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「税務調査でバットを振り回された」国税職員から芸人に転身「さんきゅう倉田」さん

2017年06月14日 10:13  弁護士ドットコム

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「くすり代  12,000で  控除だよ」「月給を 9万稼ぐと 所得税」ーー。「今日の税句」と題し、一般の人向けに税務情報をTwitterで発信するお笑い芸人がいる。芸人になるまで東京国税局で税務調査を担当していた、さんきゅう倉田さんだ。


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冒頭のような役立つ俳句から、税金にまつわる小ネタまで、発信する内容はいずれも税金ネタばかり。しかし、なぜかクセになる味わいがあるのだ。倉田さんとは、どのような人なのか。ご本人に話を聞いてみた。(文・吉田彩乃)


●「法人課税」を担当していた国税庁職員時代

ーー国家公務員のなかでも国税庁職員は特にカタい職業というイメージがあります。また、どうして国税庁職員になったのですか


子供の頃からお笑いが好きで、「芸人になりたいな」という憧れがあったんです。ただ、いきなり芸人になる前に、会社員や公務員などの仕事を経験してみたいとも思っていて。


建築に興味があって日本大学理工学部建築学科に入学したものの、1年生のときに「あ、自分は建築に向いてないな」と悟ってしまって。建築を諦めたら、急に学生生活が暇になったので、もともと勉強が好きだったこともあって、公務員試験の勉強を始めたんです。国家公務員一種、二種、横浜市や都庁、国税専門官試験など幅広くやりました。


最終的に選んだのが国税局でした。理由は、お金の計算が好きだったからです。


ーー国税局では、どんな仕事を担当していたのですか


国税局は、入局後、4か月の研修を終えて配属先が決まったら、基本的に定年までずっと同じ部門で働き続けることになります。配属先は、法人課税、個人課税、資産課税、管理徴収の4つの部門。私が配属されたのは法人課税部門でした。企業などの税務調査が主な仕事で、会社や、代表取締役の家に直接訪問して捜査することもありました。


国税局は、3年以内の離職率が公務員の中で一番高いと言われているんです。警察に次いで、市民の方から嫌われる職業なんですね。たとえば、先輩からの教えで「パンチはよけろ。バットはよけろ。日本刀は逃げろ」という言葉があるんです。


税務調査で訪問するのは、脱税している可能性の高い人たちです。訪問を受ける側も、やましい部分があるから、職員に対して罵声を浴びせたり、極端な人は暴力を振るったりしながら、なんとか追い返そうとします。私は「きちんと税金を払わない方がいけないでしょ」と思いながら働いていたけれど、市民の方から罵声をあびせられることなどにストレスを感じる職員も多かったですね。


私自身も、ある社長のお宅に税務調査に行った時にバットを振り回されたことがありました。先輩の教えがあるから逃げられないし、真剣によけました。本当に怖かったです。


ーー噂で、国税局職員は有名人がテレビなどで自宅や車を披露しているのを、税務調査の参考にしていると聞いたことがありますが、本当ですか


本当です。ツイッターなどで年収をつぶやく芸人もいますが、あれもメモしてると思います。


ーー結局、どのくらい勤めたのでしょうか


国税局で2年ちょっと働いてみて、やっぱり早く芸人になりたいなと思い、東京NSCに入ってお笑いの修行を積み始めました。国税局の真面目な雰囲気が、変わり者の私にはあっていなかったのかもしれませんね。


両方経験してみて思ったのは、芸人になったことによってテレビや舞台に立って、不特定多数の人に税に関する情報を発信しやすくなったということです。しかも、教科書じみた難しい話ではなく、ネタとしてわかりやすく伝えていくので、皆さんにも覚えてもらいやすい。


●ツイッターを始めた理由とは

−−倉田さんは、ツイッターで税に関する豆知識を発信されていますね。芸人さんと税の情報という組み合わせがミスマッチで、とてもユニークだなと思いましたが、始めた理由は


芸人としてデビューしてから5年が経って、芸人仲間をはじめ、いろいろな方とお話しする機会が増えて、税に関する知識がない人がとても多いことに気がついたんです。


芸人を例に挙げると、若手芸人はお笑いだけだと収入が足りないから、2カ所以上の飲食店でアルバイトをしていることが多いんですね。でも、2カ所給与は確定申告をしなければいけない、という知識がないから、申告をしない人が多いんです。


日本は、税に関する教育が不十分ですよね。だから大人になっても年末調整と確定申告の区別がつかない人がいたり、そもそも確定申告をしない人がいたりするのでしょう。確定申告のやり方もわからない人もいる。


現在では副業をする方も増えたので、もっと中学、高校から税に関する教育を浸透させていくべきだと思っています。


ーー手応えはいかがでしょう


ツイッターは、3年ほど続けてみて、今では6000人くらいになりました。でも、まだまだ、税にも僕にも関心が持たれていないんだなと感じていますね。大人になってから困らないように、特に中・高生に支持されていくようになりたいと思っています。目指しているのは、わかりやすく簡単に税の知識を広めていくことです。


ーー芸人仲間やフォロワーから税金の相談を受けることもありますか


税金についての直接的なアドバイスは、税法上、税理士しか行ってはいけません。そのため、ツイッターなどで直接相談を受けても断るようにしています。ただし、不特定の人に向けて一般的な知識を発信することは税理士以外もできるので、領収書の管理の話や、経費など税に関する豆知識は「つぶやき」として、どんどん紹介しています。


ーー 税に関する知識を身につけるとしたら、どのような勉強方法がおすすめですか


ファイナンシャル・プランナー3級の勉強をすることですね。試験を受けなくても、テキストを買ってきて学ぶだけで十分です。税に関する知識は、多ければ多いほど自分が得をします。たとえば、経費の考え方についてはグレーな部分が多く、万が一税務調査の対象となった場合に、自分の知識が武器になることもあります。ぜひ、勉強してみてください。


【さんきゅう倉田さんプロフィール】


芸人、ファイナンシャル・プランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行なったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。好きな言葉「増税」。


(弁護士ドットコムニュース)