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MONDO GROSSOら新作に感じるポップミュージックの可能性 “再構築”で生まれたサウンドを聴く

2017年06月06日 13:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 日本の音楽シーンにもすっかり定着した感があるダンスミュージックは、常に幅広いジャンルのアーティストたちによって、様々な解釈、再構築が加えられ、新しい音楽として生まれ変わっている。そこで今回はあらゆるダンスミュージックから派生した(もしくは影響を受けた)広義のポップ・アーティストたちの新作を紹介したい。


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 大沢伸一によるソロプロジェクト、MONDO GROSSOのじつに14年ぶりとなる新作『何度でも新しく生まれる』は、MONDO GROSSOとしては初めての“全曲日本語詞/歌もの”によるアルバム。シンガーにbird、UA、満島ひかり、齋藤飛鳥(乃木坂46)、やくしまるえつこ、YUKA(moumoon)、“無名の主婦”下重かおり、作詞に谷中敦、宮沢和史などが参加した本作は、多彩な歌と言葉が堪能できるだけではなく、きわめて個性的なダンスミュージックとしても機能している。“エレクトロ、ハウス、ミニマルテクノなどを自在に取り込んだフューチャー・ポップ”というべき本作は、過去の焼き直しでもなければ、現在のトレンドとの関連性もほとんどなく、このプロジェクトの唯一無二性を改めて示している。アルバムタイトルに偽りなし。最高の復帰作だ。


 DATSが、今年3月に発売した1stシングル曲「Mobile」(既に入手困難)を含む待望の1stアルバム『Application』。90年代のハウスミュージック、00年代のエレクトロニカ、10年代のEDM~トロピカルハウスなどのエッセンスを極めて自然に融合させながら、エクスペリメントかつポップなバンドサウンドへと昇華する4人の技術は、本作によって早くも最初の高みに達している。サウンドメイク自体はしっかりと抑制されているのだが、杉本亘(Vo)のエモーショナルな歌声(デヴィッド・ボウイ~デヴィッド・シルヴィアンの系譜を感じます)によって生々しい情感が伝わるところも魅力的。マスタリング・エンジニアにはシングルに続き、砂原良徳を起用。高橋幸宏、LEO今井も絶賛していることだし、METAFIVEとのスプリット・ツアーを希望したい。


 ライブ重視の流れが定着している現在、“これまで一度もライブを行わず、活動は主にソーシャルメディア上のみ”というスタンスを貫いているさよならポニーテールの存在はきわめて興味深いが、楽曲の制作に注力できるという利点は、1年7カ月ぶりの4thアルバム『夢みる惑星』にもしっかりと反映されている。5人のソングライター/ボーカリストによる楽曲は一つひとつがさらに際立ち、ポップ万華鏡というべき音楽世界が体現されているのだ。エレポップ的な手法を取り入れた「フローティング・シティ」、浮遊感のあるテクノサウンドが心地よいヒップホップ・チューン「恋する AI」など、エレクトロ・テイストの楽曲も“ループする世界”をテーマにした本作の軸。ライブでは聴けないので、ぜひ、部屋のなかでひとりで踊りたい。


 結成20周年を超え、“Zeroからの挑戦”をテーマに制作されたというUNCHAINの9thアルバム『from Zero to “F”』。本作における最大のトライアルは、LAのトップライナー(トラックのグルーヴを活かしたメロディを制作、シンガー、バンドなどとコライトするクリエイター)Davey Nateとのコラボレーションによる「Fresher」「Back to Zero」。ここ数年の世界的潮流であるネオ・ソウル、ディスコ回帰の流れを汲みつつも、生々しいバンドサウンドとエレクトロ的なエディット感を融合させたこの2曲は、UNCHAINの新機軸であると同時に、このバンドのルーツにも根差している。結成当初から、ソウル、ジャズ、ファンクなどの要素を取り込んできたUNCHAIN。生楽器のグルーヴを活かした昨今のダンスミュージックのトレンドは、彼らの本来の音楽性ともしっかり結びついているのだ。


 元ふぇのたすのボーカリスト、MICOのソロプロジェクト・SHE IS SUMMERの2nd E.P.『Swimming in the Love E.P.』には、既にライブで披露され、ファンの間で支持の高い楽曲を収録。同じく元ふぇのたすのヤマモトショウと歌詞を共作したエレクトロ・ポップ「出会ってから付き合うまでのあの感じ」(何て良いタイトルなんだ!)、さらにフレンズのひろせひろせの作曲による疾走感たっぷりのポップチューン、注目のAOR系バンド・evening cinemaの原田夏樹が手がけた80sアイドルポップ風ナンバー「うしろめたいい気持ち」など“恋の始まり”をテーマにした楽曲が並ぶ。MICOのフェミニンな歌声もさらに充実。いまの日本のシーンにおける最も良質なポップネスがここにある! と言いたくなる、素敵すぎる新作である。(森朋之)