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『ウォー・マシーン』監督が語る、俳優・製作者ブラッド・ピットの魅力 「数少ない本物のスター」

2017年06月07日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ブラッド・ピットが主演・プロデュースを務めた映画『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』が現在Netflixにて独占配信されている。実在の人物であるアメリカ陸軍将軍スタンリー・マクリスタルを描いたマイケル・ヘイスティングスの原作から着想を得た本作では、ひとりの将軍グレン・マクマホンの栄光と衰退を通して、現代の戦争の裏側に迫る模様が描かれる。リアルサウンド映画部では、本作のプロモーションのため来日したデヴィッド・ミショッド監督にインタビュー。戦争映画を撮ろうと思った理由や、役者とプロデューサーを兼任したブラッド・ピットの魅力、そしてNetflixの可能性についてまで語ってもらった。


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ーーこれまで『アニマル・キングダム』や『奪還者』など重厚なバイオレンス作品を手がけてきたあなたが戦争映画を撮るというのは少し意外な気もしたのですが、もともと戦争を題材にした作品を撮りたいという願望はあったのでしょうか?


デヴィッド・ミショッド(以下、ミショッド):もともと僕はアメリカ軍に関する映画を作りたかったんだ。僕は“戦争=イラク、アフガニスタンでの戦い”だと思っていて、そんな戦場にいる兵士たちの姿を描きたかった。だけど、自分の中で映画として伝えるストーリーを見つけ出すことができずに、ずっと手をつけられずにいた。そんな中で出会ったのが、ブラッド・ピットの制作会社であるプランBから教えてもらった、マイケル・ヘイスティングスの原作だったんだ。


ーー原作を読んだ感想は?


ミショッド:自分がこれまで目にしてきたものとはまったく異なるものだった。従来の戦争ものにはなかったような要素がふんだんに盛り込まれていて、軍隊の描写に関してもものすごく厚みがあった。そこで僕は、大将や将軍といった上層部の人間と、実際に戦地で戦っている兵士たちの隔たりを描きたいと思ったんだ。上層部の人間たちの妄想めいた不条理な部分をコメディとして描き、実際に戦地で戦う兵士たちの体験を残酷でリアルに、そして悲しく描くことで、戦争に対する両者の根本的な捉え方の違いを伝えたかった。


ーーオーストラリア人であるあなたがアメリカ軍を描きたかったというのも少し意外な気がしました。


ミショッド:アメリカは戦争に関して、世界中に大きなインパクトを与えている。その影響は世界中の誰しもが受けていることで、僕はそのひとりとして、何かを発信する権利がある。それにオーストラリア軍は、ベトナムや朝鮮半島、中東などにも参戦し、アメリカに非常に近い同盟国として、アフガン戦争でもアメリカ軍と密接に行動をともにしてきた。僕はオーストラリア人として、そんなアメリカのリーダーたちに疑問を投げかける権利も責任もあると思ったんだ。


ーーそんなアメリカ軍のリーダーであるグレン・マクマホン将軍をブラッド・ピットが演じています。このキャラクターはどのように作り上げていったのでしょう。


ミショッド:まず第一に、ブラッド(・ピット)とは戦争の不条理さを体現するようなキャラクターを作り上げていきたいという話をしたんだ。とても大げさでカラフルな役柄にしたいとね。だから、原作の基にもなったアメリカ陸軍将軍スタンリー・マクリスタルをベースにしつつも、早い段階で違うかたちにしなければいけないと考え、名前も変えたんだ。自分のことを“第二次世界大戦で活躍した偉大な将校”と考えているようなキャラクターにしたかったから、ダグラス・マッカーサーやジョージ・パットンを参考にすることもあったし、葉巻を吸ったり、カウボーイのような要素があったりという、当時の肉体的な動作や仕草も取り入れることにした。スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』に登場する、スターリング・ヘイドンやジョージ・C・スコットが演じているようなキャラクターをこの作品でも登場させたかったんだ。


ーーブラッド・ピットの役作りはどうでしたか?


ミショッド:僕自身、以前からブラッドの演技を観るのは大好きだった。彼は映画の世界ではビッグスターだけど、リスクを負うことを決して恐れない、数少ない本物のスターのひとりだと思う。映画スターの中には、ある程度その名を馳せることができたら他はもう何もやらないというような人もいるけれど、ブラッドはそうではない。演じる役柄に対して、心の底から自分の身を預けて、今回のような難しい役にも果敢に挑戦する。監督としては、そういう役者の姿勢はとても力になるし、一緒に仕事をしていてワクワクするんだ。


ーーグレン・マクマホン将軍はコメディ色の強いキャラクターになっていましたね。


ミショッド:僕はコメディを演じている時の彼が特に大好きなんだ。これまで彼は脇役でコメディ色の強い役柄を演じることが多かったけど、今回は主役として、全編を通してその役回りを担ってもらいたかった。その結果、あのような強烈なインパクトのあるキャラクターになったんだ。


ーーブラッド・ピットは主演だけでなく製作も担当していますね。


ミショッド:ブラッドは製作者としても大きな役割を果たしてくれた。非常に複雑でチャレンジングな作品だったにもかかわらず、僕が必要としているスペースを作ってくれたんだ。彼の制作会社プランBは常にフィルムメーカーたちの持っているビジョンを支持しながら、いい作品を多数手がけている。今のハリウッドのスタジオ環境ではなかなか制作するのが難しいような作品で成功を収めているのも素晴らしいことだよね。


ーー今回の作品はNetflixともタッグを組んでいます。劇場公開のないSVOD配信についてのあなたの考えを教えてください。


ミショッド:Netflixは、僕たちフィルムメーカーにとって素晴らしい窓口となってくれる存在だと思う。作りたい作品を作らせてもらえる貴重な機会を与えてくれるし、特に僕の作品は今のハリウッドのスタジオ体制には向いていないからね。『ウォー・マシーン』のようなチャレンジングな企画をはじめ、オリジナルで珍しい作品であっても、潤沢な予算で映画を撮ることができるのがNetflixの強みと言える。それに、僕の過去2作、『アニマル・キングダム』と『奪還者』は劇場でも上映されたけど、全鑑賞者の9割は自宅で鑑賞したんじゃないかな。もちろん劇場には劇場の良さがあるけれど、僕自身も自宅で映画を観ることがほとんどだからね。どんな上映形態であれ作品は観ること自体に違いはないし、作品はその人の中で生き続けるわけだから。本当に作りたい作品を作ることができるNetflixのような存在は、今後も僕たちフィルムメーカーの大きな希望になると思うよ。(宮川翔)