スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。4月に突如発表されたフェルナンド・アロンソのインディ500参戦。レースはリタイヤに終わったものの、全世界に大きなインパクトを与えた母国の英雄アロンソのインディ500挑戦を振り返る。
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F1はモータースポーツの頂点だ。ファンたちは毎年、5月になると世界は1年の中で最も魅力的なレースであるモナコGPに注目している。しかし、モナコは魅力的ではあるものの、最近ではむしろ退屈に感じる。
しかし、同じ日に救いがあるのだ。5月最後の日曜日、モナコGPの後にもうひとつレースがある。アメリカ最大のレース、インディ500だ。
このアメリカで行われるレースは、モナコと同じくらい見栄えして、さらにより多くの出来事が起こっている。しかし、それでもF1に慣れ親しんだ観客にこのレースを売り込むのは難しい。どうしたらこの状況を変えられるのだろうか。
ひとつの案は、有名な元F1ドライバーたちが大勢インディで走ることだろう。2017年のスペシャルゲストは2度の世界チャンピオンのアロンソだった。
その点では、日本とスペインのファンはこのレースに対し、ホンダとアンドレッティ・オートスポートが彼らのドライバーに勝てるマシンを与えてほしいという共通の願いを抱いていた。
アロンソと佐藤琢磨というまったく異なるストーリーを歩んできたふたりのドライバーは、ある種、同じ運命の元で101回目のインディ500に参戦した。レースでは琢磨が日本人史上初めてとなる優勝を成し遂げた。一方で、アロンソはエンジントラブルによるリタイヤを喫したが、失望だけでなくリベンジへの野望をちらつかせた。
アロンソが4月に行ったインディ500参戦の電撃発表は、ファン、ジャーナリスト、そしてF1でのライバルたちにとっても驚くべきものだった。
しかし、私はこのニュースを聞いて子どものように興奮せずにはいられなかった。エマーソン・フィッティパルディ以降初めてF1のタイトルを2度獲得した男がインディ500に挑もうとしていただけでなく、前年度このレースを制しインディ屈指の名門であるアンドレッティ・オートスポーツと手を組もうとしていたからだ。
スペインメディアはこれに対し、インディ500の伝説に新たな1ページが加わるのではないかと騒ぎ立てた。スペイン史上最高のレーサーが再び頂点に立てるかもしれないという希望にジャーナリストたちは胸を高鳴らせた。
スペイン国内ではF1の新ルールや技術規定によって、ここ最近はF1への興奮をかき消していたからだ。そのためアロンソのインディ500参戦はスペインでは大ニュースとして扱われた。また、2000年からインディカー参戦しているスペイン人としてオリオール・セルビアがいるが、彼は過去17年スペイン国内で人気のドライバーだ。
インディ500がスペイン国内でどれほど影響力のあるかと言うと、インディアナポリスで取材をしているスペイン人ジャーナリストの数は、F1が開催されたモナコにいるスペイン人ジャーナリストの5倍もいたのだ。
実際に、普段F1を追っているスペイン人ジャーナリストのほとんどがインディアナポリスに飛んだほどで、スペインの関心はインディアナポリスに注がれていた。
アロンソは最初のテストから速かった。予選ではファスト9に入り、スペインでもF1時代の走りが有名な琢磨の後ろである5位につけた。アグレッシブで情熱的、そして温かい心の持ち主。それがヨーロッパにおける琢磨のイメージだ。だがヨーロッパの多くの人は彼が競争力のあるマシンでレースをしているシーンを見たことがなかった。
しかし、実際のところ私は琢磨を今年のインディ500の有力候補と見ていた。真摯な姿勢に裏打ちされた彼の勇気、強いマシン、そして歴史に残る勝利への欲求が、彼を単なるファンに好まれるドライバーから真の優勝候補へと昇華させた。
もちろんこれは、インディ500を初めて見たスペイン人ファンに嬉しい驚きを与えるほどの速さを見せたホンダエンジンや、他のどのチームよりもよいマシンセットアップを実現させた素晴らしいチーム力あってのものだ。
事実、アンドレッティ・オートスポーツの琢磨、アロンソ、ライアン・ハンターレイ、それにアレキサンダー・ロッシはレースを通して燦然と輝き、勝利を争っていた。
ホンダエンジンは、非常にアグレッシブである代わりにいくらかの代償を払った。彼らは信じられないほど速かったが、丈夫なシボレー製エンジンと比べると少し壊れやすかったのだ。
実際、ハンターレイとアロンソはエンジントラブルによってレース途中でのリタイヤを強いられた。また、レースが再開された後にスペイン人ドライバーのセルビアが多重クラッシュに巻き込まれ、彼もリタイヤを余儀なくされてしまった。
勝利を争っていたふたりのスペイン人がレースから姿を消したのは、すべてのファンやインディアナポリスまではるばる足を運んだスペイン人ジャーナリストにとっては残念な瞬間だった。
しかし、この悲しい結末にも関わらず、今回のレースは素晴らしい旅のひとつであり、忘れられない思い出のひとつとなった。
アロンソはたとえ完走してもこのレースで勝てなかったかもしれないが、レースをリードしながら戦い、まだトップを争えるスピードがあることを示した。そしてインディカーに興奮を呼び込むことができたのだ。
琢磨は素晴らしいレースで最後のひと押しを決め、全米にその名を轟かせた。2012年に辛酸を舐めた佐藤にとっては忍耐の勝利となり、インディカーにおいてもF1と同じくらい尊敬された人物の勝利だった。私もアロンソと同じように。来年の5月が待ちきれない。