり、一定の条件をつけたりしているケースはよく見られます。所有権という観点で見ると、こうした規則に違反した場合でも、ただちに所有権の侵害にはなりません。所有権は、写真を撮影したり、書籍やグッズにしたりという無体的な利用(情報価値の利用)をコントロールする権利ではないからです。ただし、態様や結果によっては、不法行為責任を追及される場合があります。
では、撮影しても問題ないのかというとそうではありません。著作権の保護の有無にかかわらず、禁止事項を破ることは、美術館の施設管理権を侵害することになるからです。つまり、美術作品の撮影は、著作権と施設管理権の双方にかかわる問題だということです。
ーー撮影した写真はどのように利用しても良いの?
すでに説明した通り、撮影した写真に著作権者の権利が及ぶことに注意が必要です。「自分が撮った写真だからどのように使ってもいい」ということではなく、「著作権者が許してくれる範囲内でのみ利用できる」「許されるかどうかは、著作権者の裁量次第である」と考えましょう。
プリントして家に飾ったり、個人的なアルバムを作ったりなど、私的に楽しむ分には問題ありません。また、携帯での写真撮影が許されている場合で、美術館の案内でSNS投稿が禁止されていないなら、常識的な範囲・態様での投稿は許されるのではないかと推測します。
ただし、「営利目的の使用」や「写真に変更を加えること」など、明示的に禁止されていることはもちろん、禁止されていないことでも、常識で考えて不当な利用の仕方をした場合には、著作権侵害と言われるおそれがあります。
色々注意点を述べましたが、作者や企画者が作品の撮影を許したのは、よりたくさんの人に、より自由に作品を楽しんで欲しい、と考えたからではないかと思います。その気持ちに沿うことが一番大事なのではないでしょうか。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
木村 充里(きむら・みさと)弁護士
京都大学法学部・京都大学法科大学院卒。京都市内の法律事務所勤務を経て独立。著作権法分野、企業法務、医療機関や公益法人等のコンプライアンスなどに注力している。著作権について解説する漫画「僕と彼女と著作権」をWeb連載中。
事務所名:暁の法律事務所
事務所URL:http://aurora-law.jp/