2017年F1第7戦カナダGPは、ルイス・ハミルトンがグランドスラムを達成し完璧な勝利を収めた。そして母国GPに挑んだ新人ランス・ストロールがファンの期待に応え見事9位入賞を達成。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がカナダGPを振り返り、その深層に迫る──。
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ルイス・ハミルトンによるハミルトンのためのカナダGPだった。土曜には65回目PPを、日曜には4回目のグランドスラム(PP・ウイン・全周回リード・最速ラップ)を達成。二日続きで故アイルトン・セナが遺した記録に並んだ。キャリア10年、195戦、特別な日――。
ジル・ビルヌーブ・サーキットにわたるブリッジ脇には歴代ウイナーのフォトが飾られている。最多7勝ミハエル・シューマッハー、5勝ハミルトン、ちなみにセナは2勝。
この国の人々にはスポーツが育む文化や伝統を重んじるマインドがあり、その象徴がF1英雄ジル・ビルヌーブ、ブラジルにおけるセナと同じような存在だ。
金曜からほぼ満員のスタンドにいつも以上にフェラーリの赤が目立っていた。今年の躍進ぶりにさらなる期待をこめて。
それとウイリアムズ。モントリオール育ちの新人ランス・ストロールが母国デビュー、ジルの息子ジャック以来だ。ここまで苦戦つづきの彼であっても見届けないわけにはいかない……。売店ショップで買ったばかりのウイリアムズ・グッズを着込み、彼らはFP1から励ました。
チームにとってイギリスGPに匹敵する最重点レース、ストロールへの配慮があった。FW40のエアロパッケージをアップデート、その効果確認はすべてフェリペ・マッサが担当。
6戦したメルセデスPUコンポーネント全部をフレッシュに交換、彼はここまで何も代えていない。最新スペックはより強力なバージョンなので、そのベースセッティングもマッサが務める。
これだけマシンが変化するとドライビング・フィールが異なり、コース上でアジャストするのは本人しだいになる。
パディ・ロウ監督はとにかく走り込みを徹底させ、FP1=36周、FP2=40周、合計76周、ハミルトンの77周に迫る。タイヤ比較もマッサが行いウルトラソフトは全く履かせなかった。「ベストタイムは気にせず、アベレージ・ペースを自分自身で感じ取れ」ということだ。
チャンピオンだって壁にぶつかる、タイム次元が上がると一層難易度が高まるコース。それは子供のころから観戦してよく分かっている。土曜からウルトラソフトを履き、そのグリップ感覚を感じとっていざ予選へ。攻めようとする彼の意志がブレーキングに現れていた。
突っ込みすぎ→リヤがぶれてコントロール→アンダーになって加速(トラクション)が鈍る→リズムがとれない。結果は17位。
ミスせずクラッシュしなかったことと、セクター3のタイムがトップ10に接近できたことは悪くない。十分なトップスピード332.1KMHはマッサ332.5KMHと同等なのだから、落ち着いて仕掛ければオーバーテイク・チャンスは作り出せる。
コーナーを二つまわっただけで7位マッサはカルロス・サインツJr.に体当たりされて終わった。17位からスタートした新人は後方にいたからしっかり周りを見て、あの混乱に巻き込まれずにすむ。
幸運かもしれないが、それだけではないだろう。予選アタックにこだわらず下位からでもチャンスは作れるとコーチングされた彼は、15番手から初陣を開始する。
ジョリオン・パーマー、ニコ・ヒュルケンベルグらを抜き、25周目10位からピットへ。静止時間2秒1、これは今年彼の最短ストップだろう(落ち着いて集中できているのを直感)。いったん17番手に下がるがそこから挽回に転じていく
激しい中団バトル・グループから入賞圏に迫るストロール、46周目にフェルナンド・アロンソをかわし10位へ。
しかし、新人相手に王者はしつこく揺さぶり63周目に1分15秒853(最速ラップ4位相当)、受けて立ち64周目に1分15秒979(同6位相当)を。このバトルの直後、アロンソはトラブルにより8コーナーで止まってしまう。
マシンとPUの力を最後まで出し切る69周、9位初入賞には結果以上に得るものがたくさんあったに違いない。カナダ人で3人目、ジルとジャックに次ぐ成果を上げたのだから。
――フェラーリ勢がいない初めての表彰台、1-2フィニッシュ初めてのメルセデス勢、これが今シーズンの変革を象徴していた。粘り強く3戦連続3位を獲得したのがダニエル・リカルドに付け加えると、スタートで見せたフェルスタッペンと彼のダッシュ力も秀逸だった。
個人的にルノーPU(TAGホイヤー)はニューバージョン投入を控えても、制御系アップデートに最新デバイスを次々に入れているのではないか(と想像する)。彼らだけでなくそろってルノー・ユーザーはポジションアップしているからだ。
これでシーズン3分の一が終了。次は2年目アゼルバイジャンGP、苦しんだバクーでハミルトン雪辱戦なるか?