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『22年目の告白』と『昼顔』がトップ2 日本映画反撃の鍵を握る職人監督たち

2017年06月15日 17:43  リアルサウンド

リアルサウンド

 今年に入ってから「洋高邦低」の傾向がはっきりと出ていた映画興行だが、先週末の動員ランキングでは『22年目の告白-私が殺人犯です-』が初登場1位、『昼顔』が初登場2位と、日本映画が珍しく1位と2位を独占することとなった。ちなみに日本の実写作品がトップ2に並んだのは今年の2月(『相棒 劇場版Ⅳ』と『サバイバルファミリー』)以来となるが、特に今回は『22年目の告白』、『昼顔』ともに高い水準の成績で拮抗していて、GWと夏休みの狭間、各シネコンや劇場には「大人の観客が戻ってきた」という状況が生まれている。


参考:初登場2位の『LOGAN/ローガン』、映画ファンが本作を応援しなくてはいけない理由


 『22年目の告白』は先週の土日2日間で動員23万3500人、興収3億2100万円。『昼顔』は先週の土日2日間で動員21万人、興収2億9400万円。公開館数も328スクリーンと312スクリーンとほぼ横並び。各映画感想サイト(日本には今のところ批評サイトと呼べるような公正な集計と質のともなったサイトはない)やSNSなどを見る限り、どちらの作品も観客の満足度は高く、日本の実写作品にありがちな2週目以降の極端な下落は避けられそうだ。


 独立した企画(2012年の韓国映画『殺人の告白』が原案)ではあるものの、ワーナー・ブラザーズ映画ローカル・プロダクション×日本テレビ×藤原竜也という座組では、過去の『デスノート』シリーズ、『藁の盾』、『MONSTERZ モンスターズ』などの系譜にある『22年目の告白』(ちなみにワーナー×藤原竜也としては前作にあたる『僕だけがいない街』の製作委員会には日本テレビは関与してなかった)。放送から3年と間隔は開いたものの、人気テレビドラマの映画化という意味では、久々にオーソドックスな座組の『昼顔』。いずれも企画自体に目新しさがあるわけではないが、両作には「大人向けの実写日本映画」という共通項以外にも注目すべき点がある。


 『22年目の告白』の監督、入江悠。『昼顔』の監督、西谷弘。両者には30代と50代と世代的な開きがあり、片やインディーズ映画からのたたき上げ、片やテレビドラマの演出家と、バックグラウンドにも大きな違いがあるが、いずれも一部の映画ファンからは以前からその手腕を評価されてきた監督だ。両作品のポスターや公式サイトを見ても、特に監督の名前を目立たせて「売り」にしているわけではないが、映画ファンの中には一定数「入江監督の新作ならば観に行こう」「西谷監督の新作ならば観に行こう」という観客がいる。全体の数字の中でその数は微々たるものかもしれないが、作品の評判、そして何よりも作品の質を担保する上で、その監督が過去にどんな作品を撮ってきたかというのは、多くの映画関係者が考えているより重要だと自分は考える。


 映画の世界には「職人監督」という言葉がある。作品の中に必要以上に自身の主張や趣味を反映させず、与えられた題材やキャストや予算の中でベストを尽くし、それでもスクリーンに否応無しに漂っている作家性。そのような「いい意味」で使われることが多い言葉であるが、ある程度キャリアを積んだ監督の中で、本当に「職人監督」と呼ぶに値する存在が日本のメジャー作品の界隈に何人いるだろうか? 実際には、いくつか突出した作品は残しているものの、題材や環境によってモチベーションが影響されるのか、作品によって大きく出来不出来が左右される監督。どんな題材の作品でも無遠慮に自身の色に染め上げてしまう監督(作品がヒットし続ければそれも許されるが)。あるいは、何本撮ってもほとんど誰からも名前を認識されず、粛々と与えられた企画をこなしてやがて消えていく監督。そのような監督が大多数を占めているというのが現状だ。


 そんな中にあって、入江悠監督や西谷弘監督は数少ない「職人監督」と呼ぶに値する、あるいは今後、敬意を込めてそう呼ばれるようになる可能性が高い監督だと自分は考えている(入江監督に関しては『SR サイタマノラッパー』シリーズの印象が強い人も多いと思うが、『同期』、『ジョーカー・ゲーム』などサスペンスものも継続的に手がけてきた)。もちろん一人の映画ファンとして、それぞれの監督の、自分発信による、表現者として思う存分に羽を伸ばした作品も観てみたいという気持ちもあるが、日本のメジャー実写作品における貴重な人材である「職人監督」としての両者の仕事に、引き続き大きな期待を寄せていきたい。(宇野維正)