サービス残業撲滅の気運が高まる中、『日経ビジネス』は6月5日号で「労基署はもう見逃さない あなたが書類送検される日」という特集を組んだ。特集の趣旨としては、経営者や管理職に残業削減への意識改革を促すものだったが、一部表現が物議を醸すこととなった。
「まずは目の前の書類送検をいかに回避するかも重要だ」
同特集では、「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」が誕生した2015年以降、労働基準監督署の捜査が厳格化していることを指摘。15年には、15万5428件の事業所が定期監督を受けた結果、
「1348社が99億9423万円の未払い残業代を支払う羽目に」
なり、966件が検察庁に書類送検されたと報告している。また、残業削減のためには生産性の向上が必要だが、それはすぐに改善することが難しい。
「それはそれで進めるとして、まずは目の前の書類送検をいかに回避するかも重要だ」
と、とにかく「書類送検」だけは免れたいようだ。「企業イメージと信用力を守る方法はあるのか」とも問いかけており、あくまでも保身のために労基署の摘発を免れたいという思惑が透けて見える。
同特集のPART3では、「書類送検『10の回避策』 本当に有効な手はあるか」というタイトルで、「回避策」を検証してもいる。「時間外の仕事は家に持ち帰らせる」にはさすがに「×」が付いているが、社員を個人事業主として業務委託を行えば「労基法を守るという"足かせ"からは解放される」と提案している。
「これまで違反してた意識が希薄すぎる」
企業寄りの内容が目立つが、ツイッターでは「未払い残業代を支払う羽目に」という文言が注目され批判が相次いだ。「残業代未払いの会社が被害者みたいな表現にしてるの?被害者は労働者やろ」というのだ。
「完全経営者目線でちょっと笑えた。これまで違反してた意識が希薄すぎる」
「すっごい労基を悪者扱い」
たしかに、本来払っていて当然のものを払っていないのだから「羽目に」という表現はおかしい。未払い分の支払いが巨額になっても自業自得だ。そこに同情の余地はない。
ちなみに、同誌の媒体資料によると、読者の平均年齢は51.6歳で、男性が94.2%を占める。地位や役職では、「経営・社業全般」が24.2%に上り、平均年収は930.84万円。読者の46.0%が従業員1000人以上の企業に勤めている。つまり経営者や大手企業で管理職の中高年男性が主な読者だということだ。「羽目」や「足かせ」といった表現は、そうした読者を意識してのものだろう。
ただ、同特集の趣旨はあくまで経営者に意識改革を促すものだ。「どんな事情があろうと、過重労働を放置する企業を、労基署はもう見逃さない」と警告を発し、「日本が法治国家である以上、法を守れぬ企業は退場するしかない。甘えや思い込みを捨て、(中略)一刻でも早く働き方改革を完成させる。それ以外にもはや道はない」と呼びかけている。