2017年06月14日 15:23 弁護士ドットコム
少女の身体を触ったとして、強制わいせつの疑いなどで再逮捕された男性が、「成人向け漫画の手口を真似た」と供述したことを受けて、埼玉県警は6月上旬、漫画の作者に対して、模倣した犯罪がおこらないように配慮を求める申し入れをおこなった。
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報道によると、男性は2016年1月、埼玉県草加市内の民家に「放射能を調べる調査をしたいから入っていいですか?」などと言って侵入。当時中学生だった少女を「死にたくなければ声をださないで」と脅して、身体を触った疑いが持たれている。
男性は、県警の取り調べに容疑を認めたうえで、「成人向け漫画の手口を真似た」と供述したという。漫画の内容は、成人男性が「放射能検査」と称して、女児の自宅に招き入れてもらい、脅かしてみだらな行為をするというもので、今回の事件と手口が似ている部分がある。
漫画の作者とみられるクジラックスさんはツイッター上で、警察が訪問して「報告と相談」を受けたこと、穏やかな話し合いだったことを報告している。今回のように、警察が申し入れることは「異例」といわれているが、どんな影響が考えられるのだろうか。甲南大学法科大学院教授(刑事法)の園田寿弁護士に聞いた。
「警察という公権力が、個々の作者に対して、『配慮』を申し入れるということは聞いたことがない。まさに『表現の自由』の問題だ。
たとえば、黒澤明の『天国と地獄』(1963年)には、誘拐犯が出てくるが、映画が公開されたときに模倣した人がたくさん現れた。このときも上映の『自粛』などの申し入れはなかった。異例のことだと思う。
明治時代には、探偵小説や恋愛小説に対して規制がかかっていた。探偵小説は子どもたちに犯罪の方法を教えるものだといったり、恋愛小説は性の乱れを引き起こすといわれたりして、かなり規制が強まった時期がある。今から考えると、本当にバカげている。
犯罪、性犯罪は統計上、非常に減少している。他方で、性に関する表現物は、昔とくらべものにならないくらい世の中にあふれている。そういう現状を考えると、表現物と犯罪には影響がないと証明されている。
一方で、ミクロレベルでは、表現物の影響を受けるケースはある。たとえば『完全自殺マニュアル』は自殺の方法について解説したもので、この本を参考にしたであろうケースが発生し、社会的な問題になった。しかし、人間はどこから影響を受けるかわからない。自殺に関していえば、物理や化学の教科書から影響を受けることもありうる。
また、摘発事件の場合、警察は『わかりやすい理由』を考えようとする。たとえば『痴漢のアダルトビデオを見て、ムラムラした』など。人間の行動は、事後的にどうとでも説明をすることができる。人間の『行為』は、肉体的な動作とちがって、いろいろな説明ができる。『痴漢のアダルトビデオを見て、ムラムラした』も一つの説明だと思う。
どういう理由にするかは、どういう対策を考えているかと関係がある。たとえば、規制を考えている人は、そういう理由を付けたがる」
「車があふれている日本では、毎年数千人が亡くなっている。たとえは悪いかもしれないが、リスクを抱えながら、社会は存在している。もちろん、信号の数を増やしたり、道路を整備する、交通安全教室を開くなど、リスクを低減する努力は必要だ。しかし、そのリスクをゼロにするのは不可能だろう。
模倣犯についても、ゼロにすることは不可能だ。むしろ、模倣犯のことを考えるあまり、『表現の規制』に公権力が介入すほうがリスクが大きい。日本の社会は、自由な情報の流れの上に、いろいろな制度が構築されている。民主主義にとって最良の方法だ。
表現の自由は絶対的ではなく、何でもかんでも表現していいわけでない。本当にやむをえない場合に限って、公権力が表現物に介入することが例外的に許されている。たとえば、直接個人攻撃している場合、青少年の健全育成に問題がある場合、わいせつ物などに限られている。それ以外で介入してくるのは、表現の萎縮をうむ。そのほうが有害だ。
今回は作者に対する『要請』というかたちをとっているが、かなり威圧的な効果があると思う。こういうことが繰り返されるようだと、表現そのものに対して、萎縮効果が出てきて、この社会の発展にとって好ましくない。今回は大変な問題で、警察は勇み足じゃないかという気がする」
(弁護士ドットコムニュース)