トップへ

Yogee、yahyel、The fin.……ルーキー~フジロック初出演組に共通する“2017年らしさ”

2017年06月16日 15:03  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 21回目を迎える『FUJI ROCK FESTIVAL』の開催まで一カ月強。今年は長くフジロックに通いつめる層も、コアな若い音楽リスナーもそのラインナップを見て「ヤバい!」連発の、国内外の音楽シーンをある程度俯瞰できるジャストな顔ぶれが揃う。Gorillazの初登場しかり、小沢健二とコーネリアスのシーンへの帰還のタイミングでの出演しかり、だ。


(関連:Suchmosはなぜ大ブレイクしたか? 『THE KIDS』の“今の時代らしさ”を読む


 そんな中、日本のインディーシーンからさらに広いフィールドで勝負できそうな初出演のニューカマーを一望してみたい。実は多くのバンドがゲート外の新人登竜門ステージ「ROOKIE A GO-GO」出演経験バンドなのだが、当初、くるりやASIAN KUNG-FU GENERATIONも経験したこのステージ。00年代には必ずしも、シーンに影響を与える存在に成長したバンドを輩出していないのも事実。が、ここにきて2011年のcero、2014年のSuchmos、2015年のD.A.N.らがゲートをくぐり、各々「WHITE STAGE」や「RED MARQUEE」でキャリアの分岐点となる好演を見せたことは記憶に新しい。


 例えば昨年のSuchmosはフジロックのWHITE STAGE出演のために「A.G.I.T.」を作曲、レイテストアルバム『THE KIDS』のオープニングチューンとなったという意味でも、フジロック初出演は一つのキャリアハイと言えるだろう。そう、ここ2~3年、フジロックの新人ステージとその後の本ステージへの進出のプロセスが、最近の日本のバンドシーンになかったジャンル感や音楽性を作り出している。


 現段階で今年は初出演にしていきなりWHITE STAGEを任されたバンドはいないが、多くのニューカマーが登場するRED MARQUEE出演バンドを見ていこう。「ROOLIE A GO-GO」2014年出演組としてはThe fin.、2016年出演組ではyahyel、そしてファン投票によってゲートをくぐることになったのがMONO NO AWARE。そして、ルーキー経験はないものの、yahyelにも参加している杉本亘と大井一彌が在籍するDATS、そしてDYGL(デイグロー)辺りは注目だ。


 まず去年のルーキー段階で既に頭一つ抜けた、ダークなエレクトロ・サウンドで存在感を発揮していたyahyel。昨年11月リリースの1stアルバム『Flesh and Blood』も、初期ジェイムス・ブレイクやThe xxらを好きなリスナーからは「もう一歩オリジナリティが欲しい」というリアルな反応もありつつ、概ね好意的な評価を得た。その後、Warpaintの来日ツアーでオープニングアクトを務める一方、『VIVA LA ROCK』など間口の広いフェスにも出演。しかし何より、「メンバーにVJがいるユニークさ」と評された当人・山田健人は宇多田ヒカル「忘却 featuring KOHH」や米津玄師「orion」のMVを手がけ、彼の作るフォギーさと生身の境界線が曖昧な美意識が、オーバーグラウンドの世界からも熱烈な支持を得た印象が実のところ最も強い。深夜帯の口火を切り、アルカとジェシー・カンダというアクの強いコンビにバトンを渡すスロットで新たな一歩を刻み付けることができるのか?


 目下、ロンドン拠点で制作も生活も行なっているThe fin.。ロンドンはもちろん、韓国、ウランバートルやモンゴルでもライブを予定しており、純然たる音楽でのコミュニケーションに果敢に、そして自然体で挑んでいるようだ。先日、配信がスタートしたシングル「Afterglow」では、従来のドリーミーで桃源郷的なサウンドの中にもベースが強化された印象もあり、エレクトロポップから踏み出した新たな表現については、今夏リリースのニューアルバムで確認することができるだろう。それにしても毎度、彼らのライブのギターサウンドの美しさやフランクな佇まいに魅了される身としては、今回のフジロックでさらに世界のどんなバンドとも違った音と佇まいを見せてくれるか、注目したい。


 そのThe fin.やDATSとも対バンを行うDYGL。というか、ボーダレスな新世代を代表する彼らが、一つのテーマの元に集結することは多い。4月にリリースした1stフルアルバム『Say Goodbye to Memory Den』は、ニューヨークでThe Strokesのメンバーであるアルバート・ハモンドJr.と彼らのエンジニアがプロデュースに関わった、いかにもモダンな音像のアルバム。5月に渋谷WWW Xで2日に渡って行われたライブはソールドアウトの大盛況で、ロックンロール・リバイバルがリアルタイムの世代から10代まで、シンプルだがどこか突き動かされる曲やメロディの良さに、幅広いファンが付いていることを実感させた。エレクトロファンクやラップ・ミュージック、新世代ジャズ以降の海外の音楽性と歩調を合わせるニューカマーが多い中で、4ピースの生々しいロックンロール・バンドの良さが際立つ。しかも、音楽で軽々と世界にコミットするスタンスは他の同世代バンドと同じというあたりもDYGLのユニークなところだろう。


 前述のyahyelでも活動するメンバーを擁するDATS。いわゆるギターロック・バンドから、レーベルを<rallye>に移籍してからのシングル『mobile』、そして5月にリリースしたばかりの初のフルアルバム『Application』はそのテーマを「SNS世代のリアル」と称し、ハウスやエレクトロミュージックとバンドサウンドを融合したサウンドの上で、20代前半の彼らにとって当たり前のギアであるモバイルやアプリを通して、普通の毎日を描写。そこで自然と浮かぶ疑問や共感をリスナーに委ねる。音源でもクールな中にエモーションを見せる彼ら、ライブではさらにフィジカルな側面を打ち出すので、そのギャップやプレイヤビリティも確認してほしい。


 前年のルーキー出演バンドで本ステージに出てほしいバンドを投票で決定する「selected by ROOKIE A GO-GO」で見事に勝利したのがMONO NO AWARE。今年3月にリリースした1stアルバム『人生、山おり谷おり』が、狭義のインディーバンドの枠に収まらない音楽性で評価を受けている。その、はっぴいえんどもニューウェーブもポストパンクもファンクも内包しながら、音楽的に高飛車になることなく、なんなら少し脱力したり笑える楽曲に落とし込むセンスが絶妙。フロントマンでボーカル&ギターの玉置周啓の溢れ出るおかしみと言葉のセンスにはぜひ注目を。


 さて、これまで本ステージに出演していなかったことが不思議なぐらいの今年の大本命が、2014年のルーキーに出演し、今年、ついにゲートをくぐる。それが、Yogee New Wavesだ。前作『PARAISO』以降、メンバー交代があり、いよいよニューアルバム『WAVES』に向けてのライブや制作で、新メンバーの竹村郁哉(Gt)、上野恒星(Ba)が定着。バンドにタフネスを持ち込んだ今が必然的なタイミングだったのかもしれない。はっぴいえんど~サニーデイ・サービスなど脈々と流れる日本語のロックのDNA、都会っ子が紡ぐロマンチックで切ない、心のどこかでいつも大事にしたい音楽――盟友Suchmosとは音楽性こそ違えど、マインドの部分で共振する彼らが、チルなムード満点の「FIELD OF HEAVEN」に出演すること自体、気分が上がる。


 他にも2015年にルーキーに出演したTempalay、彼らの盟友でもあるドミコが「苗場食堂」に登場するのも興味深い。ともにUS西海岸のサイケデリックなテイストを血肉化しているバンドだが、Tempalayは実際、USのUnknown Mortal Orchestraが直接の影響源であることを公言している。一方のドミコはギター&ボーカルとドラムの最小編成で、The White Stripesをぐっとキャッチーにしたような中毒性の高い楽曲を鳴らす。二組とも古いマニアックな音楽もディグる貪欲なリスナーであり、バンドの形態にこだわらず、まずはやりたいことをやってみる、そうしたら突き抜けた曲ができた! というセンスとガッツが共存している。いい意味で日本のバンドシーンは窮屈そうな、キュートなフリーキーさが魅力的だ。


 もちろん、今回紹介したバンドはフジロック以外の今夏のフェスでも活躍を見せてくれることだろう。だが、日本の若手を確かな審美眼でフックアップし、新しい価値観を提示する今年のフジロックに初出演することの意味は大きい。見どころ満載の3日間だが、ぜひ彼らがキャリアハイを見せる現場に出くわしたい。(石角友香)