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乃木坂46 3期生、“継承”の公演を経てグループの可能性はより豊かに

2017年06月10日 19:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 乃木坂46の『三期生単独ライブ』が5月9日~14日にかけて、渋谷・AiiA 2.5 Theater Tokyoで開催された。今年2月の舞台公演『3人のプリンシパル』などにも見られるように、乃木坂46の3期生たちの初期活動は1期・2期メンバーと一定の距離を保ち、同じグループに所属しながらも別働隊に近いシフトをとっている。1・2期生と3期生の経験値の差が大きく、また1・2期生によって担われている現行の乃木坂46がグループとして成熟期を迎えていることを考えれば、この距離感は妥当なものといえる。また、5年を超える歴史を持った乃木坂46が、さらにその先へ無理なくキャリアを紡いでいくためにも、未来を担う3期生のみで表に立つ場が早々に用意されていることは意義深い。


 今回の単独ライブで志向されたのは、何よりメンバーの現在のパフォーマンスを素直に見せることだった。セットリスト序盤にダンスパートを組み入れ、そこから「インフルエンサー」や「命は美しい」といった高難易度の楽曲を印象的に見せていく。装飾的な演出は控え、あくまで現行の彼女たちのフィジカルで勝負しようとする姿勢に、3期生にこれから何を期待していくのかがうかがえる。連日のライブパフォーマンスの蓄積によってキャリア初期を足固めしていくというあり方は、過去の乃木坂46とは異なる、3期生特有の道程だ。


 活動初期段階でライブパフォーマンスの基礎固めに注力することには、キャリアやスキルに大きな差がある先輩メンバーと同じ場に立つための準備という意味合いも大きいだろう。既存の乃木坂46メンバーは大会場でのライブを繰り返し経験し、あるいはアンダーライブで様々な達成を積み重ねて現在のポジションにいる。その中に自然にフィットしていくためには、まだ時間が必要なはずだ。現状、3期生にとって一つの「ホーム」であるAiiA 2.5 Theater Tokyoは、彼女たちがグループに完全に合流する日に向けての修練の場になっている。


 3期生のみでの公演が続くことは、適切な速度で成長を重ねられる利点を持つ一方で、1・2期生との距離感を常に感じさせるという性質もともなっている。乃木坂46のシングル表題曲や代表的なユニット曲が披露されていく中で強調されるのは、スキルの差よりもむしろ、それらの楽曲がまだ部分的に「借り物」としての性格を残していることの方かもしれない。


 ライブ中に流されたVTRの中に、「先輩が好きだけど 私たちは同じじゃない」というフレーズが登場する。文字にすれば、新たな歴史を歩む3期生たちの矜持のようにも解釈できるが、そのフレーズに前後して3期生メンバーが述べるのは、現状まだ手の届かないところにいる先輩メンバーへの畏怖である。とりわけ、そうしたメンバーの感慨が語られるVTRを挟みながら披露された、「偶然を言い訳にして」「せっかちなかたつむり」などのユニット曲パートは、先輩メンバーの姿を常に意識させるパフォーマンスとなった。乃木坂46が恒例にしているバースデーライブでの曲披露に象徴的だが、これらの楽曲は特定の既存メンバーあるいは卒業メンバーにいまだ強く紐づいている。そうした先達のイメージに重ね合わせられることは、作品が継承されていくうえで常ではある。やがて、3期生が独自のキャリアを重ねることで、そのイメージに拮抗していくような色が強くなっていくはずだ。歴史を重ねつつも大規模なメンバーの循環をまだ経ていない乃木坂46にとって、現在は継承の入り口特有の空気感を感じることのできる、稀有な時期なのかもしれない。


 そしてもちろん、3期生単独での活動を続けるからこそ、12人編成のユニットとして独自のカラーも手にし始めている。伊藤理々杏、大園桃子、久保史緒里、山下美月、与田祐希ら複数のメンバーで楽曲ごとに可変的にセンターポジションを担うことで、3期生にはすでにさまざまなパターンの陣形を見せる柔軟さを持ちつつある。これは乃木坂46のキャリアや楽曲のアーカイブを引き継ぎながら、別働隊として活動するゆえに試すことのできるものだろう。これまでの乃木坂46になかったスタンスでキャリアを積む3期生が独自の成長を遂げ、やがて乃木坂46の新たなバリエーションとして定着していくならば、グループの層もまた一段、豊かなものになる。


 ギター・鍵盤・パーカッションの生演奏とともに披露された「悲しみの忘れ方」「何度目の青空か?」「きっかけ」、そして大園のピアノ演奏による「君の名は希望」は、メンバーの歌唱をシンプルに聴かせるパートであると同時に、3期生が間違いなく乃木坂46の基調を引き継ぐ者たちであることを示すものだった。同時に、彼女たち自身に紐づく「三番目の風」「思い出ファースト」は、1・2期生とは異なる彼女たちオリジナルの歴史のスタートとして、アンセムになっていく予感を見せた。乃木坂46の中で特異な立場にある彼女たちがどのように成熟し、グループの顔を担っていくのか。グループ全体が最盛期を迎えつつあるゆえに、その先に希望を見せる3期生のポテンシャルにも大きな期待がかかる。(香月孝史)