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Beverlyの楽曲はなぜ『CRISIS』の世界観にマッチするのか? “規格外”の歌声を読む

2017年06月12日 19:03  リアルサウンド

リアルサウンド

 明日6月13日に、最終回を迎えるドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系)。警察庁警備局長・鍛冶大輝(長塚京三)直轄の秘密部隊である、各分野のスペシャリスト5人が集結した公安機動捜査隊特捜班が、国家に危機をもたらす政治的事件やテロなどの“規格外”の事件を秘密裏に捜査し、解決を図る模様を描く。『SP 警視庁警備部警護課第四係』の直木賞作家・金城一紀が原案・脚本を手がけたというだけあって、何とも骨太なアクションエンターテインメント。そんな“規格外”である同ドラマの世界観をより一層際立たせているのが、“音楽”ではないだろうか。


 同ドラマの音楽といえば、アニメ『進撃の巨人』シリーズやドラマ『医龍-Team Medical Dragon-』シリーズ(フジテレビ系)などで音楽を務めた澤野弘之と、アニメ『青の祓魔師 京都不浄王篇』でも澤野とともに音楽を手がけているKOHTA YAMAMOTOのふたりが担当していることで、放送開始前から注目を集めていた。だが特筆すべきは、そんな彼らのBGMとともに物語を彩っている主題歌「I need your love」を歌っているBeverly(ビバリー)だ。アメリカ、フィリピン等の音楽祭で数々の受賞歴を持つシンガーで、日本での活動は2015年から行い、2016年には『a-nation』に出演し圧倒的なパフォーマンスで話題に。そして2017年5月31日にアルバム『AWESOME』でデビューし、新人ながら同作収録の「I need your love」が連続ドラマの主題歌に抜擢。なんと、主演を務める小栗旬が彼女の歌声に惚れ込み、ドラマのプロデューサーに紹介したことが今回の起用につながったという。そんな彼女の歌声の最大の魅力は、“規格外”のハイトーンボイスにある。


 毎回、放送開始5分前後で彼女の「CR~ISI~S」という高音の歌声が響き渡り、耳の鼓膜をこれでもかと揺らす。その瞬間ゾクッと鳥肌が立ち、今週も『CRISIS』が始まったと全身で実感するから不思議だ。我々視聴者は、彼女の歌声とともに、どんどんと画面の中に没入していく。第1話で彼女の「I need your love」を聴いた時には、そのあまりの破壊力にど肝を抜かれた。そして、その中毒性がある魅力的な歌声には、ドラマとともに週を追う毎にどんどんはまっていく。


 楽曲の歌詞やメロディ自体は切なく、物語に寄り添っている印象だ。だが、彼女の貫くようなハイトーンボイスが、同ドラマの煮え切らない結末や、不条理さ、やるせなさを打ち壊すような痛快さがある。全てを貫通し、未来に向かって真っ直ぐと進んでいくような力強さ。だからこそ、その歌声からは、一筋縄ではいかない過去を抱え、難事件に果敢に挑んでいく稲見(小栗旬)や田丸(西島秀俊)をはじめ特捜班のメンバーたちを後押ししているような印象を受けるのだ。“危険への警鐘”を打ち鳴らすと同時に、『CRISIS』で描かれている歪みきった世界をただし、明るい未来へと紡いでいってくれるような“希望”を感じる。


 そんなBeverly のデビューアルバム『AWESOME』は、「I need your love」のほかに『CRISIS』の挿入歌として使用されている「Empty」も収録。この楽曲は、『CRISIS』のプロデューサーと相談しながら、Beverly自身が作詞も担当しているという。挿入歌ということで、歌詞の意味が頭にダイレクトに入ってこないように、全て英詞で描かれている。そのため、ドラマのセリフや音をかき消したり、邪魔したりすることが一切ない。あくまでBGMとして物語を支え、盛り上げているのだ。


 実はそんな「Empty」の歌詞を紐解いていくと『CRISIS』の世界観を見事に表現していることがうかがえる。たとえばサビの、〈I’ m slowly dying baby/You know you’ re all I breathe in/With you I’ ll be alive again(どんどん消えかかる私/あなたは私の命そのもの/あなたといると生きた心地がする)〉という歌詞。


 これは、第5、6話で田丸が稲見に言っていた「本当の人生に帰りたいと思える大切な何か」「灯台の光」となる人のことを指すのではないだろうか。また、特捜班として様々な事件に直面していくうちに、メンバーそれぞれが自身の信念を裏切る結果を目の当たりにすることも多々あった。各々がかつての自分を見失うほどの過去も背負っている。何が正義で何が悪なのか、どこに向かって進んでくべきなのかがわからない。そんな消えかかった自分を導いてくれるのが、ほかの特捜班のメンバーや、稲見にとっての芳(天使)ちゃんのような存在だ。“生きた心地がする”、大切な“あなた”なのだ。“あなた”がいるから“本物の人生”に帰ってこられる。


 またサビ後の、〈I cannot find the light/Where am I heading for?/I’ m lying down on the floor/Just staring at the door( 一点の光も見つからない/私はどこに向かっているんだろう/床にうずくまって/ただドアを見つめる)〉という歌詞。これは、潜入捜査としてスパイに潜り、切望的な状況に陥った里見(山口馬木也)や林(眞島秀和)の心情を表している。同時に、稲見、田丸をはじめ特捜班の壮絶な過去や、これまでの犯人たちが直面してきた残酷すぎる現実などを表現しているようだ。Beverlyは圧倒的な歌唱力だけでなく、作詞の面でもまた才能を発揮している。


 ドラマのチーフプロデューサー笠置高弘氏も「『CRISIS』の世界観を盛り上げる歌声を探し求める中で、Beverlyさんという圧倒的な歌唱力を持つ本格的な歌手に出会いました」と評するように、Beverlyはその“規格外”の歌声で、これからさらに多くのリスナーを虜にしていくに違いない。
(文=戸塚安友奈)