あまりの疲労や落ち込みから、食事や入浴といった日常動作に面倒くささを感じ、後回しにした経験はないだろうか。多くの場合はストレス発散などで気を持ち直し、再びいつも通りの健やかな生活に戻るわけだが、一方で、生活を立て直すタイミングを逃し、ゴミ屋敷と化してしまう人もいる。中にはついに気力も尽き果て、荒れた部屋の中で孤独死するケースもあるという。
こうした、生活環境や栄養状態が悪化しているにも関わらず、改善する意欲や周囲を頼る気力が沸かなくなってしまう状態を、セルフネグレクト(自己虐待)と呼ぶ。かつては一人暮らしのお年寄りを中心に見られたこの現象が、近頃は若い世代で増加しているという。
仕事の愚痴を誰にも言えず、ゴミに囲まれながら孤独死した30代女性も
フジテレビの情報番組「ノンストップ!」で6月8日、仕事のストレスからセルフネグレクトになり亡くなった30代女性のケースを紹介していた。
女性は一人暮らしだったが、仕事が忙しく、帰宅が深夜になりがちで、時には疲れのあまり着替えもせずに眠ってしまうこともあった。食事も出来あいの物で済ませることが多く、掃除やゴミ出しなど、快適な生活を維持する行為は徐々に滞っていった。
仕事では、溜まった疲れからミスを発生させてしまい、そのミスをカバーするためにまた長時間働き疲弊するという悪循環にはまったが、本人はそれに気づかなかったようだ。同僚や友人からの食事の誘いは「仕事があるから」と断り続けているうち、人間関係も希薄になっていった。
親に電話をするも、心配をかけまいという思いから愚痴をこぼすこともできず、仕事のストレスを一人で抱える他なかったようだ。そしてその間にも、部屋のゴミ袋は増えていった。
ある日、出社してこない彼女を心配した同僚が部屋を訪れると、天井までうず高く積まれたゴミの山の中で亡くなっているのが発見されたそうだ。死因は心不全だったという。
通常なら、片づけたり掃除をしたりと、住みよい環境を確保するため何らかの対策を講じるだろうが、そうした「自分が生きるための努力」が出来ず、ひたすら無気力になっていくのがセルフネグレクトの恐ろしさだ。
「好きなものしか食べない」「歯磨きや入浴が億劫」は要注意
高齢者のセルフネグレクトは配偶者やパートナーとの死別・離婚、リストラなど、社会的な人間関係の断絶が引き金になっていた。しかし若い人の場合、仕事の深刻なストレスやそれに伴う精神疾患をきっかけとするケースが多いという。
スタジオでは、遺品整理業者の石見良教さんが「セルフネグレクトは誰でもなる可能性がある」と警鐘を鳴らす。「物をなんでも積み重ねる」「好きなものしか食べない」「歯磨きや入浴が億劫」などが日常化している人は、かなり危険だそうだ。
セルフネグレクトで孤独死した人の部屋には、「自分を管理する」「断酒、継続は力なり」といったメモが壁に貼られていることが多いそうだ。これは「荒れた部屋を戻そうとした痕跡」であり、自分の異常さに気付き、改めようとした証拠だ。しかし、決意を継続できず無気力になるのを繰り返したのち、雑然とした部屋の中で亡くなっていくのだ。
こうした背景もあってか石見さんは、セルフネグレクトを防ぐための心がけとして「強制的に人を家に呼ぶ。出来ないのであれば、誰でもいいから周りにSOSを発信する」と、人を頼る重要性を説く。
ただ、先ほどの30代女性のように誰にも相談できず自分を追い込む人にとっては、自分から助けを求めるのはハードルも高かろう。匂いや様子から異変を感じた周囲が躊躇せず本人に声をかけることも、孤独死回避には有効な手立てかもしれない。