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「指名手配犯」とやりとりした弁護士、居場所を捜査機関に連絡する義務はある?

2017年06月08日 10:24  弁護士ドットコム

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昨年7月に福岡市博多区で起きた金塊窃盗事件で、公開手配していた2人の容疑者が5月29日、窃盗容疑で福岡、愛知両県警に逮捕された。


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報道によると、この事件をめぐっては、別の窃盗容疑で逮捕された容疑者と接見している弁護士が5月28日、2人の容疑者について、近く出頭させる意向を明らかにしていた。


弁護士は、報道機関に対して、「近日中に指名手配中の2人を出頭させたうえ、それぞれの弁護人とも協議し、しかるべき対応を検討する」とメールで伝えてきたという。


弁護士は当時、2人の所在を明らかにしていなかったが、一般論として、もし容疑者の居場所や連絡先を知っているにも関わらず、何も手を打たなかった場合、弁護士が罪に問われる可能性はあるのだろうか。荒木樹弁護士に聞いた。


●捜査機関に通知する義務はない

結論として、弁護士が容疑者の居場所や連絡先を知っていたとしても、それを捜査機関に通知する義務はなく、問題ありません。むしろ、秘密にすべき義務があるともいえます。


弁護士法23条は、「 弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う」と定めております。


ここでいう秘密とは、一般に知られていない事実であって、本人が特に秘匿しておきたいと考える成立を持つ事項を差すと言われていますので、逃亡中の被疑者にとって、その所在が秘密に含まれることは当然です。


これに反して、その事実を捜査機関等に明かすことは、秘密漏示罪(刑法134条)に該当しうることになりかねません。


弁護士は、刑事訴訟法上も、民事訴訟法上も証言拒絶権を有しており、弁護士の秘密保持義務については、法律上、強く保障されています。


これは、弁護士の職務上、本人が打ち明けた秘密の保持が保障されなければ、依頼者との信頼関係は構築できず、職業としての弁護士の存立が保障されないからです。


ただし、これは、その秘密を漏示しないという限度で保障されているのに過ぎませんから、積極的に逃亡犯人を匿ったり、身代わり犯人を出頭させることは、逆に、犯人隠避罪(刑法103条)に該当しかねません。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
荒木 樹(あらき・たつる)弁護士
弁護士釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取扱っている。
事務所名:荒木法律事務所
事務所URL:http://obihiro-law.jimdo.com