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ゆず、これまでの道のりと新たな一歩ーー音楽への思いこめたデビュー20周年ドームツアー

2017年06月05日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

 4月26日にデビュー20周年を記念したオールタイムベストアルバム『ゆずイロハ1997-2017』をリリースしたゆずが、全国4都市6公演のドームツアー『YUZU 20th Anniversary DOME TOUR 2017 ゆずイロハ』を開催した。5月20日の東京ドームでは、メドレーとアンコールも含めて延べ37曲を披露。多くのファンが社会の喧噪を離れ、この日ばかりはいつかの少年に戻れば、そこはたった一夜の多くのスマイルで満ち溢れていた。


 序盤は、路上時代を彷彿とさせる2人だけの弾き語りで魅せる。メジャーデビュー前に実際に乗っていたという、原付バイクに乗って登場した2人に、会場はドッと沸き一瞬で笑顔が広がった。彼らがデビュー前に路上ライブを行っていたイセザキモールの路地を模した、石畳風のセンターステージで、当時を振り返りながらライブは始まった。


 「まずは、いつも応援してくれるみんなにこの曲を贈ります」と、「贈る詩」が会場に響く。いつもは、アンコールの代わりにファンが歌うことでお馴染みの曲で、それが1曲目というのは実に新鮮だ。また「旅に出かけるという人がいて、そういう人のために書きました」と、歌った「いつか」。さらに「嗚呼、青春の日々」は、「路上が終わって、寂しくて書いた曲」と、曲ごとの思い出を語りながら、観客の顔を見渡すようにして歌った2人。それは、まるでかつての路上ライブを再現するかのようで、アコースティックギターとハーモニカ、タンバリンという実にシンプルな演奏と歌声が、ストレートに胸に響いた。


 2曲目に歌った「サヨナラバス」は、北川悠仁から岩沢厚治のハイトーンでまっすぐな歌声にスイッチしたときが、実に爽快だ。また「嗚呼、青春の日々」は、シンプルなメロディを繰り返す楽曲ながら、エモーショナルな北川のボーカルの上で、岩沢のコーラスが変化することで楽曲を巧みに展開させる。こうした、2人の歌声が融合してこそ成立する楽曲は、ゆずの真骨頂であり、この日の様々な場面で聴かせていた。


 メインステージに移ってのステージは、一転して多彩なアーティストやプロデューサーを迎えて制作したヒット曲を次々と披露した。GReeeeNなどを手掛けるJINが、作曲と編曲に参加した「イロトリドリ」では、観客がタオルを回しながら、楽しそうに振り付けを踊る。ヒャダインこと前山田健一とのコラボで制作した、疾走感のある「表裏一体」では、エレクトリックな要素も多く、それ以前にはなかったカッコ良さが光った。また、蔦谷好位置がプロデュースと編曲を務めた「虹」では、ストリングスを交えた壮大なサウンドが、2人のまっすぐなハーモニーと混じり合って、包み込むような広がりを生み出していた。


 20年というキャリアの中で、様々な人と出会い交わることで、自分たちでも気づかなかった魅力を次々と発見して来た2人。先ほどのアコギ中心のサウンドから、多彩な楽器を使い分けるダイナミズムのあるサウンド感への移行は、まさしくゆずという存在の広がりを表現していた。


 後半は、『ゆずイロハ1997-2017』から90歳になった2人によるナビゲートで、笑いを交えながら<ゆずイロハメドレー>を披露。とは言え、このセクションだけで20曲あり、メドレーの枠を遙かに越えたものになっていた。ステージでは、巨大ゆず太郎(ゆずのマスコットキャラクター)が光りながら動き、目にも楽しく魅せて聴かせる。また「恋の歌謡日」では北川が扮する女性=北見川潤子が登場して、続く「LOVE & PEACH」のときには瞬時に北川に戻っているという、イリュージョン(?)でも楽しませた。


 本編の最後には、最新の「タッタ」とデビュー曲の「夏色」を披露した。アコギとタンバリン、2人だけの歌で始まり、徐々にバンドサウンドへと移行する「タッタ」は、キャッチーで分かりやすいサビに楽しい振り付けもある。会場中に散らばったダンサーと共に、観客も一緒に歌って踊る様子は実に壮観だ。また「夏色」では、観客の「もう一回」という声援に「バカヤロー!」と返す流れが定番で、北川は「これからも20年バカヤロー!と言い続けられるように頑張ります」と語り、この日も嬉しそうに「バカヤロー!」を叫んだ。


 この2曲は、出来た時期は20年という隔たりがあるものの、世代を問わず楽しめるという、ゆずの魅力の一つが共通して詰め込まれている。実際に会場には、小さいお子さんから上は60代や70代まで来場し、親子3代でファンというファミリーも少なくない。また、開演前に観客やスタッフ、関係者が全員参加でラジオ体操をするのも、ゆずのライブの定番になっており、ラジオ体操は小中校生のとき以来という大人のファンも多く、ライブが始まる前から童心に返って楽しむための演出が始まっている。この日も、ラジオ体操に始まり「夏色」まで、童心に還って一心不乱にライブを楽しむ観客の様子があった。


 アンコールでは、「20年経って、振り返ってばかりじゃなく、一歩前へと進んだ姿を見せたい」と、新曲「カナリア」を披露した2人。アコースティックなサウンドに、聴く者の背中をそっと押す軽快なサビ、そしてラップ風のパートもありと、また一つ進化した姿を見せてくれた。そこからは、老舗の味を守りながら、新メニュー開発にも余念の無い飲食店店主の心意気にも似た、音楽に対する2人の熱い思いが感じられた。


 そしてラストを締めくくったのは、「栄光の架橋」だ。「決して平らな道ではなかったけど」と、自身の20周年の道のりを重ねて歌った2人。幾多の苦難を乗り越えて栄光を掴むという歌詞は、まさしく20周年ライブのこの時に、歌うべくして作られたと思うほどのリンクと説得力を持っていた。


(文=榑林史章)