トップへ

AI、「最後は必ず正義が勝つ」をMステ披露 新作『和と洋』に表れた“横断する”アーティスト性

2017年06月09日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 AIが6月7日に約4年ぶりのオリジナルアルバム『和と洋』をリリース。本日6月9日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演し、リード曲の「最後は必ず正義が勝つ」をパフォーマンスする。


 同曲はテレビ朝日系木曜ドラマ『緊急取調室』主題歌。ボーカルエフェクトの効いた声で度々繰り返される「最後は必ず正義が勝つ」のフレーズが印象に残る一曲だ。世の中に蔓延する様々な“悪”にはいつか報いが訪れるという強いリリックが、デジタルサウンドのトラックにのせてメッセージとして届けられている。


 先日公開された同曲のMVでは、日本人クリエーター・ten_do_ten(テン・ドゥ・テン)を起用。8ビットビジュアルを用いて、AIがキャラクターとして登場するアニメーション仕立ての映像が完成した。AIが迫りくる“悪”と立ち向かい、ステージを次々とクリアしていく様は、歌詞のストーリーともマッチしている。


(関連:USヒップホップ主要都市アトランタで今誰がアツい? 現地のヒットチューンを渡辺志保が解説


 『和と洋』は、日本語詞曲を収めた「和-Disc」と英語詞曲を収めた「洋-Disc」の2枚組。AIが感じる「日本の良さ」「海外の良さ」を融合し、パッケージングしたアルバムだ。同作におけるビジュアルのトータル・プロデュースを手掛けたのがイギリス在住のアートディレクター、ケイト・モロス。「最後は必ず正義が勝つ」のMVは、ケイト氏が“海外から見た日本”をテーマに、日本の文化の一つである「ゲーム」をモチーフとして取り入れたのだという。また、サウンドでもゲーム音楽のテイストを意識的に取り込みながらも、世界で活躍する日本の音楽集団・鼓童とフィーチャリング。和太鼓をはじめとした和のサウンドを加えることで、AIならではのボーダーレスなサウンドに仕上がった。このように、「最後は必ず正義が勝つ」は、アルバム『和と洋』の世界観がサウンドとビジュアル面において表現されている一曲でもある。


 『和と洋』は、AIが掲げた「世界の人には『和』の良さを、日本の人には『洋』の良さをそれぞれ伝えたい」という明確なコンセプトのもと、音楽性をとことん追求し、コアな音楽リスナーをも満足させる充実した作品となった。「和-Disc」では先ほどもふれた鼓童をはじめ、東北・岩手県に拠点を置き、日本の伝統文化と音楽を融合させた独自の世界観を創出する姫神/星吉紀、ネットラップとストリートを繋ぎ、ファッションからネットスラングまでジャパニーズカルチャーをリリックに落とし込んで世界に発信するラッパー・Jinmenusagiといったゲストを招いて制作された。トラディショナルとトレンドがまざりあった、AIが思う「和」のイメージが体現されている。


 一方「洋-Disc」でも、デビュー曲「Run It!」が大ヒットしたグラミー賞R&Bシンガーのクリス・ブラウンにはじまり、「One Blood」を代表曲に持つレゲエ界のキーパーソンであるジュニア・リード、ジャスティン・ビーバー feat.ドレイクの「Right Here」を手がけたエリック・ベリンジャーといった一流の客演を迎え、英語詞だからこそ表現できたセクシーかつ王道のR&Bを聴くことができる。


 AIはなぜ今ここまでコンセプチュアルで、徹底的にこだわった作品を作り上げたのだろうか。それには、AI自身と周辺の環境の変化が大きく影響している。AIは2015年にデビュー15周年を迎え、11月にオールタイムベスト『THE BEST』をリリース。同年8月には女児を出産した。そのような経験を経て、自身のルーツに改めて立ち返る機会を迎えたようだ。L.A生まれの鹿児島育ち、英語も堪能なバイリンガル。L.A.のアートスクールでダンスを学び、ラップもできる。SOUL、R&B、HIPHOP、DANCE、POP……音楽のジャンルを自由に表現し、オーバーグラウンドでもアンダーグラウンドでも活躍することができるーー『和と洋』はまさに、国境やジャンル、シーン、さまざまな垣根を横断して活動するアーティスト・AIの姿を映し出した作品であり、感じるがままに作品を生み出そうとするAIの決意表明を示したアルバムでもある。


 今作『和と洋』で改めて感じたのは、AIはあくまでシンガーソングライターなのだということ。AIは「Story」「みんながみんな英雄」といった代表曲をいくつも持ち、ドラマ主題歌やCMソングも多数担当してきた。ゴスペルクワイヤで培った素晴らしい歌唱力にスポットライトがあたりがちだが、自分発信で音楽を表現すること、新たな音楽を生み出すことへの意欲的な姿勢がうかがえる。AIというアーティストは、おそらく世間が思う以上にクリエイティビティに溢れるアーティストだ。


 AIはアルバムを携えた全国ツアー『AI TOUR「和と洋」』を9月9日の川口リリア・メインホール公演を皮切りにスタートする。ライブでは、どのようにして「和」と「洋」の世界を創出するのだろうか。ダンスパフォーマンスや舞台演出も含め、新たなエンターテインメントのかたちを提示してくれることだろう。(久蔵千恵)