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HOWL BE QUIET 竹縄 × SHE’S 井上、ピアノとロックで繋がる二人が思う“グッドミュージック”

2017年06月11日 13:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Ben Folds FiveやColdplay、Keaneなど、ピアノに重きを置いた海外の「ピアノロックバンド」は昔から高い人気を誇っているが、最近は日本からも若手のピアノロックバンドが次々と登場している。中でも人気なのが、今年5月にメジャー・フルアルバム『Mr. HOLIC』をリリースしたばかりのHOWL BE QUIETと、2016年にメジャーデビューを果たし6月にミニアルバム『Awakening』をリリースするSHE’Sである。両者とも洋楽のエッセンスをちりばめながら、日本人の琴線に触れるようなメランコリックなメロディを歌い、コアな洋楽リスナーから10代のJポップファンまで幅広いファン層を獲得しつつあり、今後さらなる注目を集めることは必至だ。


 そこで今回リアルサウンドでは、HOWL BE QUIETの竹縄航太とSHE’Sの井上竜馬による対談を行なった。共にバンドのメインソングライターであり、ボーカル&ピアノである2人に、お互いの音楽性や新作についてなど、ディープに語り合ってもらった。(黒田隆憲)


(関連:HOWL BE QUIETが確立したポップスの形 『Mr. HOLIC』で壮大なヒューマンドラマを描けた理由


■最も影響を受けたソングライターはクリス・マーティン


――元々お二人は、どんなきっかけで出会ったのでしょうか。


竹縄航太(以下、竹縄):俺は一方的にSHE’Sのことを知っていたんですよ。初めて観たのは、2012年の『閃光ライオット』(10代のアーティストのみによる「ティーンネイジロックフェス」)の収録。僕らHOWL BE QUIET(以下、HOWL)は出られなくて、「どんなやつらが出てるんだ?」みたいな気持ちで(笑)、ファイナルステージの模様を観ていたら、全身黒服で、ピアノロックをやっているバンドが出てきて。「すげえ、こいつらカッコいいな!」と思ったのがSHE’Sでした。ちょうどその頃、僕らもバンドの中にピアノの要素を取り入れようと思って試行錯誤していた時期だったので、色んなピアノロックバンドをチェックしてたんですね。でも、日本で「いいな!」と思うバンドがなかなかいなくて。それで翌年、僕らのオープニングアクトに誘ったのが出会いのきっかけでしたね。


井上竜馬(以下、井上):僕も普通にHOWLのファンでした。ある機会があって、タワレコ限定でリリースしたシングル『GOOD BYE』を聴いて「ヤバイ!」と思って。それですぐ、彼らの1stミニアルバム『DECEMBER』を買いに行って虜になりました。洋楽のエッセンスをうまく消化しているところにシンパシーを感じたし、刹那的な感情をギュッと閉じ込めたような歌詞も魅力的でした。HOWLはサウンドも歌詞も、その頃からだいぶ変化してるんだけど、どちらにも違った良さがあるんですよね。何より、メロディがメチャメチャいい。


――ピアノを弾くようになったのは?


竹縄:幼稚園の時に仲の良かった友達のお母さんがピアノの先生で。そいつの家に遊びに行くついでに習っていたような感じだったんです。気づけばずっと続いてて、中2くらいになって、いわゆる思春期特有の自意識が出てくるまではやっていました。クラシックピアノではなく、例えばSMAPの曲や、Queenの「I Was Born to Love You」など、いわゆるポピュラーミュージックをピアノアレンジで弾いていましたね。


井上:僕も小1から中3までピアノ教室に通っていたんですけど、逆にジャズやポップスはほとんどやらず、クラシック一辺倒でしたね。で、中1でELLEGARDENに出会ってギターを始めて。そこから海外のパンクバンドを聴くようになっていきました。エモが好きになって、Jimmy Eat Worldに出会って。そこからいわゆる「ピアノエモ」を聴くようになり、Maeに衝撃を受けてSHE’Sというバンドをやり始めたんです。


竹縄:俺も中学に入ってからRADWIMPSやBUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのようなギターバンドを聴くようになって。「バンドかっこいいな」と思って高校では軽音楽部に入り、ギター&ボーカルのバンドをやってましたね。HOWLを組んだのは高3の時。その時はまだピアノではなくギターを弾いていました。


――ピアノをバンドに導入するようになったきっかけは?


竹縄:リハで入ったスタジオに、たまたまピアノがあって。いつもギターでやっていた「GOOD BYE」を試しにというか、遊び半分にピアノで弾いてみたら「うわ、すげえいい!」ってなって。ちょうどその頃、Coldplayにハマって聴いていたのもあったので、自分の中でもしっくりきたんでしょうね。なので、ほんと偶然なんですよ。それまで「ピアノを弾いて歌う」という発想は全然なかったので。


――お二人とも、曲作りはピアノで行うのですか?


井上:基本的にはピアノですが、アコギで作る場合もあります。そういう曲は、ライブでもアコギを弾いていますね。楽器に向かう前にまずメロディが浮かんでくるんですけど、その時の曲調によってピアノかアコギかを決める。ちょっと、パズルをしているような感覚はありますね。


竹縄:僕はギターで作ることが多いですね。ピアノで作ると、ものすごく「ピアノっぽい曲」になってしまうんですよ。今作『Mr. HOLIC』に入っている曲だと「208」がそうです。前作『BIRDCAGE.EP』に収録された、「A.I.」という曲もピアノで作りました。


――HOWLの曲が、主にギターで作られているというのは意外ですね。楽曲を聴く限りでは、SHE’Sの方がギターロックっぽいというか。ギターで作った曲という感じがしますけど。ちなみに、お二人が最も影響を受けたソングライターは誰ですか?


竹縄:それはもう、クリス・マーティン一択ですね。


井上:一択やな(笑)。先日も、二人でColdplayを観に行ったんですよ。


――そうなんですか。クリスの、どのような部分に魅力を感じます?


竹縄:言ってしまえば全部なんですよね。楽曲もそうだし歌声もそう。声の使い方とか上手すぎて……。


井上:俺、「208」を聴いたときは、「竹ちゃんの中のクリス要素、かなり出てるなあ」と思ったよ。アルバムの中で一番テンション上がった。


竹縄:はははは!(笑)。出てたか! それは嬉しいな。でもさ、それを言ったらSHE’Sの「aru hikari」にも俺はクリス要素を感じたよ。


井上:やっぱり、ピアノだけで成立している曲って、お互いクリスの影響が大きいね。


――なるほど。ちょうどアルバムの話が出たので、お互いの今度の新作についてどう思ったかお聞かせください。


竹縄:今作『Awakening』は、今までのSHE’Sの延長線上にありつつも、新しい要素を感じさせるアルバムでしたね。例えば、「竜馬ってこういう歌も歌うんだ!」と思ったのは「Don’t Let Me Down」。曲の雰囲気とかメロディとか、そういう部分で「新しい竜馬きた!」って思いました(笑)。というか、竜馬の根底にはパンクロックがあるんでしょうね。そこがSHE’Sの面白さでもある。あと、さっきも言ったけど「aru hikari」にはやられました。聴いてすぐ彼にLINEでメッセージ送りましたからね(笑)。


――井上さんは、『Mr. HOLIC』をお聴きになってどう思いました?


井上:最初に聴いたときは、とにかく驚きましたね。「いやあ、竹ちゃんバチバチやな」と(笑)。なんていうか、ポマードで髪型を固めているような感じ? メジャーデビューシングル『Monster World』で、インディーズ時代の1stアルバム『DECEMBER』までの流れを断ち切って、新しいHOWLの見せ方をシングルで打ち出してきていたじゃないですか。「これ、アルバムではどんな表情になるんだろう?」と思ってたら、「Daily Darling」(『Monster World』のカップリング曲)の方向性を、さらに突き詰めているというか。あらゆるポップネスが詰まっていたから「もう、腹立つわぁ~」って(笑)。「矛盾のおれ様」とか、何ラップしとんねん、カッコええなあ! って思いましたね。俺も最近、ラップを入れたいなと思っていたところだったので、「うわ、やられた」って。


――「矛盾のおれ様」は、ちょっとR&Bっぽかったりして新境地ですよね。


井上:そうそう。エド・シーランの「Shape of You」みたいな感じもあって。そういう、現在のポップスの美味しいところがしっかり詰まってて、でもそれがあざとく感じない。この嫌味のない感じって、ブルーノ・マーズの最新アルバム『24K Magic』を聴いたときと一緒だったんですよ。いろんなポップスがあるけど、しっかりHOWLになってる。そういう意味でバチバチやな、と。


竹縄:ポマード・アルバムね(笑)。今回、歌詞の面で言えば、本当にもう自分のことをただただ歌おうと思ったんです。今作はスケジュールの関係もあって、俺は作詞作曲に専念し、アレンジはギターの黒木(健志)に託す分業スタイルだったんですけど、そのぶん聴いている人とは歌詞でコミュニケーションが取れるようなものにしたいと思って、自分の中では「サシ飲みアルバム」って勝手に名付けているくらい(笑)、サシで飲んでぶっちゃけているくらいのテンションで書いたんです。だから逆にアレンジは、そういうドロドロの歌詞に対するカウンターとして、すごくポップに仕上げてくれた。それがいいコントラストになっていると思います。


井上:歌詞は俺、正直戸惑いましたね(笑)。『DECEMBER』でも女の人のことは歌ってましたけど、角度が全然違ってて。「こんなん、書くんやな」って。


――確かに。かなり赤裸々な内容ですよね。


竹縄:歌詞に関しては、まず「サネカズラ」を年末に書いて、そこで気持ちよくなっちゃって(笑)。この曲はもともと、僕が2年前に別れた彼女に渡した曲なんですよ。なので、今までずっとHOWLでは歌ってこなかったんです。でも、やっぱりライブでお客さんともっと近づきたかったし、「裸の付き合いをするためには、こういう歌も歌うべきだ」「自分の恥ずかしい部分もさらけ出せば、お客さんとももっとコミュニケーションが取れるはずだ」と思ったんです。ある意味「決意表明」も含めてシングルリリースしたら、そこからタガが外れた感じなんですよ。「やっぱ、俺はこれだな」って(笑)。


■HOWL BE QUIETとSHE’S、歌詞の描写の違いは?


――竹縄さんの歌詞がかなり具体的で赤裸々な内容に対して、井上さんの曲はもう少し抽象的というか。情景描写を綴ったものが多いですよね。


井上:でも、僕もインディーズ時代のアルバムは、7曲中5曲が別れた彼女に向けての歌だったんですよ。その時は俺も気持ちよくなっちゃって(笑)、「これ以上、気持ちよくなったらヤバイ」と思って方向転換した部分もありますね。まあ、自分が好きなバンドも情景描写が美しい歌詞が多いので、自然とそうなっていったところもあったのかもしれないですけど。


――「Someone New」も、別れを歌っているけどすごく達観していますよね。


井上:そうですね。諦めきっているからこそ書けた曲ですね。少なくとも、今までみたいに必死に彼女にかじりつくような歌詞ではない(笑)。「あ、無理なんですね、はい了解です」みたいな。


――ちなみに、別れた彼女に向けて曲を書くというのは、どんな気分なのでしょう?(笑)。


井上:えーっと、これはもう完全に自慰行為ですね(笑)。しかも、「この気持ちは曲として一生残るんだ」っていう絶望感もある。


竹縄:俺は、勝った気持ちになるんだよね。「曲にしたったぞ!」みたいな。「この恋愛において、最終的に何かを得ることができたのは、俺だからな」「曲を作ったというこの強さに、お前は勝てるのか?」って(笑)。


井上:僕は、それはないなぁ(笑)。何なら、「こんな曲を書かされてしまった」という、負けた感の方が強い。自慰行為ってさっき言いましたけど、「まんまと気持ち良くさせられてしまった」的な。しかも、女の子には「この曲、私のことなの」みたいにどこかで笑われてるのかなって。


竹縄:ああ、なるほどね。それは考えたことなかったわ。


――(笑)。ちなみに、「aru hikari」の歌詞はどのように出来たのですか?


井上:竹ちゃんの「サネカズラ」と同じで、3年前に自分の弾き語り用として書いた曲なんです。その時の「死生観」が表れているというか……。制作の息抜きで近所の公園にフラッと行った時、そこには各々の休日の過ごし方があって。一人で歩く若者がいれば、家族で来ている人もいる。老人夫婦も散歩していたりして、そういう一つひとつの生活に愛おしさを感じた瞬間だったんですね。皆それぞれの小さな「光」があって、その中で生きているんだなって思った時に歌詞が浮かんできた。なので、「死生観」といってもどちらかといえばポジティブな生の力が強い曲なのかな。


――HOWLの歌詞では、「Higher Climber」がとても印象的でした。<心が心でいれるように 自分嫌いな僕のこと 愛してみよう>というフレーズはグッときますね。


竹縄:ありがとうございます。この曲は、TVアニメ『DAYS』の2期オープニングソングの話があってから書き下ろしたものなんです。どの世界でもそうですけど、何かを始める時って挫折の繰り返しで。「なんでこう、うまくいかないんだろう」って思うことばかりですよね。だから、このアニメで言うところの「最下層」から始まるわけなんですけど、「最下層」なら失うものは何もないし、ただ登るだけだから強いんじゃないか? って。そんなふうに、自分を励ますように作った曲なんです。


――なるほど。ところで、お二人はどんな人たちに自分たちの音楽が届いて欲しいですか?


竹縄:自分が「サシ飲み」のつもりで書いた赤裸々な歌詞は、別に共感してほしくて書いたわけではなくて。「俺はこう思うんだよね」って発した先に、もし共感してくれる人がいるとしたら、当然それは嬉しいことではあるんですけど、どちらかといえば希望的観測に近いというか。それよりもHOWLの楽曲は、ただただグッドミュージックが好きな人に届いて欲しい。そこはシンプルですね。やっぱり自分は歌が好きで、歌に感動して生きてきたので、自分が受けた感動と同じものを、人に届けたいっていう気持ちが一番強いですね。


――今、様々なスタイルの音楽が溢れかえっている中で、竹縄さんのいう「グッドミュージック」ってなんだと思いますか?


竹縄:きっと人それぞれ定義が違うのかもしれないけど、俺にとっては多分、「ポップ」ということなのかもしれないですね。ポップスって結局、売れたものが「ポップス」じゃないですか。どんなに前衛的なことをやっても、売れればそれはポップスだし。でも、ポップっていうのはそれとは違う。歌モノでメロディが良くて、ポップなもの。アコギと歌だけでも聞けちゃう、みたいな。そういうのは僕はグッドミュージックだと思っています。そこを体現しているのが、クリス・マーティンなのかもしれない。


井上:結局はマーティン・パイセンだね(笑)。僕らもやっぱり先ずはメロディですね。「あ、なんか洋楽っぽいな」っていう感覚は大事にしているというか。洋楽のポップミュージックが好きな人にも聴いてもらいたい。洋楽好きな人って、割とそれ以外聴かない人って多い気がしていて。そういう人たちにも「おお、かっこええやん!」って言ってもらえるバンドでありたいですね。その意思の表れが、今作だと「Don’t Let Me Down」なので、ぜひ届いて欲しいですね。