映画『日曜日の散歩者 ―わすれられた台湾詩人たち―』が、8月から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される。
『日曜日の散歩者 ―わすれられた台湾詩人たち―』は、日本の統治下にあった1930年代の台湾で活動を開始した詩人団体「風車詩社」の足跡を追うドキュメンタリー作品。台湾・台南を拠点に、日本の文学者との交流や日本への留学を通じて、ジャン・コクトーや西脇順三郎、瀧口修造といったシュルレアリスムの詩人による影響を受けながら、同化政策のもとで母国語ではない日本語で詩作を試み、日本の敗戦後には中国国民党の独裁政権による投獄や銃殺といった弾圧を受けた詩人たちの活動を探る。
同作は台湾の『アカデミー賞』にあたる『第53届金馬奨』で最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞。監督をホアン・ヤーリーが務めている。作家の乃南アサは同作について、「日常の激変と苦しみと共に表現の自由さえ失っていく様はあまりにもむごく悲しいが、本作は、彼らの心象風景を、あくまでも美しく描ききっている」と述べているほか、舞踏家の麿赤兒は「驚嘆と深い思いを駆り立たせる映画だ!」と賞賛している。またホアン監督と親交のある研究者の四方田犬彦は「静謐にして優雅。詩と映像の稀なる結婚が、ここに実現された」とコメントを寄せている。
■乃南アサのコメント
自らの言葉を駆使できない苦悩と、日本語を通してこそ知り得たシュルレアリスムの世界。日本統治時代の台湾、中でも古都である静寂の台南に暮らした若者たちの、日常から超越した夢想の世界が絵画と音楽、言葉のコラージュで描かれていく。淀みない日本語、日本人であろうとする衣食住。それでも彼らは台湾人であり、台湾人として日本から刺激を受け、様々に夢見ながらも現実では戦争に巻き込まれていく。やがて自分たちの重要な表現手段であった日本語を禁じられる時代へと突入し、日常の激変と苦しみと共に表現の自由さえ失っていく様はあまりにもむごく悲しいが、本作は、彼らの心象風景を、あくまでも美しく描ききっている。日本人なら誰もが知っている「荒城の月」は、観るものの胸に深く刺さることだろう。
■麿赤兒のコメント
驚嘆と深い思いを駆り立たせる映画だ!
大日本帝国と欧米列強との様々な摩擦の光と影。
その亀裂の迷宮に誘われ赴き、情熱を燃やした日帝時代の植民地台湾に、かの詩人たちがいた!
彼等の熱量の総体を一身に浴びたホアン・ヤーリー監督の映像は膨大な資料と象徴的映像は縦横無尽に駆け巡り、一見混沌の態を呈しつつもその手法は末端まで計算し尽くされている。
いかなる時代・場に於いても、芸術への受難はつきまとう。
それが何かを鋭く問いかけると同時に監督自身の不屈の詩魂を浮かびあがらせる。
■四方田犬彦のコメント
静謐にして優雅。詩と映像の稀なる結婚が、ここに実現された。