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『アリスと蔵六』が示す新しいアニメ音楽ーーミト、松井洋平、伊藤真澄、コトリンゴらが作品彩る

2017年06月11日 10:02  リアルサウンド

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 現在放送中のアニメ『アリスと蔵六』で劇伴を務める、TO-MASことTO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST。ミト、松井洋平、伊藤真澄の3名からなるTO-MASは、各人がアニソン業界に留まらない幅広い活動を繰り広げている。そのためだろうか、楽曲もバリエーションに富んだ遊び心満載の仕上がりだ。さらに、同作のエンディングテーマはコトリンゴらtoi toy toiが担当するなど、アニメファンのみならず、音楽ファンも要注目のラインナップとなっている。


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 2015年9月の結成以降、『ももくり』や『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-』といったアニメ作品の劇伴を手がけてきたTO-MAS。メンバーには、バンド・クラムボンでリーダーを務めながら、アニメ声優への楽曲提供や『終物語』(以上、TOKYO MXほか)のオープニング制作など、多岐に渡って活動しているミト。多くのアニメ作品や声優に歌詞提供をしながら、テクノポップユニット・TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDで『おそ松さん』(テレビ東京ほか)や『この美術部には問題がある!』(TBS系)などのエンディングテーマも手がけた松井洋平。自身もシンガーとして活動しつつ、『境界の彼方』(TOKYO MXほか)シリーズや『IS〈インフィニット・ストラトス〉』(TBS系)など、多数のアニメ作品へ楽曲提供をしてきた伊藤真澄がそろう。


  そんな三者三様に活躍を見せるTO-MASが今回担当した『アリスと蔵六』は、第1話が“フィルムスコアリング”だったことも特徴的だ。フィルムスコアリングとは、ほぼ完成している状態の映像に合わせてあとから音楽をつける、という手法。最近のアニメでは、多くが映像と音楽制作は別でおこなわれている。音楽は“この場面にはこういう曲を”というイメージ指定が書かれたメニュー表をもとに作られ、その後出来上がった映像に合うように尺などが編集されるのが普通だ。しかし、フィルムスコアリングの場合、シーンの長さや場面の雰囲気に合わせて曲が作られるため、作品の世界観をより一層音楽に反映させることができる。制作スケジュールがタイトなアニメの現場ではこうした手法を取り入れるのは容易いものではない。その点からも、本作がいかに音楽にこだわっているかがうかがえるだろう。


 TO-MASは、曲の核となる部分を3人それぞれが分担して作っているため、曲ごとに異なる表情に触れられる。日常シーンでは、コロコロとした鉄琴や笛の音色が印象的なアナログ感の強いサウンド、戦闘シーンではデジタル色の濃いアプローチなども見られるが、総じて凝ったリズムの楽曲が多い印象だ。『アリスと蔵六』は時折ヘビーなストーリー展開もあるものの、音楽が比較的軽やかに作られていることで、さほど悲壮感を漂わせないような仕上がりになっている。
 また、『アリスと蔵六』のエンディングテーマ「Chant」は、伊藤真澄も在籍するtoi toy toiが担当している。メンバーは伊藤のほか、昨年映画『この世界の片隅で』の音楽で脚光を浴びたコトリンゴ、Babi、良原リエからなる、トイピアノをメインとするカルテットだ。toi toy toiは、前クールのアニメ『小林さんちのメイドラゴン』(TOKYO MXほか)で音楽を担当していたことも記憶に新しい。


 この『小林さんちのメイドラゴン』では、同じく音楽に伊藤真澄とミトも参加しているほか、エンディングテーマの「イシュカン・コミュニケーション」の歌詞を松井洋平が担当するなど、それぞれ個人名義ではありながらもTO-MASメンツも集結していた。さらに、コトリンゴは過去にミトのソロアルバムにも参加するなど、個々のつながりも深い。このあたりからも、今回の『アリスと蔵六』にそろったクリエイター陣の相性の良さがうかがえるだろう。


 このように、豪華音楽制作陣が集った『アリスと蔵六』。これまで、アニメ音楽は専門の劇伴作家が手掛けるパターンが主流だったが、こうしてアニメ以外のジャンルでも活躍するアーティストたちが続々と参入することで、音楽ファンも取り込んで新たなアニソンの潮流が生み出されていくのではないだろうか。(リアルサウンド編集部)