6月10~11日にオーストリア・ザルツブルクリンクで開催された、TCRインターナショナル・シリーズの第5戦は、金曜のフリープラクティスから3台のマシンが大破する大クラッシュが発生。その波乱のなか、土曜のレース1はアルファロメオ・ジュリエッタのドゥサン・ボルコビッチが勝利。続く日曜のレース2は、ホンダ・シビック・タイプRのロベルト・コルチアゴ、アッティラ・タッシが見事なワン・ツーを決めた。
金曜プラクティス、事件は高速ターン9で起こった。200km/hを超える速度で右のライトハンダーへと進入したレパード・レーシング、ロブ・ハフのフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRは、エイペックスへ向かうまさにその瞬間に左フロントタイヤがパンク。
コントロールを失ったハフは、ほとんど減速することもできずにアウト側のバリアにヒットし、フロントからロールオーバー、マシンは3回転ほどして着地した。
なんとか自力でマシンから脱出したハフだが、このアクシデントで左肘に打撲を負うことに。さらにシビックのタッシ、セアト・レオンTCRのフェレンチ・フィツカも同様のクラッシュを喫し、フィツカは精密検査を受けるため無念の欠場。
一方のタッシは、所属するM1RAチームと、シビックのTCRマシン製作を手がけるイタリアのJASモータースポーツとの連携により、ミラノからニューマシンを搬送するという離れ業を披露。タッシ本人も検査の結果出場が許可されたため、なんとか決勝レースのグリッドに並ぶことができた。
土曜レース1でフロントロウに並んだのは、インターナショナルで初ポールを獲得した、オペル・アストラTCRのマット・オモラと、ボルコビッチのアルファロメオ。
そのスタートではジュリエッタが抜群の反応を見せ、アストラの前で1コーナーへ。そのまま逃げの体勢に入り、一気にリードを拡大する。
その後方から逃げるジュリエッタを追おうと激しいチャージを見せたのは、クラフト-バンブー・ルクオイル・チームのペペ・オリオラとジェームス・ナッシュ(ともにセアト・レオンTCR)。
しかし、2台ともにアストラTCRへのアタックでタイヤを使いすぎたか、ナッシュは8周目、オリオラは続く9周目に、アウディRS3 LMSのステファノ・コミニの攻めに陥落。シリーズ2連覇中にして、TCRインターナショナル唯一の王者に3番手のポジションを明け渡した。
このまま何事もなくレースが進行するかと思われた同じ9周目、ふたたびターン9で悪夢が連鎖する。昨日同様ハフのゴルフがリプレイを見るかのようにバリアに吸い込まれ大クラッシュ。これでセーフティカー(SC)導入となり、ハフの無事は確認されたものの、マシン回収に時間を要し12周目にレースは再開。
そのリスタートからすぐの14周目に、今度はハフのチームメイトであるジャン-カール・ベルネイが、ハフのわずか数メートル手前のポイントで同じようにバリアへ激突。
これで2度目のSCとなったレースは、そのままレッドフラッグ。ボルコビッチ、オモラ、コミニのポジションでレース成立となり、GEフォース・チームのアルファロメオが今季2勝目となった。
翌日のレース2、レパード・レーシングの2台はマシン修復が不可能との判断から出走せず。ポールポジションからのダッシュを決めたのは、M1RAのロベルト・コルチアゴ(ホンダ・シビック・タイプR)。
2番手にウェスト・コースト・レーシングのジャンニ・モルビデリ(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)を従えオープニングラップを制すと、その後方からは金曜に大クラッシュを喫してニューマシンに乗り換えていたチームメイトが猛追。
1周目に3番手のナッシュを捉えると、続く2周目にはモルビデリと目まぐるしくポジションを入れ替えるバトルを披露。
3周目にはその勝負にも決着をつけ2番手に浮上すると、中盤以降はコミニからのプレッシャーをうまくかわして落ち着いたレースマネジメントを見せ、見事M1RAのワン・ツー・フィニッシュを完成させた。
レース中でも、ターン9を通過する際に「最初の何周かはやはり恐怖を感じた」と振り返ったタッシは、チームメイトと並ぶ2位表彰台を「奇跡だ」と語った。
「金曜日の大クラッシュの後、僕らはレースはおろか、予選にさえ出場できないだろうと思っていた。ノルベルト・ミケリスとM1RAチーム、JASモータースポーツ、そして家族みんなに感謝したい」
これでハンガリーに拠点を置くチームは、最高のリザルトを提げて母国へ凱旋。DTMドイツ・ツーリングカー選手権との併催となる、次戦ハンガリー・ラウンドは連戦となる6月17~18日に開催。このオーストリアの週末に2台のマシンを失ったレパード・レーシングにとっては、マシン修復に追われる厳しいレースウイークとなってしまった。