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chayが明かす、“出会い”が生んだ心境の変化 「時代の流れやいまの自分を大切に表現したい」

2017年06月14日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 シンガーソングライターのchayが、約2年ぶりとなるニューアルバム『chayTEA』を完成させた。シングル曲「あなたに恋をしてみました(Wedding ver.)」「好きで好きで好きすぎて」「それでしあわせ」「運命のアイラブユー」「恋のはじまりはいつも突然に」を含む本作は、彼女の特徴である60年代~70年代テイストのサウンド、歌謡曲テイストのメロディを2017年のポップミュージックへとアップデートさせた作品。chay自身も「いまの私をすべて出し切れた」という自信作に仕上がっている。


 友達とのグアム旅行をきっかけに生まれた「Be OK!」、<自分のこと嫌いな 君が好きだよ>というフレーズが印象的な「You」など、彼女自身が作詞・作曲を手がけた楽曲も魅力的。前作『ハートクチュール』から約2年。シンガーソングライターとしても一人の女性としても大きな変化を経験したという彼女に『chayTEA』の制作過程について語ってもらった。(森朋之)


■「サウンドもアレンジも2017年の流れを重視した」


ーー2ndフルアルバム『chayTEA』が完成しました。前作『ハートクチュール』以降の活動の軌跡が込められた作品だと思いますが、まずは手応えを教えてもらえますか?


chay :すべての制作が終わった瞬間、すごく達成感がありました。これほど悔いがない作品は初めてだし、いまの私をすべて出し切れたなって思います。約2年ぶりのアルバムなので、お待たせしてしまった分、最高の作品にしたかったんです。


ーー前作以降にリリースされたシングル5曲も収録されていますが、アルバム全体のビジョンはどんなものだったんですか?


chay:『ハートクチュール』はレトロサウンド、歌謡曲テイストのメロディを中心としたアルバムだったんですが、今回はさらに進化したchayをお見せしたくて。もちろん60年代、70年代っぽいサウンドも活かしているんですが、それを2017年バージョンにアップデートさせた楽曲を揃えたつもりです。常に進化し続けたいし、そのことは関わってくださったスタッフのみなさんとも共有できていたとも思います。


ーー現在のトレンドも意識しつつ?


chay :そうですね。エド・シーランも以前のアコースティックなサウンドからエレクトロ、ハウスっぽい音に変化しているし、そういう影響はあるかもしれないです。ひとつのジャンルやサウンドにこだわるのも素敵ですけど、私はいろいろなテイストの楽曲に挑戦したい思っています。たとえばアルバムの2曲目に入っている「真夏の惑星」はトロピカルハウスのテイストを取り入れているんです。これは多保孝一さんの曲で、すごく気に入っていたんですけど、デモの段階では歌謡曲っぽいサウンドだったから、アレンジを変えようという話になったんです。アレンジをお願いしたYaffle(音楽プロデューサーの小島裕規)は私と同い年(26才)なんですね。「アレンジひとつでこんなにも変わるんだ」って自分自身も驚いたし、多保さんも(若いクリエイターを起用して)chayをアップデートさせたいという気持ちがあったんだと思います。実際、他の楽曲でも若いミュージシャンが参加してくれてるんですよ。


ーー“サウンドを進化させたい”という共通認識が、アルバム全体の統一感につながってるんでしょうね。


chay:そうですね。当たり前ですけど、多保さんが作る曲と自分が作る曲は雰囲気が違っていて。そのなかでどうやって統一感を出すか、自分なりに悩んだところもあるんです。バラエティに富んだアルバムという言い方も出来ると思うんですが、最初は「バラバラに聴こえるんじゃないか」「“迷走”って思われるんじゃないか」という不安のほうが強くて。でも、結果的にはまったくそんなふうに感じなかったし、ちゃんと統一感も出せたと思います。それはやっぱり、サウンドもアレンジも2017年の流れを重視したからだと思います。


ーーchayさんの作詞・作曲した楽曲もアルバムの核になっていると思います。


chay:ありがとうございます。この2年間でストックしてきた楽曲もあったんですけど、それはほとんど使ってなくて、収録しているのは今回のアルバムのために書いた曲ばかりなんです。それもアレンジの話と同じで、時代の流れだったり、いまの自分を大切に表現したいと思ったからなんですよね。


ーーしかも1曲1曲のキャラクターが強いですよね。


chay:すごく個性があるし、濃いなって私も思います(笑)。1曲1曲に対する思いがすごく強くて、「お気に入りの曲は?」と聞かれても選べないんですよ。思い入れと思い出が詰まり過ぎてるというか。


■「歌を発信できる立場にいられることの幸せを噛みしめています」


ーーでは、1曲ずつ聞かせてください。サウンド、アレンジ面で印象的だったのは「Don’t Let Me Down」。ファンクのテイストと打ち込みのビートを融合させたダンスチューンですが、このアレンジも現在のトレンドと重なってますよね。


chay :自分が作った時点では、The Doobie Brothers的なサウンドだったんです。もっと”ワカチコワカチコ”(ワウ・ギターの音)してるというか(笑)、良い意味でいなたくてカッコいい感じのバンドサウンドだったんですけど、スタッフと話し合って「いまっぽさを入れよう」ということになって。試行錯誤を繰り返した結果が、この形なんです。最初は「この曲に打ち込みを取り入れるって、どうなんだろう?」って迷ったりもしたんですが、でき上がってみるとすごく良いアレンジになりました。


ーー周囲の意見も取り入れながらブラッシュアップしたと。


chay:そうですね。他の曲もそうなんですけど、ひとつの曲に対してたくさん意見をいただきながら、しっかりこだわって作れたのは初めてなんです。もちろんいままでもこだわっていたし、力を抜いたことはないんですけど、以前は自分が「こうしよう」と決めたら、なかなか意見を変えられなかったんですよ。誰が何と言おうと、自分の美学を突き詰めていたというか。でも、この約2年間で尊敬できるミュージシャンの方々との出会いがあって、少しずつ考え方が変わってきたんですよね。サウンドも歌詞もメロディも「こうしたほうがいいよ」という意見があれば、とりあえず挑戦してみようという気持ちになりました。やってみた結果「やっぱり譲れない」ということもありましたけど、そういうトライを繰り返すことで、すごくいいものが出来上がったなって思います。


ーー以前はもっと頑なだった?


chay :はい、とんでもなく(笑)。それは曲だけではなく、全部そうだったんです。CDのジャケットにしてもミュージックビデオにしても、一度「こうしたい」と思ったら、それを変えられないタイプだったので。そこも変化してきました。たとえばミュージックビデオのことだったら、監督さんから、自分では思いもつかなかった提案をしてもらって、それが自分でも素直に「いいな」と思えたり、観てくれた方から評価していただいたり。そういう経験を積み重ねたのも大きかったですね。


ーーなるほど。「Be OK!」はウクレレ、アコギを中心としたリゾート感たっぷりのナンバー。こういう雰囲気の曲もいままではなかったですね。


chay :この曲の歌詞は、去年の夏、親友2人と一緒に3人でグアムに旅行した時のことなんです。いままでは“プライベートを充実させる=仕事をサボってる”という勝手な罪悪感みたいなものがあって、たとえば友達とごはんに行っても「がんばってないと思われるかな」って素直に楽しめなかったんです。旅行なんかもってのほかで、“イェイ!”みたいな写真を発信したら「その時間を使って曲を書けよ」って思われないかな、とか……。


ーー楽しむことがとことん下手な性格なんですね(笑)。


chay :そう、だからずっと家にいたんです(笑)。休みの日も「曲を書かなくちゃ」と思ってるんだけど、そんなやり方でいい曲が出来るわけもなく。そのうちに曲のテーマも思いつかなくなって「これじゃダメだ」と思ったんですよね。スタッフからも「旅行でも行っておいでよ」って言ってもらえたので、思い切って休みを取って旅行してみたら、これがめちゃくちゃ楽しくて(笑)。帰ったら罪悪感がこみ上げてくるのかなと思ってたら、ぜんぜん違っていて、「よし、がんばろう!」という前向きな気持ちになれたんですよね。リフレッシュって大事なんだなって初めて実感できたし、ぜひ、その旅行のことを曲にしたかったんです。だからアレンジにも波の音を使ってるんですよ。あと、これは人に言われて気付いたんですけど、<気を抜いたら/浮かんできそうな/現実 吹き飛ばせ>という歌詞は、すごく私らしいんです。普通は「現実のことを考えないといけないのに、こんなにのんびりしてていいのかな」と思うらしいんだけど、私の場合、「仕事のことを思い出さないようにがんばる」っていう(笑)。自分の性格を表現できた曲になりました。


ーーいまは上手くリフレッシュできるようになったんですか?


chay :はい。旅行をきっかけにして、時間があるときはお友達とごはんに行ったり、話をするようにしていて。それは曲にもつながってるんですよね。これはアルバムが出来上がってから気付いたんですけど、1stアルバムの頃に比べると書きたいテーマが変わってきてるんです。何て言うか……以前は自分本位な歌詞が多かったと思うんです。自分を奮い立たせたり、自分に向けて言いたいことを伝えるという視点で書くことが多くて。いまは包み込んであげられるというか、どんな考え方の人も肯定してあげられる曲を作りたいんです。シングルの「それでしあわせ」もその1曲。幸せっていう壮大なテーマを掲げた曲なんですが、幸せの在り方は人それぞれだし、誰かと比べるのではなくて、自分自身の心が決めることだなって。たとえ他の人から「かわいそう」とか「不幸」と思われても、その人が幸せだったらそれでいいんじゃないかなって思うんです。


ーー「You」も“肯定”をテーマにした曲ですよね。特に<自分のこと嫌いな 君が好き>という歌詞は、救われた気持ちになるリスナーも多いと思います。


chay:この歌詞は自分のなかでも重要なポイントになっています。最初は「君が嫌いな君を大好きな私がここにいるよ」と書いてたんです。私も自分のことが好きではないし、「こんなふうに言ってもらえたら嬉しい」という気持ちもあったし……。あと、友達に向けているところもあります。友達も社会人になって3、4年経って、いろいろと環境も変わってきてるんですよね。話す内容も、仕事のつらさだったり、「この先、どうする?」みたいなことだったり。どんなに明るい子も不安を抱えているんですよ、やっぱり。そういう会話からインスピレーションを得ることも多いんですよね。「You」もそうですけど、26歳のいましか書けない歌詞になったと思います。1年前でも1年後でも、今回のアルバムにはなってなかったと思います。


ーー“そのときにしか書けない曲を書く”というのは、シンガーソングライターとしてすごく真っ当なスタンスですよね。


chay:それはずっと同じなのかなって思います。1枚目に入っている「nineteen」という曲は本当に19才のときに書いたんですけど、その年齢じゃないと書けなかったので。「前向きな曲を作りたい」「自分の曲を通して、元気や勇気をあげたい」という気持ちも同じなんですけど、その表現が変わってきたんだと思います。私自身、ここ1年くらいは存在を肯定してくれるような曲に励まされてきたんです。だから、私もそういう曲を書けるようになりたいんですよね。歌を発信できる立場にいられることの幸せも、すごく噛みしめています。


■「自分自身の素の部分、人間性が垣間見えるほうが魅力的」


ーーなるほど。ちなみにchayさんは最近、どんな曲に励まされているんですか?


chay:ケリ・ノーブルさんの「夢がかなうまで」とか、SMAPさんの「君は君だよ」とか。キャロル・キングさんの「You’ve Got A Friend」もずっと好きですね。あと、最近本当によく聴いているのが、玉置浩二さんの「田園」なんです。年齢によって捉え方が変わってくる曲だなって思いますね。


ーー音楽の解釈にも変化が生まれてるんですね。


chay :そうですね。最近はシンプルなものに惹かれるんですよ。それは曲だけじゃなくて、ファッションやメイクもそうなんです。今日は撮影があるからわりと派手なメイクですけど(笑)、以前はコンプレックスを隠すためのメイクだったし、すごく濃かったんです。ファッションも同じで「ミニスカートと大きいリボンが最強」みたいな時期があって。いまはそうじゃなくて、自分自身の素の部分だったり、人間性が垣間見えるほうが魅力的だと思うようになりました。歌詞もそう。ずっと「きれいな言葉で詩的に書かななくちゃ」って意識していたけど、最近は「ここは見せたくない」という恥ずかしい部分、弱い部分、ダメな部分を隠さず書いています。


ーーライブに対する意識も変わってきた?


chay:そうですね。飾れば飾るほど、カッコ付ければ付けるほどカッコ悪くなることがわかってきて。私はもともと周りの評価を気にするタイプだし、「よく思われたい」という気持ちが強いんです。でも、自分のダメな部分を隠しながらライブをやっても、本心はまったく伝わらないんですよね。そのことに気付いてからは、ライブも変わってきたと思います。


ーーそういう考え方になると、精神的にもラクになりそうですね。


chay:そう!  すごいラクになっちゃって。「肩の荷が下りるって、こういうことか!」って思います(笑)。またメイクの話になっちゃうんですけど(笑)、つけまつ毛をやめたら「そのほうが素敵」って言われて。「いままでの努力は何だったんだ?!」って思うけど、当時からスタッフの方々にはいろいろアドバイスをもらってたんですよね。


ーーナチュラルなメイクのほうがいいよって?


chay:はい。でも、その頃の私は「とは言え……」としか思えなくて。それから数年経って、「あのとき言ってもらったのは、こういう意味だったんだな」と理解できることがすごく増えました。「2年経つと人って変わるな」って思うし、ほんの1~2年前のことでも「あの頃は何もわかってなかったな」って感じます。


ーーアルバム『chayTEA』の制作を通して、アーティストとしてはもちろん、1人の女性としてもいろいろな気づきがあったわけですね。自分のスタイルが見つかったという手応えもありますか?


chay:そうですね。今回のアルバムを作ったことで、やっとそう思えるようになったかもしれないです。もちろん曲の捉え方は人それぞれだし、すべての人が私の曲をいいと思うことはあり得ないけど、1人でもいいから「chayの曲に救われた」と思ってもらえたら本望です。ずっと「たくさんの人たちに伝わるといいな」と思っていますが、いまは「一人ひとりに大切に届けたい」という意識が強くなっています。


ーー最後に『chayTEA』というタイトルについて教えてもらえますか?


chay:chayというアーティスト名もチャイティーから取ったんですけど、「これぞchay!」と思えるアルバムになったと思うので、タイトルもそのまま『chayTEA』にしました。チャイティーって、いろんなスパイスが入ってるんですよ。甘くてクリーミーなんだけど、ピリッとしたところもあって。今回のアルバムはまさにそういう作品になったと思います。(取材・文=森朋之)