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乱立する「地下アイドル」、悲惨な懐事情…「最低賃金」を下回っても問題ない?

2017年06月10日 10:23  弁護士ドットコム

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マイナーなグループも含めて、乱立している「地下アイドル」。その裏側を描いた週刊朝日の記事「月給138円、CD1千枚購入するファン…地下アイドルの裏事情」(ウェブでは5月26日公開)が話題になった。


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ファンの少ない地下アイドルの悲哀がまとめられているが、あるグループでは、月の売上のうち、半分は経費として引かれ、残った半分のうち、その半分を運営サイドにもっていかれ、残りをメンバーで分配することになるが、メンバーが多いとさらに分割されて、減ってしまうそうだ。その結果、月給138円の時があったという。


今年の1月には、仮面女子のメンバー・窪田美沙さんが、初月の給料が700円だったことを告白して、話題になったが、一方で、寮費やレッスン代などは無料で受けられたそうだ。


普通の労働者であれば、最低賃金が適用されるため、このような「薄給」はありえないようにも思えるが、アイドルは労働者として扱われるのだろうか。太田純弁護士に聞いた。


●タレント通達、4つのポイント

芸能人、アーティスト、スポーツ選手に関連して、「労働者」に該当するか否か、労働関係法令の適用が問題となったケースは過去にもいくつか存在します。


労働時間に関する制限が適用されるか、労働組合に関する法制が適用されるか、などの場面が挙げられます。


たとえば、労働時間に関しては、いわゆる「タレント通達」(昭和63年7月30日 基収第355号)によって、


(1)本人の提供する歌唱、演技等が他人によって代替できず、本人の個性が重要な要素となっていて、


(2)その報酬が労働時間に応じて定まるものではなく、


(3)労働時間の管理の面で原則として拘束を受けず、


(4)契約形態が雇用契約でない


場合には、そもそも労働基準法の「労働者」に該当しないとされています。


具体的には、労働者に該当するか否かは、実際の就労実態と契約形態を、契約の名称だけでなく、実質的に見て検討する必要があります。ですから、地下アイドルが労働者かどうか、最低賃金が適用されるかどうかは、個別の事情に応じたものになるでしょう。


●基本的な構造は今も昔も同じ

音楽ビジネスの売上がレコードやCDといった現物の媒体に大きく依存していた時代でも、いわゆる「手売り」といって、地道に各地の会場で地方公演を行い、レコード等を自分の手で売る方もいましたが、メジャーデビュー前の方、あるいはメジャーデビューしても、多くはそのような地道な活動をしていたように思われます。


最近では、撮影会や握手会を実施したり、そのチケットをCD等に付けたりなどして売り上げを伸ばす努力をしたり、ファンとの距離を依然より一層近くに設定したりしている方も、増えたように思われますが、売上が伸びない、未だそれほど売れないときに、どのような収入の現実が待っているかといえば、基本的な構造としては、今も昔も同じです。


音楽だけでなく、スポーツの世界でも、日本ランカークラスの方、世界に挑める活躍をしている方でも、生活を支えるために、飲食店や警備員などのアルバイトをしながら、夢に向かって努力を重ねている方は珍しくありません。


しかし、そうした夢を見る若者に付け込んでは、なりません。


例えば、飲食店で接客や清掃などもする、タイムカードで雇われたスタッフが、ステージ上で、たまにパフォーマンスをする、といったときに、「あなたを歌のために雇っていて、今日はお客から歌のリクエストがなかったからタダ働き」などというのは論外です。こうした例では、労働時間に応じた時給を請求できるのは当然です。


育成や生活にかけた事務所側の諸経費に関しては、契約終了時点で返還を求められたりするケースもあると聞きます。あるいはそれを逆手に、なかなか辞めさせてもらえない、次のステップに進めないというケースもあると聞きます。


契約書にサインをする前に、その内容をきちんと点検して、夢だけを見ずに、自分がどういう契約や活動実態の中で今後活動していくのかを、よく確認していただくことが大事かと思います。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
太田 純(おおた・じゅん)弁護士
訴訟事件多数(著作権、知的財産権、労働、名誉棄損、医療事件等)。その他、数々のアーティストの全国ツアーに同行し、法的支援や反社会的勢力の排除に関与している。
事務所名:法律事務所イオタ
事務所URL:http://www.iota-law.jp/