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JALの「整理解雇」、元客室乗務員の敗訴確定…「人選基準の合理性」はあったのか?

2017年06月12日 11:03  弁護士ドットコム

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日本航空(JAL)から整理解雇された元客室乗務員の女性が、解雇無効などを求めていた裁判は、解雇を有効と判断した二審・大阪高裁判決が確定した。最高裁第三小法廷が6月6日付で、女性の上告を受理しない決定をしたため。


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報道によると、女性は2010年12月に解雇された。JALはこの年1月、経営破綻から会社更生法の手続きを申請。希望退職者が想定を下回ったため、整理解雇を実施していた。


解雇の具体的な基準は、「9月27日時点で職場復帰していた人は対象外」というものだったが、労働組合に提示されたのは11月15日だったという。女性は皮膚疾患でこの年5月から休職。10月に職場復帰したため、解雇の対象になってしまった。


社員の解雇が難しいと言われる日本だが、整理解雇が認められるのはどのような場合なのか。また、今回のように、基準日をさかのぼって提示することは、どうして認められるのだろうか。指宿昭一弁護士に聞いた。


●「整理解雇の4要件」をJALはどのように満たそうとしたか?

ーー整理解雇が認められるのはどんなとき?


使用者は、「客観的に合理的理由があり、社会通念上相当であると認められる」場合でなければ、労働者を解雇することができません。これは、1970年代に、判例上確立したルールですが、2008年に施行された労働契約法の16条で条文化されました。


整理解雇とは、経営不振などの経営上の理由によって、人員削減の手段として行われる解雇のことです。労働者側に何の落ち度もないのに、使用者側の事情で解雇するわけですから、一般の解雇よりも厳格な制約が課せられています。それが、判例上確立した、「整理解雇の4要件」と呼ばれるルールです。どれか1つでも欠ければ、解雇が無効であると判断されることが多いです。


ーー具体的にはどんな要件がある?


整理解雇の4要件は、(1)人員削減の必要性があること、(2)使用者が解雇回避努力を尽くしたこと、(3)人選が合理的であること、(4)手続きが妥当であることです。


今回の裁判でJALは、(1)会社更生手続きにより企業再建を図るために人員を削減する必要があり、(2)人件費圧縮、特別早期退職・希望退職の募集などを行い解雇回避努力を尽くした、(3)合理的な人選基準を作成し、それに基づいて解雇対象者を選定した、(4)労働組合と団体交渉を重ね、解雇対象者に特別退職金や一時金を支給して不利益緩和措置を取ったなどとして、本件解雇は4要件を満たしており有効だと主張していました。


●JALはさかのぼって基準日を設定…裁判所はどう判断した?

ーー裁判では何が争点になった?


本件で問題になったのは、要件のうち、(3)の「人選基準の合理性」です。


JALは、2010年9月27日に最初の人選基準を公表し、同年11月15日に人選基準を変更して、病欠者・休職者が最初の基準公表日である同年9月27日に復職した者は解雇対象者から外す旨を公表しました。


本件の一審原告の客室乗務員は、同年5月17日から病気休職し、同年10月18日に復帰しています。JALの公表した復職基準によれば、解雇対象者に含まれることになります。そして、JALは、同年12月9日に一審原告を含む108人の客室乗務員に解雇通知を行い、その後、希望退職に応じた者を除く84人の客室乗務員を同月31日付で解雇しました。


ーー一審・控訴審はどう判断した?


一審判決は、復職基準日は、解雇通知時に近い、できるだけ遅い時点とするのが合理的であるとして、人選基準は合理的ではなく、整理解雇は無効であると判断しました。


これに対して、控訴審判決は、復職日基準の設定は、労働組合の要求に対する譲歩であり、復職日基準の設定には裁量の余地が認められるとして、人選基準の合理性を認め、整理解雇を有効だと判断しました。


ーー基準日をさかのぼって設定しても良いの?


基準日について、法律の決まりはありません。使用者の裁量に委ねられています。問題は作成された人選基準が合理的だといえるかどうかです。


今回で言えば、基準を変更して、復職日基準を公表したのですから、新基準公表日以降に復職日を設定しなければ合理的だとはいえないと思います。なので、裁判所の判断は、本件人選基準を不合理だと判断した一審判決を覆す理由としては不十分で、労働者側にとっては到底納得できないものだったと思います。


(弁護士ドットコムニュース)