「放射能を調べる」と偽って女子中学生にわいせつ行為をしたとして30代の無職の男性が逮捕された。毎日新聞などの報道によると、男は成人漫画を模倣したと供述しており、県警は作者に作品を真似た犯罪が起こらないように配慮してほしいと要請。作者は「少女が被害に遭うような漫画」は今後描かないと了承したという。県警幹部は「同様のケースがあれば今後も申し入れを検討する」と話している。
こうした報道を受け、ネット上では表現規制への懸念が高まっていた。そうした中、自民党の小野田きみ参議院議員(34)が6月15日、警察庁の担当者に聞いたという内容をフェイスブックで報告。犯人が模倣したとされる漫画の作者・クジラックスさんもツイッターで警察とのやり取りを説明した。
警察は「行為の真似は犯罪である事等を記載するというご提案をしていく」
小野田氏はこれまでも漫画やアニメに対する表現規制に反対してきた。自民党の一部男性議員たちから「漫画は性犯罪の要因の1つ」という旨の発言があったときも、「漫画をはじめ2次元を犯罪の要因としないでほしい」「実際の子供達に手を出す人間を取り締まることは重要だが、2次元と混同して話すのはやめてくれ」と反論していた。
今回の県警による要請も看過できなかったようだ。小野田氏は警察庁刑事局の担当者に事実確認をし、フェイスブック上で報告。報道は事実とは若干異なっていると説明した。
県警は同様の漫画を描かないように要請したのではなく、「この作品はフィクションです、作中の行為を真似すると犯罪になります。一切の責任を負いません」と表記した方が作者の「自衛」になる提案したという。作品を真似したという犯人の供述に「巻き込まれないように」するためだ。
報道では、同様のケースについても今後申し入れを行っていくとされていたが、
「フィクションであることと、行為の真似は犯罪である事等を記載するというご提案をしていくことを検討する」
という趣旨だったという。クジラックスさんに対し、「少女が性的被害に遭うような漫画」は今後描かないように圧力をかけた事実もない。
小野田氏は、報道が事実とは異なることに安堵しながらも、
「もしこの記事の内容が事実だとしたら、容疑者が『この〇〇を真似しました』と言ったら、そこに挙げられた漫画、ゲーム、アニメ、小説、ドラマ、ニュースなどに全てその様な描写をしないように指導することになります。とんでもないことです。刑事ドラマ、サスペンスドラマ、犯罪を取り扱うニュース、すべてNGになるではないですか」
と問題提起し、表現規制への懸念を改めて表明した。
「表現の自由が脅かされた」とか「警察の圧力に屈した」とは思ってほしくない
クジラックスさん本人のツイートを見ても、警察からそれほどの圧力があったわけではないことがうかがえる。15日に投稿されたツイートによると、警察からの「<作品内容が模倣されないような配慮>のお願い」はあったが、「曖昧」なものだったという。
また今回模倣された『がいがぁかうんたぁ』のような作品は今後描かないかもしれないが、それは警察の圧力とは関係がないようだ。「自分の描きたいものの興味も変遷していっているのでご時世関係なく『がいがぁかうんたぁ』っぽいものはもともともう描かないかもしれないと思っていた」「犯罪者が(中略)真似たと供述しているという報告を受けたので、僕はいよいよ『がいがぁかうんたぁ』っぽいものは描く気にならないと思う」ともツイートしていた。
そのうえで、
「あくまで僕個人の思ったことなので、『表現の自由が脅かされた』とか『警察の圧力に屈した』とか『前例ができた』とかいう類の話だとは思ってほしくない」
と語った。
一部の報道からは、県警が表現の自由に不当に介入したかのような印象を受けるものの、今回の件だけに限れば、それほど深刻だったわけではないようだ。ただ小野田氏の言うように、「表現者が委縮してしまう」「不当な責任転嫁と表現規制を公が認める」ことになる危険があることは否めない。