ハースF1チームのチーフエンジニアとして今年で2年目を迎える小松礼雄氏。創設2年目の新興チームであるハースはどのようにF1を戦うのか。現場の現役エンジニアが語る、リアルF1と舞台裏──F1速報サイトでしか読めない、完全オリジナルコラムの第7回目をお届けします。
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今回はモナコGPを振り返りたいと思いますが、今回はいろんな意味でチームの成長を感じられた良い週末になりました。まずはグランプリウイークの最初からマシンのベースセットアップが悪くなかったこと。モナコは特殊なサーキットなので、結構セットアップが通常と変わるのですが、去年に比べ、良く対応できていたと思います。
クルマのベースが良かったので、あとは「どうすれば予選でうまくウルトラソフトタイヤを使えるか」ということに集中してセッションを進めることができました。これもまた2年目に入ってチームが成長した結果です、
ケビン(・マグヌッセン)はFP1~FP3を通じて、とても良い仕事をしてくれました。路面状況の変化に応じてタイヤを辛抱強く使用し、ラップタイムを一歩一歩出していく、という作業をしっかり積み重ねていました。僕の予想を超えるパフォーマンスを発揮してくれました。
ただし、彼の課題である予選の速さに関しては、またしても大事な局面のQ2で力を発揮することはできませんでした……。当然、プレッシャーがその肩にのしかっているとは思いますが、それがF1です。
予選後にケビンと話したところ、特にQ2で状況把握がちゃんとできておらず、自分の周りで何が起こっているのか、しっかり判っていなかったんです。そのような精神状態ではモナコで1周をきちんとまとめるのは難しくなります。
とはいえ、ケビンはまだ若いし、速さもありレースもちゃんとできるので、あとは予選のプレシャーの中で自分をコントロールしていければ大きく進歩する可能性を持っています。
対するロマン(・グロージャン)は、FP1からウルトラソフトの使い方に苦しんでいました。特にFP3が悪くて、もうほぼ崩壊状態でした(苦笑)。ロマンはどちらかというとフラジャイル(繊細)なドライバーで、物事が上手く行っていないと崩れやすいんです。
だから、そうなった場合に彼の本当のところでの“自信”を失わせないようにしないといけません。時々、自分のミスをマシンのせいにすることがあったりするのですが、それって彼の自己防衛のメカニズムなんですよね。
本当に自分のせいじゃないと考えている時もあるし、逆にそうは思いたくないからクルマのせいにしているという場合もあるんです。彼がそう思いたくない時に、強引に「お前のミスだ」と言っても良い結果にはつながらないので、そこは僕らがしっかり見極める必要があります。
モナコGPでロマンは、「マシンの何かがおかしい」と語っていましたが、僕はデータをずっと見ていて確信があったので、「そうじゃない。マシンは何もおかしくない」と指摘したんです。
長いこと話し合いましたが、彼はその意見をちゃんと受け入れて、予選までにしっかり勉強し、ドライビングを修正してくれました。それが予選8位を獲得できた最大の要因です。
ロマンはもともと速いので、彼が自信を持って走れる環境を用意してあげられれば、最悪のFP3から予選8位まで挽回することも可能なんです。それを成し遂げられるところが彼の能力の高さだと思います。
ただし、昨年までのチーム力だったら、彼にそこまで言い切れるほどの根拠のあるデータを出すことはできなかったんです。今季はデータ自体も良くなったし、その解析能力も上がったからこそ、そこまで言えるわけです。僕がそれだけ自信を持って伝えるということは、ロマンとしても受け入れやすかったはずです。
彼とは長年の付き合いですし、すでに信頼関係があるので、いい意味で喧嘩ができるし、いろいろ言い合ってもふたりの関係が悪くなることはありません。本当に必要な時にそれができるかどうかが鍵になるわけで、今回はそれがうまくいった好例でしたね。
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